殺し屋の狂恋

ペンギン

第1話これが恋

僕はたぶん、普通の人よりだいぶ狂ってる。


なぜかって?それは目の前の光景にとても興奮してるからさ。


「ー…」


今、僕の目の前には女の人がぶら下がってる。


ここは自殺の名所で名高いとある森の中。


そこにある一際大きな木に、その人はぶら下がっていた。


「美しい…とても綺麗だ。」


まだ死んで間もないんだろう。


ほのかに温かい頬はまだほんの少しだけ赤みを帯びている。


そっと触れてみれば泣いていたのか、涙の跡がうっすら残っていた。


「はは…なんで生きてる間に会えなかったかなぁ。」


とても残念だ。


まさか長年殺し屋をしてきた僕が初めて恋したのが死体だったなんて。


むしろ僕らしい?


君はどんな声だったのかな?


どんな性格だったのかな、名前は?


どうして、死んでしまったのかな。


こんなにも君を知りたいのに、白くなっていく君からは何も知る事ができない。


非常に残念だ。


「今回のターゲット、埋めたらこの子を降ろそうかな。」


もっと触れていたい。


せめて名前だけでも知れれば満足なのに。


何かないのかな。


この子を知る手がかりは。


ーカサ…


「ん?手紙?あぁ、遺書か。」


綺麗なオレンジ色のスカートのポケットの中。


少しはみ出た遺書が存在をアピールしている。


もしかしたら彼女の名前くらい分かるかもしれない。


「わ、すごく綺麗な字だ。…へぇ、恋人に振られてねぇ。だったらその座、僕がもらったのに。」


名前は…マーレ。海?壮大な名前だ。


この子をこんなに悲しませたこの男、代わりに僕が殺してあげようかな。


復讐代行。


普段はこんな事しないけど、特別に♪


「さてと。それじゃ彼女を回収して僕も帰ろうかな。」


適当に埋めたターゲットの死体を見下して手をはたく。


綺麗な彼女に触れるのに汚れてちゃ申し訳ないから。


「よっこいしょっと!ふぅ、すごく軽い。ちゃんと食べてたのかな、この子。」


降ろしてあげてからお姫様抱っこをしてみる。


生気のない顔には似つかわしくないほどのフワリとしたいい匂いがするな。


「僕のモノになればよかったのに。」


チュ。


もうだいぶ冷たくなった唇にキスを落として彼女の顔をよく見た。


開かない彼女の目を見ても、僕は手に入れた満足感で目を細めていたんだ。


なのに…


ーパァン


「けふ…っなんだ?これ…」


そんな穏やかな雰囲気の中、短く響いた銃声。


少ししてから僕の口から溢れる真っ赤な血。


撃たれた?僕が?


ードサ!


「はぁ…はぁ…、、ははは!まさかこんな素敵な最後だなんて思わなかったなぁ。」


痛いイタイいたい…撃たれたところから血がドクドクと流れてしまってる。


あぁ、僕死ぬんだ。


でも僕の血で赤く濡れてしまった彼女を見てさらにゾクゾクと満足感が上がるのは不思議だなぁ。


最期に汚してしまったのは申し訳ないけど、これは僕からのマーキングね。


「目が…霞んできた…ねぇ、来世では僕のモノになってよ。必ず見つけるから。」


残った力を振り絞って彼女を抱きしめる。


柔らかい…


なんて幸せなんだ。


「やくそく…だよ…」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る