婚約破棄されたらループするので、こちらから破棄させていただきます!~薄幸令嬢はイケメン(ストーカー)魔術師に捕まりました~
雨宮羽那
第1話
「僕は、真実の愛を見つけたのだ。フェリシア、君との婚約は、破棄させてくれ」
「ごめんなさい、お義姉様……。私、ヘンリー様をお義姉様から奪うつもりとかなくて……」
「ああ、エレノア……、君が気に病む必要はないさ。悪いのは僕だ……。君の魅力に抗えなかった僕が悪い」
「まぁ……ヘンリーさま……」
目の前で寄り添い合うのは、私の婚約者だった伯爵家長男・ヘンリーと私の義妹・エレノア。
仲睦まじい二人の姿に、私、フェリシア・ウィングフィールドは思った。
――もう、いいや。と。
この光景を見るのは、
毎度決まって、婚約破棄を告げられた後にエレノアが私を見てニヤリと笑う。そして次の瞬間、世界が暗転して私は一年前に戻ってしまうのだ。
一年前の、ヘンリー様との婚約が決まった瞬間へと。
初めは、初恋の人でもあったヘンリー様から婚約破棄されたことが悲しかったし、それ以上に義妹に奪われたことが悔しかった。
だからこそ、やり直す機会を与えられて喜びもした。
しかし、ヘンリー様に前以上にアプローチするも上手くいかず。二人が仲良くなるのを徹底的に邪魔してみても意味がなく。仲の悪かった義妹といっそ仲良くなろうとしてもダメ。義妹と距離をとってもダメ。
結末は毎回同じ。婚約破棄されてまたループするの繰り返し。
そうして四度目の婚約破棄が告げられて、なんだか気持ちが冷めてしまった。
――そんなにエレノアが好きなら、もう好きにして。姉と婚約が決まっているのに義妹に手を出すような男、私だって願い下げよ。
「……そうですか」
私はただ一言だけ返した。
エレノアが私を見て、勝ち誇ったようにニヤリと笑う。それを合図に世界がぐるりと回り、暗くなる。
――ああ、やっぱりまただ。
ぐるぐると回る視界の中、私は考える。
――もし、またあの日に戻るなら……次は……。
◇◇◇◇◇◇
「……では、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ。今後ともよろしく頼む」
はっと目を開けると、そこは屋敷の客間だった。
私の隣には、ウィングフィールド公爵家の当主であるお父様。目の前には、ヘンリー様とそのお父上である伯爵様が座っている。
――やっぱりまた戻ってきたみたいね。
このシーンを見るのはこれで五度目になる。
忘れもしない、ヘンリー様との婚約が決まった日だ。
「これからよろしくね。
『白光の令嬢』とは、私のことを示すあだ名みたいなものだ。
ホワイトブロンドの髪や肌の白さから、私は社交界で『白光の令嬢』と呼ばれていた。
――何が白光、よ。白光じゃなくて、薄幸の間違いでしょ。
皆は褒め言葉として呼んでくれたのだろうが、今となっては別の意味に聞こえる。
何度も婚約破棄され続けて、やさぐれ気味の私は思う。
幼い頃に母を亡くし、五年前に再婚した父が連れてきたのは義妹と、義妹ばかりを優遇する継母だった。
義妹・エレノアは、服でも本でも私のものをなんでも羨ましがり、すべて盗っていった。
父は継母に頭が上がらないらしく、義妹が私のものを盗っても何も言ってくれない。
挙句、継母は金遣いが荒いようで、ウィングフィールド公爵家の家計は火の車に陥っていた。
この婚約は、いわゆる政略結婚だ。
私が伯爵家へ嫁ぐ代わりに、
それでも私は、ヘンリー様のことが好きだった。
――でも、それは今までの話。
「フェリシア?」
差し出されたヘンリー様の手。
今までは、その手を握り返していた。
しかし、今回はそれをはたき落とした。
「申し訳ありませんが、その婚約、破棄させていただきますね」
「……は?」
婚約が結ばれてものの数分で破棄されるだなどと、誰が思うだろう。
ヘンリー様がぽかんとしている。いい気味だ。
「フェリシア! この結婚の意味がわかっているだろう!?」
「ヘンリー様のお相手でしたら、私じゃなくてもよろしいでしょ? エレノアなんていかがかしら」
この結婚の意味なんてわかっている。
だけれど私はもう、ヘンリー様との結婚にうんざりしているし、エレノアにもお義母様にもお父様にも嫌気がさしていた。
――なにより、もうループするのは嫌だ。
怒鳴る父を尻目に、私はソファーから立ち上がった。
「勘当でも好きになさってくださいな。私はこの家を出ていきます」
呆気に取られている三人を放置して、私は急ぎ足で自室に向かった。
◇◇◇◇◇◇
――ああ、やっと解放された! そもそもの婚約がなければループなんてしないでしょ!
すぐさま家出の準備を整えた私は、開放的な気分でトランク片手に森を歩いていた。
とりあえずの目的地は、森を抜けた先にある町だ。
今の私は、必要最低限のものと、お金になりそうな宝石数個しかもっていない。
町に着いたら宿と、それから仕事を見つけよう。
私は令嬢ではなく、ただのフェリシアとして生きていく。
と、私が決意を固めていると……。
「ああ? なんでこんなところにこんな身なりのいい女がいるんだぁ?」
柄の悪そうな男たちと遭遇した。
一応持っていた中で一番簡素なワンピースを身につけたつもりだが、(元)お嬢様であることが見抜かれてしまったらしい。
私の姿を上から下まで眺め、男たちは顔を見合わせる。
「どっかの令嬢か?」
「売ったら金になりそうだな」
「待て、こんな綺麗な女、見かけること滅多にねぇぞ。先に俺たちで楽しんでもいいんじゃねぇか?」
――あ、終わった。
話し合う男たちに、私の顔から血の気が引いていく。
――に、逃げなきゃ。
筋骨隆々な男性たちは、にたにたと気持ちの悪い笑みを浮かべながらこちらへ近づいてくる。
だっと駆け出したものの、女の足だ。男たちにすぐに追いつかれてしまった。
男の1人がぐっと私の腕を掴むと、そのまま私を地面へと引き倒した。他の男たちも、私の方へと近寄ってくる。
「残念だったな、お嬢ちゃん」
「離して!」
私はどうにか男の手から逃れようと、じたばたと暴れた、のだが。
「……っううッ!」
突然目の前の男が、喉を掻きむしり苦しみ始めた。
――え?
「な、なんだ……ッ?」
「わかんねぇ……、ただ苦しい……ッ」
他の男たちも、皆喉元を押さえて苦しそうにしている。
わけが分からないまま男たちから距離をとると、私と男たちのちょうど真ん中でふわりと風が起きた。
「俺のフェルに手を出そうとしてるのは誰だい?」
風の中から、低く、そして甘い男の声が聞こえる。
目の前の風が緩やかにやんで、私の前に姿を現したのは、銀の長髪が美しい長身の男だった。
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