第11話 ダンジョン攻略3回目

 翌朝である。


 昨夜は早々に休んだ2人が元気いっぱいで遣ってきた。

 オレはといえば、色々と喜び勇んだ2人に付き合わされて寝不足である。内室さまは早めにリタイアなさった……何だかなあ(笑)。

 そして、今朝も、昨日同様チンチンとヒメがメイド服で遣ってきて、同じように、ぱっくん✕2、された、そのタイミングで乱入者があった。

 メイド服姿のイクイクだ。

 お前ら、潤沢な資金があるからって衣装代に無駄使いし過ぎでないかい?

 まあ、犬耳に似合ってて可愛いから良いけどぅ。

「それじゃあ、トノ……ぱっくん、するにょ♡」

「いや、もう今朝は2人にして貰ったから、また今度というコトで…」


「ナニ言ってるにょ?……まだ、まだ、元気いっぱいにょほほほぅ♡」


 ―― あ、ぅ、やっ、はふぅ♡

 あっさり、抜かれてしまった(笑)

 明日からも3人か? 勘弁してください!


          *


 さて、ダンジョン3回目だ。

 昨日の『オーク3体+オーガ2体』の部屋までは語るほどの事もなかった。

 第2層にオーガがでたコトについてはやはりギルドマスターが首を捻っていた。

 しかし、今日のその部屋には『ゴブリン2体』だった。訳が判らん。

 折角なので、オレも戦闘デビューさせて貰った。と、言うのも昨日のオーガが残した『日本刀』をオレが貰ったからだ。

 先日買って貰い(チチが鍛え直してくれた)『脇差』と合わせて〝二刀流〟だ(笑)。

 日本だったら『銃刀法違反』だけどな(笑)。

 オーガが残していった『日本刀』は刃渡り60センチくらいで、オレでも振れそうだった。チチが昨夜軽く鍛え直してくれたが元から状態は良かったそうだ。

 オレは勿論剣道などの素養はない。しかも、対魔物戦闘も未経験だ。

 ゴブリンを前に些か居る。

 が、ゴブリンを前にして刀を抜いた時、あの声が聞こえた。


  ※ スキル【刀剣術】を獲得しました。


 何でもアリだなあ(笑)。

 その思いのままゴブリンに(いつかのマータの太刀筋を思い描いて)袈裟懸けだ。返す刀(言葉通り刀だ(笑))でもう1体も屠る。


「「「「「「おおっ!」」」」」」


 皆んなの声が些か照れ臭い。

 デビューは上々だった(笑)。

 ヒメが、ぴとっ、と寄ってきて小声で囁く。

「モブって何でもできるのね♡」

「惚れ直しました?」

「えー、ないわーっ!」

「言い方~~っ!」

 これ、前にもやったよね(笑)。まあ、良いけど。


 何か視線を感じて周りを見ると、皆んなの視線が〝生温かい〟のだが。いや、何故だ?


 そのまま問題なく第2層をクリア。

 第3層に降りて最初の小部屋で昼食となった。

 いつものように毛布2枚を敷いて車座に。

 オレの隣は左にヒメ、右にチンチンだ。いつの間にかその配置で固定されている。

 イクイクによると『左側』が〝奥方さま〟ポジションなのだそう(ホントかよ(笑))。

 さっきからプー(竜人の若い方)が隣に坐りたそうにしていた。夕べのアレで懐かれたか?

 今日の最初の食事も昨日同様で酒場の女将さんの手作りだ。

 とても豪華で彩りも良く美味しそうだ。

 いつの間にか〝両手を合わせて「いただきます」〟が共通認識になっていた。いつだったかヒメがオレの真似をしてから皆んなで声を合わせてするようになっていた。悪いコトではないので歓迎だ。

「モブ……これ、食べて♡」

 一番柔らかくて美味しそうな肉片をヒメがオレの弁当の上に置いた。

(最近、皆んなの前でも『モブ』って呼んでるなあ)

「ヒメ、そういう時は旦那さまの口の前に持っていって『はい、あ~ん』って言うにょ♡」

(誰が『旦那さま』だっ!……って言うか『はい、あ~ん』なんてどこで仕入れたっ?)

 しかし、ヒメは真っ赤になって俯いている。『旦那さま』が恥ずかしかったのか、『はい、あ~ん』が恥ずかしかったのか、両方かも知れない。

 因みにだが、この『異世界』では食事の時に『箸』を使う。世界観が良く判りません(笑)。


 食事が終わって第3層の攻略だ。

 今のトコロ、ゴブリンかオークしか湧いてこない。オーガについては昨日のマータの戦法(首への突き)が良かろうという認識を共有している。が、今日は湧いてこない。良い事ではあるのだが。

 そう思っていたらオーガ2体とエンカウントだ。

 今朝のブリーフィングでオーガに魔法(使える個体は少なそうだが)を使わせる前に仕留めるのがベストと決まっていた。

 今回の配置は、左のオーガにマータとピー(竜人のお姉さんキャラの方)、右のオーガをオレとプーで。

 後方からチンチンとイクイクが『防御力アップ』と『攻撃力アップ』の付与魔法を発動。ヒメはいつもの『回復魔法』をスタンバる。チチはオレの代わりにヒメの前に立つ。

 などと考えているうちにマータが左の個体に向かって跳躍した。負けじとオレも刀を腰溜めにして『飛行魔法』で右の個体の喉を狙う。


 戦闘は一瞬で決着した。


 2体を一撃で屠ったマータとオレが華麗に(笑)着地してハイタッチだ。

 背後からパーティメンバーの拍手が心地良い。

 ラスボスのオーガの上位種はこう簡単にはいかないだろうが、オーガの討伐には手応えを感じた我々だった。


 そのまま第3層は大した問題もなくクリアした。むしろ歩いての移動に時間が掛かった感じだ(笑)。

 時間的にはそろそろ夕方らしい。ダンジョンは壁からの自然発光で常に仄明るいので時間の経過が判り難い。当然、『時計』などというモノはない。どうやって時間を計るのかと思ったら『腹時計』だそうだ。何とも〝アバウト〟に思うが、慣れこそモノの上手なれ、だ(いや、「好きこそ物の上手なれ」だが(笑))。


 そんな訳で第4層に降りて最初の小部屋で今夜は夜営する事になった。

 オレは夜営の準備とかまるで素人なので、邪魔にならない程度に手伝う。周りに目を遣ると、ヒメも手持無沙汰そうだった(笑)。

 やがて小部屋の中央付近に小さな簡易のテントが3つ設えられた。


 小部屋の出口側のテントに、マータ、イクイク、チンチン、の3人。

 小部屋の入り口側のテントに、チチ、プー、ピー、の3人。

 中央のテントに、ヒメとオレ、らしい。


 まあ、男がオレ1人だからといって、テント一つを占領する訳にはいかない。ヒメを、ちらっ、と見たがまるで気にしていないようだった。

 休む前に全員でまた車座になって夕食だ。2食目からは定番の『乾パン+干し肉』のダンジョン飯だ。

「明日、この第4層をクリアできれば、明日中に第5層のボス部屋の前まで行きたいね」

 食事を摂りながらマータが皆にはかる。

 今回も食事は5日分だ。帰りに2日と見て、明後日には『ボス討伐』が望ましい。

「確かにそこまで行ければ『ボス討伐』に丸1日掛けられるにょ!」

 イクイクが受けてチチが進言する。

「そうですね、丸1日あれば、3回はアタックできます」

「オーガの上位種というのがどの程度のモノか判らんが、今回で倒したいものだ」

 2人の言葉を受けてマータがまとめる。

「二度、敗走しているし、三度となればおひいさまの名に傷が付く……何としても倒そうぞっ!」

 珍しくマータが『おひいさま』と呼んだ。本気度が伝わる。

「勿論にょ♡……ピーとプーも宜しくにょ♡」

「「お任せください!」」

「あと、トノのスキルにょ♡」

(だから、誰が『殿』だっ!)

「判っている!」

「ボス部屋の前でヒメがちゅーするにょ♡」

「だ、だだ、だから、あれは『ちゅー』でなく『医療行為』だからっ!」

 ヒメが、わた、わた、している。可愛い(笑)。

「わたしも『ちゅー』は可能です」

 プーが頬を染めて訴えた。彼女には魔法の素養があるらしい。

(だから、『ちゅー』でなく『医療行為』だからね!)


 そして、お休みの時間だ。皆んなで挨拶を交わしてそれぞれのテントに。

 ヒメに続いてオレも同じテントに入った。

 中は2畳くらいだ。狭いと言えば狭い。しかし、ダンジョンではこれで充分だろう。

 床には敷毛布の上に掛け毛布が掛けられてある。

(えっ?……一組って、一緒に寝ろというコトか?)

 イクイクの策略を感じる。

 ヒメを見たら装備を外していた。

 オレもヒメに倣って装備を外しながら、つい、目がいってしまう。

 ……っていうか、脱衣じゃないけどこっち向いてやられると、色々ヤバいのですが~~~っ!

 マントに籠手や脛当て……この辺りまでは良いのだが……胸当てを外したら、ぼよよん、ですよ(笑)。目のやり場に困ります。

 まあ、ここまでだろうし、良く耐えた……オレ(笑)。

 と、思ったら『収納袋』から何かだした。

 えっ?……こないだのネグリジェ?

 こ、ここで着替えるの?

 装備ではない股下、ぎり、の超ミニのワンピースを肩から外そうとして、ヒメがこっちを見た。

「あんまり、見ないで、恥ずかしいから…」

「ご、ご、ゴメン」

 オレが慌てて回れ右をすると、直ぐに衣擦れの音が聞こえる。

「ぱ、ぱんつも脱ぐからもう少しそっち向いててね…」

(いや、言わなくて良いですから)

 過呼吸になりそうだ(笑)。

「これも『装備』だから、寝る時は外すの…」

(だから、情報開示は不要ですから)

「はい、良いわ」

 お言葉を受け振り返るとネグリジェ姿のヒメが敷毛布の上に坐って髪を梳いていた。

 戦闘中は、きりっ、とポニーテールにしている柔らかそうな金髪が櫛で梳かれて背に流れる。

 昨日の朝、『自分の服さえ自分で脱いだコトなどないのだろう』と思った自分を恥じる。〝第七皇女のおひいさま〟でも、自分の事は自分でする立派な女性レディだ。

 惚れてしまいそうだ。


 いや、とっくに惚れている(笑)。


 髪を梳き終えたヒメが枕を2つ敷毛布の上に並べてから身体を掛け毛布の下に滑り込ませた。

「灯りを……」

 言われてテントの頂点から下げられていたカンテラの灯りを消した。

 できるだけ離れて身体が触れないように、と思って掛け毛布の中に入ると、ヒメが待っていたように抱きついてきた。

「ちょ、ヒメさ……ヒメぇ?」

「前に穴の底で、モブが気絶している隣に身体を横たえた時にね……あなたに抱きついて寝たら、とても安心して休めたの♡」

 そういえば、あの時目覚めたらオレの上に抱きついていたな……

「だから、今夜もこうして良いでしょ?」

 ヒメがオレの首に両腕を廻し、上半身を重ねるように抱きついてきた。顔をオレの肩口に埋め、大きく息を吐く。

「ああ、休まるわあ♡」

(お、オレはまるで休まりませんんんっ!)

 二つの膨らみはオレの胸板で、むにょん、と潰れてるしぃ、オレの鼻先にヒメの髪が良い匂いを振り撒いてくるしぃ。

 いや、髪の毛だけではない。ヒメの身体から立ち昇る得も言われぬフェロモンにオレの血流は下へ、下へ、と集まってゆく。

 絶対、一睡もできない自信があります。

 オレ、朝まで命が持つだろうか……


 そんな事を考えていたが、オレは昼間の戦闘の疲れもあり、直ぐに睡魔に意識を手放したのだった。



   ■ヒメノ・ヒメ視点■


 わたくしが抱きついているのに……な、何で、イビキを掻いて熟睡してるのよぅ!!!

 モブの、莫迦ちん、甲斐性なし、姫殺しぃ!

 もぉ、大きら…………大、大、大好きよ、わたくしのモブぅ♡♡♡



            【つづく】

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