第6話

 翌日。

 昼頃に夏生の実家を出発し、マンションに戻った。


 やり直し誕生日ディナーは、部屋で祝うことになった。

 夏生も健も、二人だけの時間を過ごしたかったからだ。


「乾杯!」

 ワイングラスを合わせた。

「遅くなりましたが、誕生日おめでとう!」


 二人でシャンパンを飲む。

「美味しい」


 健は、たこ焼きを作っている。

 たこ焼き機の穴を、ピックでクルクル回す。


「誕生日遅くなってごめんな。俺、かっこ悪いよな。いいとこ見せようとしてるのに、全然うまくいかない」


 カリッときつね色になった、たこ焼きを皿に盛る。ソースとマヨネーズと青のりを乗せ、完成した。


 シャンパンとたこ焼きの謎の組み合わせが、夏生は好きだった。

 たこ焼きを食べ、冷えた甘口のシャンパンを飲む。


 あらかた食べ終わると、次にホールケーキが登場し、蝋燭をつけ、夏生が吹き消す。

 健は軽いキスをし、背後にくっついて座った。


「誕生日のプレゼントさ。夏生と一緒に探したいんだけど…」


 ホールのままのケーキを食べながら、夏生は楽しそうに笑う。

「何?俺が選ぶの?」


「うん。二人で住む部屋を選んでください」

「えっ、部屋?」


 数回瞬きした夏生は、冗談かと思い、健の顔をまじまじと凝視する。


「夏生が就活始めたり、就職したりしたら、もっと会えなくなるだろ。だから、一緒に暮らしたい」


「会いたいのは、俺だけかと思ってた」

「なんでさ」


 後ろから抱きしめた健は、抗議するかのようにぎゅっと力を込めた。


「でも部屋か…親がなんて言うかな」

「だから、夏生の両親に、ちゃんと挨拶したかったんだよ。急に泊まったりして、印象悪くなかったかな?」


「それは大丈夫。芳田も、急に泊まったりしてるし」

「芳田と仲いいよな…友達だってわかってても嫉妬するんだけど」


「健が嫉妬?」

 夏生は驚いた。健が嫉妬していたなんて、夏生は考えたこともなかった。


「そうだよ。嫉妬してるなんて、夏生を不安にさせてばかりの自分には言う資格がないのがわかってたから、今まで言えなかった」


 健が夏生の首筋に顔を埋める。

 健の熱い息を感じながら、夏生は言葉に詰まった。


「好きなんだ。信じてほしい。離したくないんだ。ずっと一緒にいたい」

 健が告げる言葉を信用したい夏生がいる。

 

 食べ終わると、二人でシャワーを浴びた。 

 いつの間にか、浴室の壁際に追い込まれた夏生は、額に瞼に頬にと健の唇を受ける。


 そのままゆっくりと唇を合わせ舌が入り込んだ。

 健の舌が上顎を舐め、背筋が震える。


 背中から腰を何度も往復する健の手は、平らな胸に移り、指先でつまむと、こねて軽く引っ張った。


「ん…」

 夏生は素直に刺激を感じとる。

 

 そして、向かい合った互いの反り返ったものを重ね、夏生と健の手のひら全体で強弱をつけて扱いた。


 鎖骨の辺りを吸われ、ちくっと痛みが走る。


 敏感な場所を責められ、あっという間に高みにのぼりつめる。


 手の動きが早くなる。


「あっ…も…いく」

 夏生の白濁が腹に飛ぶ。

 

 シャワーで流すと、濡れたまま、もつれ合うように部屋に戻り、ベッドに転がった。

 

 甘噛みされた夏生が、小さな悲鳴をあげる。

「あっ」

 もぞもぞと腰が揺れてしまった。


「可愛な」

 健は執拗に舐め回し、時々、歯を立てる。


 健は、夏生の膝を抱え、足の間に入った。

 用意したジェルの瓶を開け、とろりと垂らす。


 顔を上げた健は、びくと反応する夏生の表情を見た。


「ここ、気持ちいい?」

「いい…」


 夏生の体は、健が根気よくゆっくりと慣らし、このように後ろで快感を覚えるまでになった。


 再度、ジェルを足し、ネチョッといういやらしく音が響く。


 健は腰を沈めた。

 先端の圧迫感に夏生は思わず息を止まる。


「夏生。苦しくない?」

 夏生の反応を健はじっと見た。



 





 翌朝。

 目覚めると隣で健が寝ていた。

 タオルケットの下は、二人とも裸だ。


 夏生は瞼を閉じた健の顔をじっくり眺めた。

 乱れた髪の間から覗く眉毛の下の目元のほくろ。シャープな顎のライン。

 じんわりと幸福感に浸る。

 

 狭いシングルベッドで、夏生の背中に回された健の手が動きだす。

 瞼は閉じたままだ。

 寝ぼけてるのか、と思っていると、双丘を揉み始める。


「起きてんだろ」

「うん」

 健は瞼を開け、笑った。


 健の手は止まるどころか、増えていた。

 両手で尻を揉みながら、健は言った。

「同棲の話の続きなんだけど。来年の夏生の誕生日までには、引っ越したいな」


「うん」

 夏生は、同棲に賛成した覚えはないが、反対でもない。


「2DKぐらいかな?大きいベッドも買わないとね」


 徐々に一緒に暮らす生活が現実味をおびてきた。


 男二人の同棲なんて、未来があるのか、わからないが、健の笑顔を見ている時だけ夏生の悲観的な思考が消えてなくなるようだ。


 

 




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