第283話 課題が……
それから見事な改築工事で、教会は生まれ変わった。
華美な装飾から、落ち着いて安心できる空間に。
お祝いに俺と師匠から鏡を贈った。
完成式典が行われ、ヘルク祭司が精霊へ捧げる言葉を紡ぐと精霊王様の祝福が降り注いだ。
『祝福をみなに』
精霊王様の声は半分以上の集まった人たちに聞こえ、祝福の光も見えたらしい。
メインデルトとペーテルが顎を外していた。
(大盤振る舞いですね)
思わず俺が頭の中で言うと精霊王様の苦笑が聞こえた。
『光神教を追い出してくれた礼だよ』
(ほんと、よかったわ!)
(うん。僕もいや)
カルヴァとラヴァまで言う。精霊界隈ではほんと嫌われてるな。
まあ、俺も好きじゃないけど。
精霊王様が祝福してくれたから、この領もきっと豊かになる。
「師匠、ヴァンデラー伯爵領には光神教の教会ってあったっけ?」
「……あったはずだが……そうだな。調べて、精霊教会を招くか」
「あったら追い出す?」
「そうだなあ。状況によるな。そもそも隣国の宗教だしな。もしかしたら、間諜の可能性もあるかもしれない。霊峰があるからすぐにはこの国に来られないがまったくいないわけじゃない。現に光神教の教会はほぼすべての領地にある」
「え、山越えてこれないよね。どうやってくるの?」
「海か、帝国経由だな。大河に橋はないが所々に渡し舟がある」
「渡し舟……」
「下流は流れが緩やかなので舟が通っても転覆しにくいし、魔魚も少ないんだ」
「商人がメインなのかな」
「そうだな。時々外交官も来るな」
「外交官。そうだよね。国交があるんだ」
「帝国は好戦的だから、しょっちゅう戦争をしているが、国内ですることは少ないからな。大抵国境だ。オーア王国は河が国境だから向こうも手出しができないんだろう」
「戦争は嫌だな」
「そうだな。俺も嫌だ」
師匠一人で軍隊落とせそうな気もするけれど、戦争なんて消費ばかりだからお金にうるさい師匠は絶対しないはず。
「なんか、変なことを考えてないか?」
師匠が不審そうに俺を見る。
「ないよ! ない」
「ほんとか?」
「ほんと!」
「まあ、いい。課題も届いたし、ひと段落ついた。ありがとう。ルオ。もう大丈夫だ」
「じゃあ、もう、ルヴェールに籠っていい?」
「ああ、課題とガラスだな」
「そう。課題……課題が……」
いっぱい出てたんだよ!
そして俺は課題に追われている。
涼やかなルヴェールの空気も、外から聞こえる鳥の声なども、俺には関係ない。
転移使わない移動期間をメリーディエース伯爵領の問題で消費したけれど!
それ以上時間を使った気がするのは気のせいなのだろうか。
「ルオ様、お茶が入りました。少し休憩をしませんか?」
ギードの声にハッとする。
「少しは休憩しないと効率が悪くなりますよ」
「うん。休憩するよ」
ギードの淹れてくれた紅茶は師匠に匹敵するくらい美味しかった。
「ギード……紅茶の淹れ方上手くなったね。すごく美味しい」
「ありがとうございます」
「ギードめちゃくちゃ馴染んでるけど、領主になるんでしょう? 領主教育って受けてるの?」
「はい。旦那様に教えていただいてますよ」
「父様に?」
「はい」
「そうか。そうだよね。父様、領主だものね」
「……ルオ様、何か含みが?」
「え、いや、ほら、父様はどっちかというと、狩人みたいなイメージで?」
「ああ、魔物を狩っていますからね。それも立派な領主の仕事ですよ。それをしないとソア子爵領みたいになってしまいますからね。騎士団に任せられる規模の領地ではありませんし」
「そうか。肉目当てじゃなかったんだね」
「まあ、それもあるとは思いますが」
ギードが苦笑する。
「僕、剣がダメだから魔法か、他のことでがんばらないと」
「ルオ様はガラスと錬金術があるじゃないですか」
「剣で戦える領主にならないとってことなんだけれど」
「ルオ様は経済で支える領主になると思います。戦えればますます凄いとは思いますが、ヴァンデラー師の弟子なのですからそれを誇ってもいいのですよ。剣が苦手な貴族はいくらでもいますし。剣が得意な方ばかりに囲まれていますから、仕方ないとは思います。ですが、ルオ様の剣の腕前はできるほうですよ」
「え、でも剣術のスキルないし」
「なくても戦えてるからいいんですよ」
「そう?」
「はい」
「そっか」
「ちなみに私は剣術より、短剣術の方が得意ですよ」
「僕と一緒だ」
「短剣術は暗殺向きなので、いろいろと重宝しますよ」
「え?」
「いえ、お代わりはいかがですか?」
ティーポットを持って爽やかに笑うギードの歯が眩しい。
「あ、うん。お願い」
「はい」
それから二杯目の紅茶をゆっくりと飲み干して、俺は課題に立ち向かった。
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