図書館の奇談

@nanimonoka

第1話「田舎の祠」

「キーンコーンカーンコーン」


蝉の音を遮るように、放課後を告げるチャイムが鳴った。嬉しいはずのその音が、今日は少し憂鬱に感じられた。「やっぱり帰ろうかなぁ」と呟いて友達の健人に目を向けると、彼は期待に目を輝かせ、首を横に振っていた。


肝試しをやるんだろうなと僕は肩を落としつつ、諦めた。


夜になり、懐中電灯を手に持って学校の門の前に立つと、健人は一層興奮した様子で、「肝試しだ!早く入ろうぜ!」と声を上げ、校門を豪快に開けた。


「お、おい。誰かいたらどうするんだ?」と僕は健人の肩を掴んで言ったが、彼は「大丈夫だって」と軽くあしらい、校舎に目を向けた。夜の校舎が静かにこちらを見つめているような気がして、背筋に寒気が走る。


「さ、さぁ行くぜ」と健人がゆっくりと進み始めたので、仕方なく僕も後に続いた。校舎の中はもちろん誰もおらず、静寂に包まれていた。


「な?誰もいないから大丈夫だって言っただろ」と自慢げに言う健人に、僕は呆れつつも安心感を覚えた。


しばらく歩いているうちに図書館に着いた。中は真っ暗で、不気味な静けさが漂っていた。「やっぱり怖いなぁ」と僕が呟くと、健人は嬉しそうに「大丈夫だ!俺がいるからな!」と答えた。彼は懐中電灯を持って奥に向かって行き、僕も慌ててその後を追いかけた。


図書館の奥に入る時、「ポトン」と本が落ちたような音が聴こえた。


「ん?今なんか音したか?」と健人が言うと、僕は首を横に振り、「気のせいだよ」と自分に言い聞かせた。「気のせいか、じゃあ早く行こうぜ」と健人は懐中電灯で周りを照らした。すると、床に本が落ちているのが見えた。


「ん?なんだこれ?」と健人が本を拾い上げると、きれいな表紙に『戦慄のホラーストーリー集』と書かれているのが見えた。僕は慌ててそれを取り上げようとしたが、もう遅かった。


「なんだよー!気になるじゃん!」と健人は言って本をめくり始めた。



『田舎の祠』


私たちが住む田舎には、古びた祠があった。村人たちの間では、「祠には怪物がいる近づくな」という言い伝えが代々語り継がれていた。しかし、夏休みのある日、私は幼なじみの直樹と一緒に、その祠を訪れることになった。


「やっぱりやめようよ、直樹」と私が言ったが、彼は意気揚々と先を進んでいた。「大丈夫だって、祠なんてただの古い建物さ」と彼は笑って答えた。


祠に到着すると、周りの空気が一気に変わったのを感じた。昼間なのに薄暗く、木々のざわめきが耳に刺さるようだった。祠は木々に囲まれ、苔むした石段が入り口へと続いている。


「ほら、何もないだろう?」と直樹が石段を上りながら言った。私は不安を抑えながら、彼に続いた。祠の中は思ったよりも広く、古い木の匂いが鼻をついた。中央には古ぼけた木製の祭壇があり、その上には謎めいた石像が置かれていた。


「見て、この石像。何か意味があるのかな?」と直樹が言いながら石像を手に取ろうとした瞬間、祠の奥から低いうめき声が聞こえた。「帰ろう、直樹。やっぱりここはまずいよ」と私は言ったが、直樹は「もう少し見てみよう」と石像を持ちあげた。うめき声は次第に大きくなり、祭壇が微かに揺れているように見えた。


突然、直樹が驚き、石像を手から落としてしまった。うめき声が笑い声に変わり、祠全体が震えた。地面から冷たい風が吹き上がり、私たちは恐怖に凍りついた。「逃げろ!」と直樹が叫び、私たちは必死に祠を飛び出した。


村に戻った私たちは、何事もなかったかのように振る舞おうとした。しかし、その晩から奇妙な夢を見るようになった。夢の中で私は再び祠に立ち、首が取れた石像が私を見つめている。逃げようとしても足が動かず、ありがとうと言う声が祠から聞こえる。


村の長老に相談すると、彼は深刻な顔で「その祠には近づくべきではなかった」と語った。昔、その祠には邪悪な霊が封じられており、石像はその霊を鎮めるためのものであったという。


「祠を汚してしまった以上、霊はお前たちを追うだろう」と長老は言った。恐怖に震えながら、私たちは祠に戻り、石像を元の場所に戻した。祠から低い声を聞こえず、安心した。


それ以来、私たちは二度と祠に近づかないことを誓った。社会人になり、上京した今でも、夢の中で横からありがとうと言う声が聞こえる。


健人は本を閉じ、「面白いけど、なんか気味が悪いな」と言った。僕も同感だったが、ふと図書館の静寂が一層深まったように感じた。その瞬間、遠くから低い笑い声が聞こえてきたような気がして、背筋が凍りついた。「帰ろう、健人」と言うと、彼も真剣な顔で頷いた。僕たちは急いで図書館を後にし、静かな夜の校舎を駆け抜けた。



外の新鮮な空気を吸い込むと、二人は無言で歩き始めた。夜の静けさが、僕たちの心に残る恐怖を少しずつ和らげてくれるのを感じた。それでも、あの祠の話が頭から離れなかった。本の続きを見てみたいという気持ちが、心のどこかに芽生えていた。

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