話で調べるユートゥジ

@naojapan

シニフジョー

安里さんが9歳の夏頃祖父が亡くなった。

当時安里さん家族は埼玉に住んでいたので、祖父の訃報を祖母からの電話で知った。

電話で報せを聞いた父は

「おじいちゃんが亡くなったから沖縄に行く準備をして」

と暗い顔で言った。

母は妊娠中だったため、父と2人だけで行く事になった。

安里さんの両親は沖縄で生まれ育ったのだが、安里さんは埼玉で生まれ沖縄で住んだ事は無かった。

そのため、祖父の葬式ではあったが少し旅行気分で沖縄に向かった。


沖縄に着くと、父の兄に当たる叔父が空港まで迎えに来てくれた。

叔父は両目の黒目が両端に離れている。

6歳の時正月に一度沖縄に行った時、その目がとても不思議に感じたのを思い出した。

叔父は自分を見ると

「さきちゃん大きくなったね」

と優しく笑って荷物を車に積んでくれた。

叔父の車で祖父の家に向かう途中、

「お前もそろそろ沖縄に帰ってこないか?」

叔父が父に問いかけた。

「沖縄のシキタリは合わないからあまり帰りたくない」 

父は流れる風景を見ながらそっけなく答えた。

「知っているだろ」

父は少し時間を置いて言った。

叔父が軽く頷くと、それ以上話そうとしなかった。


その夜だった。

私は祖父が使っていた部屋で祖母と2人寝ていた。

父と叔父は隣の部屋で線香が消えない様に交代ずつ寝ていた。

夜中に目が覚めてしまい、眠れずにいると急に視線を感じた。

視線の先に目をやると、死んだはずの祖父だった。

父と叔父がいるはずの部屋からふすまが少し開き、首だけをこの部屋に出していた。

祖父は遺影のような笑顔をしていたが、私にはそれがとても不自然に思えた。

祖父は私の目を見つめながら私の背後を指差していた。

その時、急に祖父の首が引っ込みふすまが閉まった。

振り向くと、いつのまにか起きていた祖母が後ろの何かに白い布を被せていた。

「仏壇にはしていたけどここは忘れていたさ」

「シキタリを守らないで怖い思いさせてごめんね」

祖母はそう言った。


葬式も終えて来た時と同じ様に叔父に車で空港に送ってもらってる途中、あの夜の事を叔父に聞くと

「気づくと玄関が開いて入ってきた、あれは祖父じゃない」

としばらく沈黙した後答えた。

「シキタリ」

それを聞いた父はぼそっと言った。

あの夜、隣の部屋で私が祖父に見えたナニかが父や叔父にどう見えていたかは聞けなかった。


埼玉の家に帰ると、玄関で母が迎えてくれた。

母はシキタリだからと笑いながら私の肩に塩をかけた。

その夜は急に父が一緒にお風呂に入ろうと言うので、久しぶりに一緒に入った。

父は何かを思い出した様な険しい表情をしていた。

お風呂で父に背中を流してもらっていると

「よかった」

と父がつぶやいた。

振り向くと父はホッとした顔をしていた。

「どうしたの?」

私が聞くと

「沖縄にはいろんなシキタリがあるんだよ」

と答えた。

「守らなかったらどうなるの?」

その言葉を聞くと父の顔が険しくなった。

「沖縄のシキタリが合わない人は沖縄にいてはいけない」

父はそう答えた。

その時、父と叔父の車での会話を思い出した。

父と叔父はシキタリを守らなかったら、どうなるのか知っているのだろう。

それに気づいた私はそれ以上シキタリについて考えることは辞めた。

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