第24話 私ちょっと興味があるわ


「ナナオふぐーっ」


泣きながらぼくの言葉に何度も頷くリュイエールを、もう一度抱きしめてから、ぼくはその場にへたり込んだ。


「はあ、はあ、はあっ」


妖狐の眼で見る限り、即席の浄化処置は上手く動いていた。

ただ恒久的に、稼働するようなものじゃないと思う。


ツギハギのようにくっつけた部分がほころんで、いつかは機能が失われるだろう。

だけどそれで充分だった。


半日、ううん数時間もってくれれば、それでいい。

その間にきっと僧兵が来るから。

ぼくは祈るように、自分がくっつけた気脈のループを見つめた。


「大丈夫……きっと」


リュイエールは、このまま放置しても問題ない。

ゾンビ化が始まった者を、ゾンビは襲わないから大丈夫。


だけどやり切った顔で、のんびり座り込んでる場合じゃなかった。

まだスタンピードの真っ最中なのだから。


ぼくは力が抜けた腰を、叩きながら起き上がった。

振り返ると、漆黒のゴツイ鎖を振り回す、お師さまの背中が見える。

ぼくは腰のさやからフーリーンを抜き放つと、スタンピードの渦中へと舞い戻った。


「お師さま、ありがとうございますっ」


大声でお礼を述べると、ゾンビを屠りながらお師さまが尋ねる。


「何をしたのナナオ?」


ぼくも愛刀を振りながら、何をしたのか順を追って説明した。

聞き終わったお師さまが、驚愕の表情をぼくへむける。


「そんな事が!?」


気脈(魔力)が髪の毛のように、詳細に見えるぼく。

さらに指先の変形も、取り憑きも妖狐だからこその能力で、これはぼくにしか出来ない複合技だった。


お師さまは素直に驚き、手は休ませずに何かを考え始める。

3体ゾンビを潰したのち、お師さまはぼくに指示を出した。


「ナナオ、あなたはその即席浄化に徹して。

他の感染した住民も救うの。

けれど初期症状から、完全ゾンビ化まで10分。

時間に限りがある。


必然的に救える人数は限られるわ。

だから子供と女を優先して。

できるナナオ?」


できるかと聞かれたら、やるしかない。

ぼくはゾンビを相手にしながら、ちらりと樹の根元に座り込むリュイエールを見た。

リュイエールのように、助かる命があるならっ。


「やります、やらせて下さいっ」


「可愛い顔で、きりっとしていると素敵よナナオ。

一人助手を付けてあげるわ。

コーラル! コーラルちょっときてっ!」


お師さまが大声で叫ぶと、ゾンビと獣人が入り乱れるカオスの中を、駆けてくる男がいた。

先ほどぼくと、軽口を言い合っていた剣士だ。

名前はコーラルと言うらしい。


「なんだ岬さまっ、いま忙しいってのっ」


「コーラル、この子の手助けをしてあげてっ。

ゾンビになりかけの症状を止めるのっ」


「はー!? そんな事できんのかよ!?」

「できるっ、だからナナオの手助けをっ」


「でも俺、剣士なんだぜえっ」


「あなたの分まで私が暴れるわっ。

それとも私の言うことが聞けないの?」


「分かったよちくしょーっ」


剣士のコーラルは、すっかりお師さまの子分のようになっていた。


「細かいことはナナオに聞いてっ」

「おうっ」


「それじゃ剣士さまの分まで、仕事するわよフーリーっ」

「ふふ……うけたまわった」


いつの間にか近くにきていた、フーリーさんが微笑む。

お師さまとフーリーさんは双子の暴風圏となり、広場のゾンビを蹴散らしていく。


「おいガキっ、それで何すんだ!?」

「台所から星の御守りと、塩の瓶と、包丁を3本ぐらい、買い物カゴに入れて持ってきて下さいっ」


「はあー????」



     *



フーリーはゾンビを相手にしながら、我があるじの背にピタリと身を寄せる。

背中合わせとなり、七緒には聞こえない声でぼそりと尋ねた。


「主よ、焼け石に水ではないのか?」


フーリーは今夜の犠牲者数から見れば、七緒の行いは「誤差」ではないかと言っていた。

やってもあまり、効果がないと言っているのである。

フーリーの問いに、アルスラは平然と答える。


「構わないわ誤差でも。

今ナナオがやっている事は、独創的だと思う。

私ちょっと興味があるわ、魔道具作りとしてね。


ナナオにしかできない、いじり方。

でもそれが実際にモノになるかは、これからのナナオ次第。

今夜の出来事は、悔しさとしてナナオの心に刻まれると思う。

そしてそれが、これからのナナオの原動力になるわ」


アルスラは七緒が救う人数よりも、救えなかった人数を注視していた。

それが多ければ多いほど、七緒は自分の技術の未熟さを悔やむだろう。


そして次があった時に備えて、その技術を切磋琢磨する。

アルスラはそれを期待しているのだった。


フーリーは背中に主を感じながら、眉根を寄せた。

「ひどい教育だと思うが……」


「あら、ナナオがくじけそうになったら、また私とフーリーで挟めば良いじゃない。

あの子、胸が大好きだからすぐに元気になるわ」


「なるほど」

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