第9話 呼び出し
ステータスオープンだけでは見ることのできなかった(自覚)欄。これは恐らくその者が自覚している事柄を表しているのだろう。
となると――。
「自覚年齢が81?!」
「アンタ、もしかして転生者かい?」
こうなるのは必然と言える。
僕がこの世界に転生してから、有りとあらゆる本を読んだ。その中で転生者について書かれている物語や専門書なども多く、その存在が現実にあり得る話であるのは間違いなさそうだ。
しかし、ここで「実は転生者でした」などと言っていいものなのかどうか。それも、血の繋がった兄がすぐ横にいるのに。
「いや、こんなことを聞くのは良くないね。悪かったね」
「い、いえ……」
「お前本当に――」
何を聞こうとしたのかは明白だ。でも兄さんはそれ以上何を聞くこともなかった。
「それよりも今はスキルのことだよ。自覚があるのなら話は早い。これが戦闘系のスキルであることに間違いはないだろうね」
問題は――とトミヨ婆さんは続ける。
「これにどんな効力があって何度使えるのか、力の限度はどれくらいなのかを調べる必要があるね」
それは一筋縄ではいかず、調査と研究を重ねる必要があるとトミヨ婆さんは言う。
「この件、喜んで協力させてもらうよ」
「「ありがとうございます!」」
そうして家を出ようとした時、何故か僕だけが彼女に呼び止められた。きっと先にあったもう一つの(自覚)欄についてだろう。
「実はね、ワタシの母親は転生者なんだ。こことは違う別の世界線、ヤマトノクニから来たらしいんだよ」
「ヤマト……」
聞き覚えのある名だった。前世の僕が生まれた時から2000年も前のことだから見てきたわけじゃないけど。
「母親とアンタの違いは名前の自覚さ。彼女はこの世界に来てもなお、前世での名前を使い続けた。でもアンタは今を生きようとしている。違うかい?」
「はい。前世には未練も怨恨もありませんから」
僕がそう言うとトミヨ婆さんはニッコリと微笑んだ。
「話は終わったか?」
「うん!」
「そうか。スキルのこと、何か分かると良いな」
外は既に陽が落ちかけ、黄金色に光った兄さんの髪がより一層綺麗に照らされていた。
「御免ください」
まだ鳥も鳴き出さない早朝の頃、
眠たい目を擦りながら玄関先へ向かうと、そこに立っていたのは王国近衛騎士団の制服を着た男だった。
「バルト・クラスト殿ですね」
「は、はい」
「先日の王女誘拐事件にて立派な働きを見せた貴殿に国王陛下より王宮にて謁見、並びに下賜授与の願いを承り参上した次第です」
えぇっと、正直言って面倒くさい。
だって僕は盗賊を倒したわけでも、王女を連れ出して逃げ延びたわけでもないのだから。
「そ、それって強制ですか?」
「いえ、今回は貴殿の家柄年齢を加味して『願い』という形ですので……」
「それなら――」
「ちなみに、シュリア王女からも言伝を頼まれておりまして。『強制じゃないからって辞退したらどうなるか分かるわよね』だそうですが、今回は辞退ということでよろしいですね?」
「喜んで行きます。行かせてください!!」
大変なことになってしまった。あの時王女が言っていた「またすぐに会うことになると思うけど――」ってこういうことだったのか。
「明日の夕暮れに出発!?」
「断ったら何かされそうで(王女に)」
家族にも説明をし、僕は
「それにしても、なんでそんなに急いでいるんだろうなぁ」
父がボソッと言い放ったこの謎が、あんな形で解明されることになるとは、この時は誰一人として知るよしも無かった。
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