第4話 榊と煌

カイは夜のパトロールがすっかり怖くなってしまい、先輩のさかきに相談した。

榊は成人部の若手で一番の実力があり、地球防衛隊が保有している最も強い武器の一つ、鬼切丸の使い手だった。



「榊さん……俺、もう夜のパトロール行きたくないです……」


「そうなの? 最近、よく宇宙人をうまく保護してるから、順調かと思ってた」


「宇宙人が怖いです……(ツバサも怖い)」


「そうか……。少し、頑張り過ぎたのかな?」


カイは、ぶわっと泣いた。

榊は自分のハンカチを取り出して、カイの涙を拭った。



「ありがとうございます、あの、少しの間だけでいいんで、パートナーを変えてもらえませんか? 同じレベルだと不安なんで、できれば榊先輩にお願いしたいのですが……」


「いいけど。じゃあ、ツバサとこうがパートナーになるね」


榊と煌が普段はパートナーなので、相手を交換するということになる。



「すみません、急に……」


「大丈夫だよ。普段の訓練で同じチームなんだから。ツバサとケンカしたの?」


「……いえ。ただ、俺がパトロールに後ろ向きだと、何かあったときにツバサの足を引っ張っちゃうから」


「そうなんだ。わかったよ」


こうして、その日のパトロールは、パートナーが変わることになった。



♢♢♢



「カイとケンカしたの? パートナー変えるなんて、なかなかないじゃん。結構ヤバいの?」


煌がニヤニヤしながらツバサに聞いた。



「むしろ仲良くなったら、距離をおかれました……」


ツバサはしょんぼりして言った。



「え? どういうこと?」


「僕は……カイのことは好きだし、尊敬してるからもっと仲良くしたいんですけど、カイはそれが嫌みたいで……」


「あんまりしつこくしたらダメだよ。避けられたら元も子もないじゃん」


「でもっ! こんな可愛いカイを見て、平気でいられる方がおかしいと思うんです!」


ツバサは、先日のクラゲ星人の動画を煌に見せた。



「おやぁ……なにこの触手系エロ動画……。うんうん、触手の形が変わるなんて、クラゲ星人にそんな能力があるとはね……。で、うん、あら、カイったら、キス顔そんななのねぇ……かわーいーいー。……うん、あらま、そんな大サービス……。え、ええっ……! 何コレ、うらやま……」


煌は、食い入るように画面を見ている。



「ここから、薬が効いてきます」


「……うん、ああ、もうカイったら、そんな自分から……。あ、いや、わかるよ。クラゲ星人の毒は強力だから、自分の意思とは無関係だよね……。でもそれがまたイイっていうか……。で? このクラゲサービスは、いくら払えばやってもらえるのかな?」


「やってくれるかはわかりませんが、連絡はとれますよ」


「マジか。行こう。今日ちょうどお前とパトロールだし」


「じゃあ、会えるように頼んでみますね」


「いや、パトロールでこんな楽しいことが巻き起こってたんで知らなかったよ。今まで損した気分だ」


「煌先輩と榊先輩は、元から危険区域に行きますからね」


「そうそう、榊がいると生きるか死ぬかしかないような雰囲気になるからさ、頼もしいけど、まずこうはならないねぇ……」


煌は動画を巻き戻して見ている。



「この動画はおいくらなの?」


「売りませんよ。僕の大事な宝物なので」


「お前、親友っていうか戦友として、どんな気持ちでコレ撮ってんの?」


「……なんか、もう、です」


「……なんか、もう、なのね……」



こうして、夜のパトロールが始まった。

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