第42話 討伐戦線

「新兵くん、しっかりして!」


 リラ中尉の声で、ハッと我に返った。


「す、すみません、リラ中尉……」


 ウミヘビの姿に圧倒されていた僕は、戦闘の緊張感を忘れかけていた。船内は緊迫した空気に包まれ、エリク大尉が指示を出す。


「各員、準備を整えろ!ダリウス、君は後方支援だ。新兵の指導も忘れずに!」

「了解です、大尉!」


 リラ中尉は、僕に向き直って言った。「私たちがこの魔物をどう扱うか、しっかり見ていて。これは訓練でもあるからね。」


 僕は頷き、彼女の指示に従った。


 ウミヘビがさらに近づくにつれ、船が揺れ、波しぶきが船首にかかる。皆がそれぞれの持ち場に着き、戦闘準備を整えていた。エリク大尉が刀を抜き、魔物に向かって構える。


「まずは、攻撃の仕方を見せる。新兵、目を離すな!」


 ウミヘビが大きく口を開き、威圧的な咆哮を上げた。


「〈海流束縛カレント・バインド〉」


 エリクの剣から水流が生まれ、魔物に向かって襲い掛かる。水の刃がウミヘビの鱗に触れ、激しい音を立てたが、魔物はびくともせず、逆に反撃の体勢を整えた。


「今だ、新兵! ダリウスのサポートを頼む!」


 ダリウスが防御の姿勢を取り、僕は彼の後ろから魔法を唱える。心を落ち着け、魔力を集中させる。ウミヘビの動きが止まる瞬間を狙う。


「はい! 〈重力圧縮グラビティ・コンプレス〉」


 ウミヘビに僕の闇魔法が当たると、瞬間的に周囲の空気が歪み、強烈な圧力がウミヘビの体に襲いかかる。黒い鱗がひんやりとした力に包まれ、ウミヘビは一瞬、驚愕の表情を浮かべた。


「ギュオオオオ!」と、鋭い悲鳴が海に響き渡る。体全体がまるで重しを乗せられたかのように沈み込んでいく。ウミヘビはその巨大な体を必死に動かそうとするが、重力に引きつけられた筋肉が言うことを聞かない。


 波が静まり、周囲の海面が波紋を描く。ウミヘビの目は驚きと苦悶の色で満ち、瞳の紅色が一瞬鈍く光る。


「いいぞ、バルト! その調子だ!」


 リラ中尉の声が耳に響く。魔物の反撃が強まる中、みんなの協力が必要だと実感する。


「全員、攻撃を続けろ!今がチャンスだ!」


 エリク大尉の指示のもと、仲間たちが次々と攻撃を繰り出し、船は一体感に包まれていた。


「バルト、次の魔法の準備を! 集中して!」


 リラ中尉の声に励まされ、僕は再び魔力を集める。ウミヘビが体をくねらせ、周囲の海水を巻き上げながら攻撃の準備をしている。

 ダリウスが後方で支援しながら、エリク大尉とリラ中尉の攻撃を見守っていた。彼の強力な攻撃は、船の安定にも繋がっている。


 エリク大尉が再度水の剣を繰り出し、ウミヘビの鱗を削る。周囲の水が渦を巻き、彼の力強い姿はまるで海の戦士のようだ。


「今だ、バルト! 行け!」


 ウミヘビが大きく体を持ち上げ、攻撃の隙ができた瞬間、僕は全力で魔法を放つ。


「〈爆発呪文エクスプロージョン・チャーム〉」


 魔力が放たれると、ウミヘビの周囲で激しい爆発が起こり、海面が盛り上がる。炎と煙が立ち上り、周囲の水が飛び散る中、ウミヘビは驚愕の表情を浮かべた。


「ギュオオオ!」と、痛みの叫びが海を震わせる。爆風に巻き込まれたウミヘビの体が大きく揺れ、黒い鱗が焦げ付いていく。


 ウミヘビの目が一瞬にして紅く輝き、怒りと苦悶の色が混じる。その巨大な体が波に揺れ、抵抗しようと必死に動き回るが、爆風にさらわれ、動きが鈍くなる。


 周囲の海水が渦を巻き、さらにその中心からは泡が立ち上る。ウミヘビはその身を捻り、必死に逃げようとするが、炎の余韻が体を包み込み、力を奪っていく。再び咆哮を上げるが、その声には明らかな苦しみが感じられる。爆発の衝撃が体に響き渡り、ついにその動きが徐々に弱まっていく。


 仲間たちが歓声を上げる中、ウミヘビはそのまま海の深淵へと沈んでいく。その姿は、威厳を保ちながらも明らかに敗北を喫したものだった。


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