第2話 声

「日本に稲作が伝わったのは二千年ほど昔で、それから日本は弥生時代に突入していくというのが定説でした。でも実はそれよりずっと古くから稲作が行われていた事が分かってきています」


 相変わらずの退屈な授業だった。この縄文時代から弥生時代への下りは小学校や中学校でも習ってきた。どうして同じ事を高校生になってまで繰り返し習わなければいけないんだろう?琢磨は窓の外に浮かんだ雲を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。


 目線を下げるとグラウンドの向こうには、まだ青々とした田んぼが見える。

『そんな昔の話、どうせ俺には関係ないだろう…』心の中でそう呟いた。

『そうでもなさそうだぜ』心の中で呟いたはずなのに誰かがそう答えた。琢磨は慌てて教室の中を見回す。クラスメイト達は黙って正面を見ている。


 気のせいだったかもしれない。そう言えばここのところ新作のゲームをプレイしていて、睡眠時間が十分に取れていない。そろそろ大学受験の事も真剣に考えなければいけない時期なのに、こんな事ではいけないなと反省した。


 琢磨は少し周囲の人間とは違っていた。外見的特徴として全身毛深いし日本人にしては顔の彫が深い。まぁそれはそれで悪くはないと本人的には思っているが、外見だけではなく運動能力が人一倍高かった。目立つことが嫌いな性格なので、高校に入ってからは部活動などにも所属せずにひっそりと生活していたが、陸上部にでも入ろうものなら、多分物凄い事になるなとタイムや記録を計るまでもなくそう思っていた。


 授業なので仕方なく受けている体育の時間は、同級生の動きが緩慢すぎてとても退屈である。しかしこの運動能力を使えば、結構な名門大学にでもAO入試で入れそうな気はする。推薦の為に大会などで成績を残そうと思えば、もう時間的猶予はない。



  寝不足を反省をしたのも束の間。授業が終わると部活に所属していない琢磨はさっさと帰宅しようと自転車置き場に急ぐ。なぜ急いでいるのかと言えばゲームの続きを早くやりたいからだ。運動能力に長けている琢磨は誰よりも先に自転車置き場に辿り着いた。


 自転車のカゴにカバンを放り込む。するとカゴの中から

「痛いっ!」と声がした。驚いてカバンをとり出すと、そこには着物を着た小人がいた。いや、もちろん琢磨は自分の人生で小人というものを見たことは無い。ただ人間の形をしていて自転車のカゴの中に入る大きさの生物は、他に形容の仕様がなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る