第17話 神業

 夕食に疲れた顔で父と母が現れた。イオは昼間はしゃぎすぎたみたいで、先に食事して寝てしまったそうだ。

 今日は狩りにも行けなかったみたいで、お肉は干し肉だった。

「明日、総出で収穫することになった。行商人の手配が追いつかないかもしれんな」

 麦刈っちゃうんだ。お手伝いしたほうがいいのかなあ?

「私の懇意のものに聞いてみましょう」

 師匠が父に提案する。そういえば特許みたいなので儲けてるんだって言ってたものな。商人とパイプがあるのは当然かあ。

「すまない」

「そうなると秋の種まきまで手が空きますね。なにか植えますか?」

 ローワンが給仕をしながら父に話しかける。

「と言っても、うちの貧相な土で短期間に育てられるものはないぞ。気温が低いから育てられるものに限りがあるし」

「では、ヒマワリはどうでしょう。今から植えて夏に開花しますよ。種は油が取れます。肥料に転用も出来ます。花が咲いている風景は圧巻ですよ」

「ううむ。種がないぞ」

「それも頼んでみます。ほかにもいろいろ種を頼んでみてはいかがですか?」

 師匠は物知りなんだなあ。ひまわりかあ。夏っぽい。

「ヒマワリ見たことない」

「黄色くて太陽のような花だよ」

 俺がぼそっと呟くと師匠がにこりとして言う。それじゃあ、前世のヒマワリと一緒かな?

「見習いの頃はよく油の抽出の手伝いをさせられて、思い入れがある花なんだ」

 それって思い入れというかトラウマじゃないんですか? 師匠!?


「農業師で高位の者がいるから収穫は何とかなるか」

 んん? 

「ああ、それはいい。よくこの村にいてくれましたね」

「うむ。ここの村で生まれ育った働き者で、スキルを鍛えてスキルレベルを上げたんだ。その者を見て、努力するものが増えて、少人数でもなんとかなっているんだ」

「素晴らしいですね」

「ああ、うちの領民は誇りだよ」

 うちの父が尊敬できる人で嬉しい!

「しかし、開拓するには魔物の被害が心配だし、水の問題もある。何よりもう少し、人が増えてくれないとな。いい職を授かると出て行く者がでるからな」

 ふうとため息を吐く父の顔は領主の顔だった。


 翌朝、父とローワンは村の手伝いに朝早く出かけたらしい。

「僕、お手伝いしないでいいのかな?」

 師匠に聞くと頭をポンポンされた。

「かえって邪魔になるから見学くらいだな。もっと大きくなったらすればいい。ルオは六歳にしてはいろいろ頑張っているよ」

「そう? 収穫してるの見たいな。遠くでいいから」

「そうだな。知っておくのもいいか」

「にー、しー」

 スプーンを持ったままこっちに手を伸ばすイオに笑った。ネリアがちゃんと食べるように促す。

 まだまだ幼児食だ。少しずつ固形物に慣らしている段階だ。

「イオはいい子だね」

 思わず手を伸ばしてなでなでする。するとイオはにこにこして手をばたばたさせた。

「いいこー」

 うん。イオは可愛くて癒しだ。


 食事の後、村へ向かう。

 村へ降りる道から、小麦畑のほうを見た。

「え、何? 小麦があっという間に」

 ひとりでに小麦が刈られて宙を舞って小分けに束になって干し台に乗っかってる。

「あれが農業のスキル『収穫』だな。低位は刈るくらいで範囲も狭いがレベルが上がるとあんな感じになる」

「え? 神業?」

「そう言えないこともないな。神様のギフトだからな」

「凄いなー」

 前世のコンバイン並みだな。いや、束になって干すまでするからそれ以上? それを人がやるって。魔法やスキル重視になるのってわかるな。

「あそこまでスキルレベルを上げるのは容易じゃないから、凄いんだよ」

「そうなんだ!」

 あれ、畑になんかいる。神業農夫の周りをぐるぐるしてる。目が合った。畑に引っ込んだ。思わず目をごしごしと腕で擦る。

 気のせいかな? 小人みたいだったんだけど。

「お邪魔そうだから、帰るね」

「もういいのか?」

「うん。凄い技見たし。ガラスとポーション作らなきゃ!!」

 師匠の手を引いて、工房へと急ぐ。ガラス工芸家への第一歩。ガラス作りだ!


「ガラスの作り方はガラス工房の秘匿事項で、俺は知らないが、逆算はできる。錬成でして見せたのがそうだな。錬金術師が絡んでいる様子はないから、別の職能か、作成技術なんだろう。俺が教えられるのは錬金術がらみだが、ルオはそうじゃないんだろう?」

「材料があればできると思うの」

「焚き火でやっていたな」

「だからとりあえず、焚き火するの」

「焚き火? 砂燃やすんじゃないのか?」

「灰が欲しいの」

「灰ね。じゃあ、ここの竈で燃やそうか。薪だけでいいのか?」

「うん!」

「灰になるまでポーションの作り方を教えようか。薬草も乾いたしな」

「ラヴァ、火、見張ってて火事にならないように」

(見張る)

 ラヴァは上機嫌で竈の中に移動した。気持ちよさげに鎮座している。

「ああ、何となく見えるな」

 師匠が目を眇めて竈の炎を見た。

「やっぱり他の人には見えないんだね」

 ラヴァが姿を見せようと思えば見せられるけど、普段は俺にしか見えないみたい。

 俺たちは調合室に移動した。

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