第6話
雷撃と打撃の二つにほぼ同時に対処した黒木の姿を見た冴島はハンナには少し荷が重いかもと判断し先回りすることにした。
西園寺は学園長に混ざるか?と聞かれたが断った。
彼女としては古き友人であり、小さい時の自分の誓いのためには彼が学園に来てくれた方がうれしいし、安心もできる。
だがそれは自分の感情であって彼の考えや気持ちを無視していることを理解している。
『世界の半分』に黒木が狙われる危険性は理解しているが、ではこれまでも同じ危険はあったのに魔術教会は彼を保護するために動いていたかを考えれば否である。
であれば、今までと同じ生活を続けても大丈夫なんじゃないかと思っている。
それにもし本当に彼の身に何か危険があるのなら誰よりも早く自分がかけつけられるようにしていればいい。
そう考えていた。
とはいえ、学園でも実力はの2人を相手に出来る時点で必要ない可能のほうが大きいが。
一歩も止まらぬ黒木に目にもとまらぬ攻めを続けるが、実際黒木は見ることなく対処して歩いていく。
「なんでそこまで本気になれるんですか」
「君の保護は私も必要だと思ってるし、飛鳥さんにも頼まれてますから」
「貴方より強いのに?」
「私より強くても、他の誰かより強い証明にならないですからね」
ハンナの術式は稲妻。
人の身体に常に流れている微弱な電気を増大させ稲妻のようにして攻撃したり、身体に纏い脳から全身への電気信号を魔術によって管理し人の限界を超えた速度で動いたり、稲妻を纏った攻撃で相手を感電させることもできる。
彼女の術式を初見で対処することは並みの術師では難しいことのはずだが、黒木は生まれつき持っている権能によって彼が喰えるを思ったモノは何であろうと喰らい尽くすことが出来る。
それは稲妻であろうと、権能を発動しているときであれば彼が喰えると思ったモノが触れた途端にそれは消化される。
黒木飛鳥はこれを呪いと呼んでもいるが。
攻防の中で黒木は玄関まで辿り着く。
俺は靴を履き替える。
その間にも攻撃は止まないが、西園寺と学園長からのアプローチが0なのが気になる。
帰りたいから急に始めたこととはいえ2人も俺の邪魔をしてくると思ってたんだけどな、と思いながら外に出ると仁王立ちした学園長が黒い笑顔を浮かべていた。
笑っているけど笑ってないような、目は笑ってない、ただ大人として子供の遊びにいやいや付き合ってあげているような。
怒れない相手がとんでもないやらかしをしてしまってそれを見ているような顔かもしれない。
「私はあまりこういった遊びは好きではないのだけどね」
「そういう割には一番いい位置を陣取ってるじゃないですか」
「聞き分けの悪い子供をどうにか泣かれないように言い聞かせようとする気分よ」
あーそういう顔か。
「いてっ!?」
一歩外に踏み出したら何もない空間に頭をぶつける。
「?」
綺麗すぎてそこにあるようには見えないくらい透明度がヤバいガラスでもあるのかと手を伸ばす。
そこには見えないが確かに何か壁のようなものがある。
結界かな?
「私はあまり乱暴なのは嫌いでね、校舎全体を結界で囲わせて貰ったよ」
「出れなかったら負け?」
「そうしてくれると助かる」
自信満々でこちらを見ている学園長とその様子を見て攻撃をやめたハンナさん。
いいのだろうか俺に考える時間を与えても。
これでも世界最強の魔術師の弟子なんだが。
この世のすべての人に言いたい。
世界最強の弟子というのがどういうものか、何を目指すべきなのか。
世界最強の弟子。
世界最強の師匠の弟子。
俺は世界最強ではない。
じゃあ世界最強の魔術師の下で、弟子として、教えられた俺の完成系とはなにか。
それは勿論。
弟子は師を超えることで完成と、俺の師黒木飛鳥も言っていた。
つまりは世界最強が俺の目標であり、そうするために俺は今日まで黒木飛鳥に絞られてきた。
で、あればこういった特殊な結界の対処も身についている。
結界とはすんごく大雑把に2種類に分けることが出来る。
たとえば何もない大きな多目的ホールのような空間を思い浮かべて欲しい。
そこの一角を壁で囲って部屋を1つ作る。
これが結界その1。
だがこの結界はそれとは違い、多目的ホールを真ん中でぶった切りそれぞれを別の建物の部屋として作る。
結界その2。
そしてこれは2の方の結界。
結界の中と外で次元が別たれ別世界扱いになっているともいえる。
それをこんな短時間で作り出すとはすごいなこの人。
そしてこういった結界の対処法とは。
まずはここまでの道のりを全力で駆け戻り、階段が終わるまで上に。
鍵の掛かっているドアは蹴破り。
屋上に出る。
屋上があってよかったと少し安堵しつつ術式を展開する。
魔法使いのアトリエ 安心院りつ @Azimuritu
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