第120話 もじもじエルフ

 一週間が経ち、学院の授業にも慣れ、魔法の実技の時間がやってきた。


「いるよね。アレ」

「いるんじゃないか? アレ」

 実技の教室の入口で思わずきょろきょろしてしまった。

 中にはもう、みんな集まっていて、エルフもいた。

 入口に背を向けていたので、そうっと背後から近づいて少し距離をとったところで立ち止まった。そのタイミングで、師匠がやってきた。

「みんな揃ってるな」

 その言葉にエルフの肩がピクリと震えた。

 え、なんか反応した?

 一歩後ずさった。

 でもとりあえず、エルフは何もしてこなかったし、平和に授業を終えることができた。

「よかったな」

「うん!」


「ル……ルヴェール君、トレメイン君、帰る前に研究室へ来てくれないか?」

 師匠に案内図を渡された。教職員の部屋のある棟の最上階の奥だった。

 五階か。エレベーターはないんだろうなあ……。

 タビーと二人、制服に着替え、荷物を持って師匠の研究室へ。

 案内図が研究室へ通る許可になっているのか、教員棟に立っている門番に見せたらすんなり通してくれた。

「ええと……あがって、階段から一番遠くの右手の扉……」

「お、ここじゃないのか? ルオ、師匠の名前のプレートが貼ってある」

「ここだ!」

 ノッカーがあったので鳴らすと師匠が扉を開けてくれた。

「よく来たな。まあ、入れ」

「お邪魔しまーす」

 俺はすっと中に入った。

「ええと、お邪魔します」

 タビーは遠慮がちに、きょろきょろしながら中に入った。

 中は広かった。広かったけれど、錬金術の道具が所狭しと置いてあった。

 その他はキャビネットで陳列棚っぽいなと思った。

 師匠の工房の主要なものだけが置かれてるように見えた。

 奥へ進むと四人掛けのテーブルがあり、そこにエルフがいた。


「げ……」

 思わず声を出してしまった。そうしたら、エルフがションボリとして俯いた。

 ちょっと罪悪感。

「まあ、座れ、そっちに二人な」

「はい」

「はい」

 エルフの対面にはタビーに座ってもらった。師匠が苦笑してた。

 師匠は紅茶を俺たちに淹れてくれた。

「まずは飲め」

「いただきます」

 まずは俺が言って飲む。

 その後にタビー、エルフが口をつけた。

「さすが師匠、美味しい」

 師匠は紅茶を淹れるのが上手いのだ。


「さて、ルオ、グフルーンはルオと仲良くなりたいそうだ」

「……従者は間に合ってます」

「あ、あの……従者はできればなりたいけれど、とりあえずは……し、知り合い程度でいいので!」

 タビーが紅茶のカップを持ったまま、頭を下げるエルフを見て何とも言えない顔をしていた。

「知り合いって、もう知り合ってるけど……」

「ぐふ……」

 あ、エルフがお腹を押さえた。

「僕が精霊に好かれてるって言ってるけど、師匠もタビーも好かれてると思うけど、どうかな?」

「はい? し、師匠?」

 エルフが頭をあげて二人を見た。目が大きく開かれる。

「え? あれ?」

「そもそも、精霊は大体どんなとこにもいるのに。いないところは精霊に嫌われた土地くらいしかないと思うよ? エルフって精霊が見えるんだよね?」

「え、ええ。見えます。光の粒みたいな……」

「……ん?」

 タビーが首を傾げた。

「え、とんがり帽子じゃないの?」

「うん。トカゲみたいな感じだよね」

「羽を持った小さな女の子だな」

 師匠、発言ちょっとヤバい感じ!

「は?」

「師匠、ちょっと」

 俺は立ち上がって師匠を部屋の隅に呼んだ。


(どういうことなの? エルフと仲良くして欲しいの? 師匠は?)

(これからも一緒の授業に参加するんだ。避けてばかりじゃいられないし、いちいち土下座されたらうっとおしいだろう?)

(まあ、それは確かに)

(あいつも若いエルフだし、何とか、矯正できるんじゃないかと思ってな)

(矯正)

(年取ったエルフは傲慢だからなあ。グフルーンはエルフの里で上級精霊にはお目にかかってないようなんだ)

(光の粒は下級精霊だもんね)

(そう。ということはだ。グフルーンの里は精霊の加護が外れかかってる)

(え?)

(大抵のエルフの里は誰かしら上級か、中級の上級になりかかってるくらいの力のある精霊と契約してるもんだ)

(そうなの? 最近精霊の契約者が増えてるから、それが普通だと思いこみそう)

(人間は滅多にないはずなんだ。まあ、イレギュラーじゃないか? それはともかくエルフの里の里長や後継者候補には精霊がつくはずなんだ。俺が見たほかの里は必ずいた。まあ、見えなかったけどな。魔力の塊は感じ取れた)

(さすが師匠。ラヴァも見つけたし)

(茶化すな。エルフの里で加護がなくなるということは何か起こってるのかもしれない。とりあえず、王国の隣人なのだから仲良くした方がいいって結論だ。そのために色々言い含めた)

(大人しかったのはそのせいだったんだ?)

(俺は頑張ったぞ。ルオも協力してくれ。これは得意先接待だ)

(接待)

(上手くいった暁には特別報酬を約束しよう)

(わかった! 必ずだよ!)

 俺と師匠は握手を交わした。契約成立だ。俺と師匠は席に戻ってにっこり笑った。


「ええと、グフ……?」

「グフルーンです」

「じゃあ、ルーン、まずはお友達になれるかどうかから始めよっか」

 グ〇はいろいろ危ないからね!

「なるところからじゃないんだ」

 タビー突込みはいいから!


「よろしくお願いします……」

 もじもじしながらエルフは呟いた。

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