魔法使いのアトリエ

安心院りつ

第1話

 町外れにある古びた洋風の建物がある。

 少し前までは1人の女が住んでいたが、元々放浪癖のある彼女は青年に管理を任せて旅に出た。

 何故青年も一緒に行かなかったのかは単純な話で、彼は学生でこの近くにある学校に通い、ここに住んでいたからだ。


「学業は最後までやり遂げろ」


 それが彼女がここを出るときの言葉。

 絵を描くためのアトリエとして使われている部屋でイーゼルにかけられたままの1枚の絵を眺めながら今日は何をしようか考える。

 1人で住むには広すぎる家は自分の部屋、女の部屋、アトリエの3部屋と空き部屋1つで2階が構成され1階はLDKとトイレと風呂、そして客間。

 やることもないので少しずつ掃除をしているが飽きた。

 高校生活も3年目だというのに俺は未だに学生らしいことというのが出来てない気がする。


 高校生らしさが何か分からないが。


 スマホで『高校生 休みの日 なにをする』でネット検索をしたところ、動画を見る・ゲームをする・勉強をする・友達とメッセージを送りあう・筋トレをする。


「なるほど」


 呟きながら真っ白な画用紙に魔術式を組み上げていく。

 勉強やトレーニングというならば新しい魔術開発もそれに入るだろう?

 誰も成功させたことのない時に干渉する魔術。

 人の身体能力や思考能力にブーストをかけてまるで周りがゆっくり動いているような錯覚を得られるような術はあるが、これは脳と体の負荷が高すぎてあらゆる部分がショートしそうになる。

 でも時間を操ることが出来れば、限界がくることがなく圧倒系有利を得ることが出来る。


 空間が操作出来るなら時間だって出来ていいだろう。

 ずっと考えてずっと失敗して永遠と完成しないかもしれないが、この瞬間が一番楽しい。


 そうかこれが高校生らしさか!


 ピンポーン。


 失敗して燃え尽きた画用紙が4枚目まできたところでこの思考を邪魔する音が流れる。


 ピンポーン。


 ラクゾンで買ったものもないし、出前も頼んでいないのにいったい誰だろうか。

 部屋にあるインターホンに応答するための子機を手に取るとモニターには学生服っぽいのを着た男が立っていた。


「はい」

『あれ、え?・・・』

「どちらさまで?」

『えっとここって黒木さんのお宅でしょうか?』

「そうですけど」

『黒木飛鳥様はいらっしゃいますか?』


 黒木飛鳥は保護者であり血の繋がっていない母のようなものだ。


「あの人なら旅行中なのでいませんよ」

『そうですか・・・失礼します』


 結局名乗りもしないでどこかへ行ってしまう。

 あの戸惑い方からインターホンから誰か応答する人がいるとか、本人以外の人物が応答する可能性は全くないというように考えていたっぽいように感じたけど。

 まぁいいか、自分1人で考えてもなにもわからん。

 ていうか彼に学生らしい休日の過ごし方を聞くのもアリだったんじゃなかろうか。


「・・・」


 さすがに初対面でそんなことを聞いたら怪しまれそうだからやめておこう。

 とはいえ、術式もうまく行きそうにないし、お腹もすいたし出かけるかな。

 服は特に持ってないので制服を着て家を出る。


 春といえども気温は高め、最近は寒くなるのが早かったり熱くなるのが早かったり季節がズレてるんじゃないかと思う気候をしている。

 夏日とまでは言わなくても長袖Yシャツでは少し熱い。


 町から離れてポツンと一軒家なため少し歩かないといけないし、こういうときに他の服を持っておくべきか悩む。

 なら今日は服も見ておこう、シロクロって有名な服屋さんがあったと思う。

 歩いているとなんとなく人目を感じるけど、さっきの人だろうか。


 さ、て、と。


 町に入ってしまえば人目も感じなくなり、今度は人込みという視界の熱さに頭がくらっとする。

 さっさと腹ごしらえだけして帰ろう。

 どっかヨシギュウにするかマツギュウにするかスキギュウにするか、はたまたナカタマにするかウサギ製麺にいくか。

 歩きながら何を食べようか悩んでいると。


「ホノカくん?」


 自分の名前が聞こえた方向を見ると、さっきの男と同じような服装をしたどこか見覚えのある人物が立っていた。

 記憶があっていれば。


「西園寺早苗か?」


 整った顔立ち、手入れの行き届いた綺麗な黒髪、モデルかってくらい綺麗な体のラインと長い脚。

 小学生くらいまでは家が近所だったこともありよく遊んでいた幼馴染と呼んでいいのかな。

 それともただの古い知人程度だろうか。

 判断が難しい。


「はい!お久しぶりですねホノカ君!」


 守ってあげたいこの笑顔と一瞬で思えるくらい美人になっちまってまぁ。

 綺麗な立ち姿からも育ちの良さが漂ってくるような彼女は正真正銘お嬢様である。


「早苗の知り合いかな?」


 日本人と西洋人の間のハーフっぽい顔立ち、髪は薄い黒?茶髪?とりあえずイケメン。


「はい幼馴染の鏡ホノカ君です、ホノカ君こちらは同じ学校の日野レオ君です」

「西園寺、鏡は旧姓で今は黒木仄なんだ」

「あっ、そう…なんですね、ごめんなさいホノカ君」

「久しぶりだしな、鏡って苗字も好きだったからいいよ」


 とてもバツが悪そうな、悲しそうな顔になるがすぐに笑顔に戻って。


「そうだ!連絡先交換しませんか?ホノカ君とたくさんお話したいですし」

「いいよ」


 スマホを取り出しお互いのIDを交換する。


「早苗そろそろ」

「そうですね、ごめんなさい今私達学校の課題中なので行きますね、終わったら連絡しますね!」


 こんなところで小さい時の友人と会うとは外に出るのも面白いな。

 毎日こんなことが起こればたくさん出かけるんだけど、昨日も一昨日もそのまえもそんなことは無かったからそっちが普通であることは分かっているけどもね。

 ていうかあの二人は付き合ってるんだろうか?

 学校の課題だとしても男女のペアで行動して、美男美女でお似合いで、考えてたらすこしヤキモキしてきた。

 そんな感情も自分には関係ないなと一蹴して捨てる。

 結局今日も俺的牛丼屋ランキング1位のヨシギュウに入りつゆだく大盛りをたいらげる。


 服はまあ別の日も買えるじゃんってことで帰ることにする。

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