第7話 手がかり

「またすぐに会うことになると思うけど、またね!」


 彼女の名はシュリア・リッチ・インヒター。正真正銘インヒター王国の第一王女であり、当たり前のことだけれど現国王の娘であるのだ。

 そんな人とひとつ屋根の下にいたとは今でも考えられない。


 捕まった盗賊団は大陸中に名のしれた悪党どもだったらしい。今回の一件で壊滅とはいかないまでも、半壊くらいには出来ただろうと近衛騎士団の人が言っていた。王女をさらった理由は完全に身代金目的。いくら何でもやり過ぎだ。


「近々、君のところに書文が届くだろう。心しているように」

「は、はい……」


 盗賊団の一味と思われたわけじゃないよね。まさか“王女の隣に座った罪”とかあるのかな?!


 まるで死刑宣告を言い渡された囚人のように肩をガックリと落とし町に戻ると、ボルト兄さんが門の前で待っていてくれた。「あ、兄さん!」と手を振ると、彼は怒ったような顔で僕の方へと歩み寄ってくる。


(あれ、怒られる?)


 そんな思いとは裏腹に兄は僕の肩を抱き寄せた。


「に、兄さん?」

「無事でよかった」


 兄さんは小さく震えながら町で起きたことを教えてくれた。

 町の警備隊員であり門番のザンジリさんが、なかなか帰ってこない僕を心配して警備隊に捜索依頼を出し、斥候部隊のひとりが木こりの小屋まで向かった。そこで囚われている僕たちを発見。町に戻り状況を報告していると王国騎士団が到着。話を聞くと王女がこの町へ向かっている途中で何者かに攫われたという事が判明し、木こりの小屋へと救出に向かったというわけだった。


「父さんも母さんも心配しているから、早く家に帰るぞ」

「うん……心配かけてごめんね兄さん」

「無事ならそれでいいよ」


 家に戻ると両親は赤子のように泣きじゃくりながら僕を出迎えてくれた。最初は兄と同じように門の近くで待ってきた両親だったが、母が貧血気味になり仕方なく家で待つことにしたらしい。


「心配かけてごめんなさい」

「何言ってるの。悪いのは盗賊と門番のザンジリよ!」


 母はザンジリさんに怒り心頭のようで、その後もチクチクと彼の悪口を言っていた。


「今夜は王女の出迎えが無くなったからご馳走だぞ。いっぱい食べて強い男にならんとな」

「うん!」


 “強い”で思い出した。

 僕は食卓を囲みながら盗賊と戦った時のことを話した。ステータス差のある相手にも体が勝手に動き、なぜか負けなかったこと。そのことから【普通】が戦闘系スキルかもしれないということを説明した。


「なるほどな。自覚無しのスキル効果か」


 スキルは本来与えられた瞬間、もしくは使用する瞬間にその扱い方や仕組みが脳内に浮かび上がるのだという。しかし、なぜか僕にはそれが起こらないままスキルが使え、その効果もよく分からぬままなのである。


「トミヨ婆さんの所に行ってみたらどうだ?」

「えっ、あの今にも崩れそうな家に住んでる婆ちゃんのこと?」

「そんなことを言うな。今でこそあんな感じだが昔は神官様だったんだぞ」


 あの婆さんだけはどうも苦手だ。

 不気味というか掴みどころが無さすぎるというか。


 でも行ってみないことには始まらない。

 翌日、僕と兄さんは2人でトミヨ婆さんの家へと向かったのだった。

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