第一章

第1話 その日、俺は異世界で目覚めた!

 その日、俺は異世界で目覚めた!


 何故、『異世界』と判るのか ――

 オレはパジャマを着ているからだ。

 いや、答えになっていない?

 昨夜、部屋でパジャマに着替えて眠りについた。

 そして、オレは今その時のパジャマを身に着けている。しかし、ここはオレの部屋ではない。日本かどうかも怪しい。

 上半身を起こして周りを見渡すと、ぐるり、一周『草原』だ。遠くに山々の連なりが見える。しかし、オレの馴染んだアスファルトジャングル(いや、それ程だった訳でもない。モノの例えだ)は何処にも影も形もありはしない。


 ―― で、結論。ここは『異世界』だ。


 これがラノベなどで読んだ事のある『異世界転移』という……だろうか?

 ん? 待てよ『異世界召喚』……ではないな。『異世界転生』……でもないな。

 オレは『異世界』モノが好きで結構その手のラノベを読み漁ったものだ。

 そのオレの理解では、これは『異世界転移』で間違いなかろう。


 いや、その結論を得たからといって、この不可解な状況が改善するとも思えない。


 オレは気持ちを切り替える為、先ずは現状把握を試みる事にした。

 しかし、立ちあがって改めて、ぐるり、と辺りを見廻したオレは途方に暮れるしかなかった。


 辺り一帯、ただの草原だ。延々とただの草原が広がっている。


 遠くに山々の連なりが見えるが、他には何もない。

 村とか、街とかの、幻影すら見えない。

 装備はごく普通のパジャマだ(まあ、真っ裸でなかっただけ良しとしよう)。足元も当然だが裸足だ。武器も携帯していない。

 ならば、オレの取るべき行動は、なんだ?


 頬っぺたを抓って目覚める。


 いや、いや、いや、現実を見ようね(まあ、一応、念の為、抓ってみたが(笑))。

 残る方策は……諦めて街を目指す。

 方向は…………こっち、かな?

 漠然と歩きだそうとした時だった。

 頭の中に声が響いた。『金属的』というのは、あれだ。コンピューターの自動音声みたいな……。


  ※ スキル【方向音痴】を獲得しました。


 そう、これだよ。『チートスキル』というヤツ……むむむぅ?

 『スキル【方向音痴】』って、何だよっ!?

 イミフなんだが?

 『漠然と歩きだそうと』していた方向を失ったじゃないか!

 【方向音痴】を獲得してどうする。逆だろ? 【方向音痴】を解消する何か、が『スキル』ってモンだろ?

 一人ボケ✕ツッコミをしていた時だった。


 ―― 突然、頭上に影が差した。


 見あげると竜が居た。


  ※ スキル【鑑定眼】を獲得しました。


 また頭の中に自動音声みたいな声が響いた。

 おっ! 今回は役に立ちそうだ。

 ふむ、ふむ、これは『飛竜ワイバーン』というか。

 『年齢=5歳』

 『性別=メス(経験値=処女)』

 おおぅ♡ ……お子ちゃまで、処女の、メス……いや、いや、いや、それ、今必要な情報か?

 倒す方法とかないのかよっ!

 というか、何処から来た!

 見晴らしが良く、近くに外敵は居なさそう……だった筈だ。

 ―― 更にその時、背後から女性の大声が聞こえた。


「☆彡⊇¨◎∀&♂♀▽☆――っ!?」


 見ると『痴女』が居た。いや、胸と腰周りに真っ赤な布を巻いただけの『痴女』が居た。

 直ぐ隣にも『痴女』が居た。首から足元まで覆う大きなローブをまとっているが、ぶるん、ぶるるん、と胸を揺らして走ってくる『痴女』が居た。

 しかし、何と言ってるのかまるで判らない。

 ―― と、


  ※ スキル【言語変換】を獲得しました。


「そこの平たい顔の男ぉ、早く逃げろ――っ!?」

「逃げるにょ~~~!?」

 またも頭の中に自動音声みたいな声が響くと、彼女たちの言葉が理解できた( ← 正確に言うと日本語として聞こえたのではない。彼女たちの言葉がオレに理解できる言葉に(あるいは、意味に)変換されたというのが近い)。

(何だよ『平たい顔』って、失礼な『痴女』だ!)

 いや、そんな呑気に現状把握している場合ではない。

 2人の後ろから更に3人の冒険者風の女性(いや、少女と言えそうだ)が、手に手に武器らしきモノを掲げてこちらに走ってきていた。


 と、言うか……何処から現れた(ワイバーンもだが)。


 彼女たち5人の美少女冒険者が飛竜ワイバーンを討たんと左右に展開してゆく。

 一方、飛竜ワイバーン顎門あぎとを大きく開き彼女たちを威嚇している。


「キシャアアアアアアアアアンっ!!!」


 この世の物とは思えない威嚇の叫びと、辺りに風を巻き起こす羽音が充満する。

 ―― その時だった。

 5人の中央に位置する美少女の背にまとっていたマントが飛竜ワイバーンの起こした風に煽られて身体ごと後方に飛ばされた。

 それを好機と感じたか飛竜ワイバーン顎門あぎとを更に大きく開いた。見ると口腔に炎の塊が生まれつつあった。


 ―― ヤバいぃいいいっ!?


 これ、絶対ヤバいだっ!?

 オレは考えもなしにその飛ばされた美少女に向かってダイブした。

 後で考えればパジャマ一枚で武器すら持たないオレに何ができるのか、と思う。

 しかし、がオレにその行動を取らせたのだ。

 母はいつも言っていた。『男の子はね、女の子を守らなくちゃいけないんだよ!』

 その瞬間、またも頭の中に自動音声みたいな声が響いた。


  ※ スキル【かばう】を獲得しました。


 ―― と、同時にオレの背後に大きな翼のような光の壁が生まれたのが判った。オレは彼女を庇うように両手を広げた。

 次の刹那 ――


「グボォオオオオオオオオオオオオオオオォンンンっ!!!!!」


 耳をつんざく大音響と共に飛竜ワイバーンのブレスがオレたちを襲った。

 オレは死を覚悟せざるを得なかったが、何処かで『スキル【かばう】』にも期待していた。

 そして、オレは見事に飛竜ワイバーンのブレスを跳ね返したのだった。

 この飛竜ワイバーンのブレスが放たれた瞬間というのは攻撃の好機でもあったらしい。

 最初に「早く逃げろ――っ!?」と叫んでいた剣士(?)らしい美少女が見事な跳躍を見せ、肩に担いでいた大剣で飛竜ワイバーンに切り掛かった。その股下、ギリ、の真っ赤なから伸びる、むちっ、とした太腿が眩しいぜ!

 更に、彼女が飛び退いた瞬間オッパイの大きな魔法使い風の美少女が杖を突きだし氷のつぶてを連射した。(む、無詠唱……だとぉ?)

 そして、飛竜ワイバーンの身体が、ぐらり、と揺れたのを見て、オレは足元に仰向けに倒れていた美少女に意識を戻した。


 ―― 彼女は大股開き、というか……M字開脚、というか……大変にで純白の小さな布切れをオレに魅せつけていた。


 が、オレの視線に気づいた彼女がそれを辿って、自身のあられもない姿を知覚した瞬間 ――

 彼女は、ばさ~っ、と背のマントを身体にまとい、オレを睨みつけた。

(いや、オレは悪くない……よな?)

 しかし、彼女はオレの無実を訴える視線を無視して、手にしていた(由緒のありそうな)杖をオレに向け、何やら口の中で詠唱を始めた。

(いや、いや、いや、勘弁~~~~~~~~~っ!)

 杖の先から放たれた氷のブレスをオレが避けられたのは多分(いや、絶対に)偶然だ(笑)。


 いや、もしかしたら……まさかとは思うが……絶対違うと思うが……彼女は、オレの背後で力尽きて倒れかけていた飛竜ワイバーンを狙ったのかも知れなかった。


 結果的にそれが飛竜ワイバーンにトドメを差したのだった。



 それから数刻の後 ――


 オッパイの大きな魔法使い風の美少女が、倒れていたお姫さまっぽい超絶美少女を助け起こして背の埃など叩いてやりながら言ったのだった。

「ヒメ、庇ってくれたこちらのにお礼を言うにょ♡」

(やはりなのか?)

 しかし、彼女は、ぷいっ、と視線を逸らせて、ぼそっ、と呟いた。

「でもぅ……ぱんつ、見られたっ!」

「だから、それは『装備』なんだから見られても何の問題もないにょ!」

「だって、これって……ま、まるで…ぱ、ぱ、パンティ…みたいだものぅ…」

 そこへ、飛竜ワイバーンの死骸を確認していた、むち、むち、で露出過多の筋肉美少女が声を掛けてきた。

「いや、パンティだろ?……装備名は確か【防御率がMAXになる純白パンティ】だったな」


(な、なんですとーっ!?……それじゃあ、オレの『庇う』行為は無意味だった、と?)


「だ、だから……マータみたいに『装備』の上からショートパンツとか穿きたかった、のにぃ」

 お姫さま風超絶美少女がスカートの裾を引っ張り、もじ、もじ、しながら言った。


(な、なんですとぉ?……露出過多の筋肉美少女の、ギリ、股下の真っ赤な腰巻きの下にはショートパンツを着用しているとぉ?……まるで日本の女子高生の如きケシカラン『装備』の着用方法だっ!)


「いや、『装備』なんだから隠したらダメだろ?……見えてこその『装備』だっ!」

「そうにょ!……命の危機が迫っているのを『装備』が知覚して発動するにょ!……だから、上からマントやらショートパンツやらで隠したら、イザ、という時に発動しないにょ!」

「だって、だってぇ……肌触りとか、材質とか、見た目とか、その物なのよぅ?」

「まあ、【防御率がMAXになる純白パンティ】という名称からして『パンティ』そのものだろうな」

「で、でもぅ……それじゃあ、普段から…ぱ、ぱ、ぱんつを晒して…あ、歩かなくちゃ、いけないのぅ?」

「ナニ言ってるにょ?……普段から危険もないのに人前でパンツを晒していたら、にょ!」

 『痴女』に『痴女認定』された〝お姫さま風超絶美少女〟は、がっくり、と膝をつき泣きそうな声を洩らしたのだった。


「はうううぅっ!」



            【つづく】

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