第22話 ヒーロー(?)
「そんな、どうして……」
僕たちはその場にへたり込んだ。
「救えなかった。俺たちの力じゃ、救えなかったんだ……」
兄さんはボロボロの体を寄せると、既に生き絶えた者たちの顔を確認し始めた。ほとんどの死体に損傷は無く死因も不確かなまま。不自然な死に違和感を覚えつつも、僕たちは探し続けた。
「いない、いないよ」
探していたのは母さんだった。ここに居ないということは、生きている可能性は十分にあるということ。一瞬安堵に包まれた僕らだったが、すぐに死体の山の違和感に気がつく。
「誰も居ないよね」
「ああ、これだけ多くの死体があるのに友達も知り合いすらも居ない」
ただ“運が良かっただけ”とも考えられるが、この死体全てに妙な首飾りがついている。少なくともこれはオーム領で流行っているものなどではない。
僕らは違和感を払拭できぬまま、母さんや町の人々を探しに道を進んだ。
もう少し行くとサイハ高原と呼ばれる見通しの良い野原がある。そこを抜ければ王都にも近づくはずだ。
「ここまで来れば少しは安心だろう。そろそろ休憩しよう」
「そうだね」
森を抜けた先、サイハ高原で休憩をすることにした。側からはピクニックにも見えるだろうか。この血生臭いのさえ無ければ、ね。
「父さん、それに隊長さんや副隊長さんは大丈夫かな……」
「心配だな。でも今は前に歩き続けるしかない。とにかく町の人たちと合流しなくちゃ」
ボルト兄さんはいつも冷静で頼もしい。その兄でさえ未だ手の震えが止まらない様子。あの時は無我夢中だったが、今になって考えれば何故生きているのかも不思議なくらい絶体絶命な状況だった
それにしても、実戦が魔物数十体を2人で相手にすることになるなんて。それに魔物との戦闘があんなにも激しく、狂気に満ち溢れているとは思わなかったな。
「バルト、ボルトか?!」
聞き慣れた声は空から聞こえてくる。
「やっぱりそうだ! こっちだこっち!」
「「父さん!?」」
見上げると、空飛ぶ巨大な船に乗った父と見知った漁師の男たちが手を振っていた。船は砂ぼこりを巻き上げながら高原に降り立ち、船から溢れ返るようにして男たちがこちらに押し寄せた。
「無事で良かった……本当に、本当に」
父さんは僕らを抱きしめ泣き出した。心配したのはお互い様だけど、反抗期の兄さんも流石にそれは言わなかった。
「喜べ2人とも。母さんも町の人もみんな無事だ」
「本当に?!」
「良かった……」
兄さんは一気に力が抜けたのか、そのまま腰を抜かしてしまった。
「親子の再会に水を差すようで悪いが――」
そう言って船から降りてきたのは見慣れない軍服を着た男だった。オーム領警備隊でも騎士団でもないその軍人は遠くを見つめながら言う。
「我々はすぐに出立しなくてはならない。あとは彼らに任せるとしよう」
彼の視線の先、地平線の内側から王国騎士団の旗が靡いている。
「本当にありがとうございました!」
手を振る漁師たちを見ることもなく、船はまた大きな音を出して空に舞い上がりその巨体を揺らしながら飛び去って行く。
「父さん、あれは誰だったの?」
「海の向こう側にあるシャイン大帝国の軍艦さ」
後日、オーム領へ調査隊が送られ、大量に発生した魔物は既に消えていたという。
「母さん!」
「ああ、2人とも無事で良かったわ」
僕らが母さんと再会できたのは3日後のこと。
領主であるピグレット伯爵はじめ、オーム領の人々は王国騎士団に保護され王都に避難していた。ただ、警備隊のウィリアム隊長とダグラス副隊長を除いて。
――――――――――――――――――――――――
「帝国海軍が介入してきただと?!」
「はい。魔物の大量発生が起こった直後に“災害派遣”と称して軍艦を派遣したようで――」
「そんなことが許されるのか!」
「しかし、オームはそれで多くの命を救われたのだぞ」
「今回の件、帝国が仕組んだとは考えられませんか?」
インヒター王国、軍事及び政略会議は大いに盛り上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます