第13話 sideマーズ②
プルート聖騎士の動きは辛うじて目で追える。しかし、目で追えるのが辛うじてという時点で、俺が攻撃を当てられる可能性がガクンと落ちている。
俺の持つ武器が大剣という特性上、叩き伏せることに長けているが俊敏性に欠ける。この速さを攻略する事が彼を倒すことに繋がるだろう。
幸い、建物はほとんど崩壊していて死角はない。開けた場所で戦えるのが不幸中の幸いだ。
「ほら隊長殿、僕の事捕まえてくださいよ」
こいつは俺が攻撃を空ぶっても反撃してこない。いつでも殺せるという舐めたメッセージなのか、はたまた何かを警戒しているのか。
俺は肉体と精神を作り上げてから
しかし、俺はそんな理由で止まっていいはずがない。たとえ攻撃が当たらなくとも、たとえ相手が舐めていたとしても、全て俺が未熟なのが悪い。
「こんな短時間で使うもんでもないんだけどな……」
俺は地面に
「『
舐めていたプルートの顔付きが変わる。兜で見えなくても分かるほどに雰囲気が変わり、彼は抜いていなかった細剣を抜いた。
「『
プルートは俺の詠唱中に、見た事もない速さで俺の顔目掛けて細剣を伸ばす。だがその瞬間、俺の手は
プルート聖騎士がどんなに速くても
俺は彼に向けて放つ。サンファー国軍隊長に代々伝わる神速とも言える一撃。
「『
速さで勝っていた彼に速さで勝つ。力ではどうも勝ち筋が見えず、その点は彼に負けたと言えるだろう。
彼は攻撃を避けきれず、蛇を模した兜の横側がかなり削れた。
「降参です」
プルート聖騎士は武器を収めて両手を上げた。
「諦めるのが相変わらず早いなお前は。腕相撲でも持久走でも高負荷訓練も、今まで全部諦めるのが早かったぞ」
隊長殿には勝てませんから。と、プルート聖騎士は言う。もっと気張れよと一喝したいが、それは老人のエゴだろう。
でもひとつだけ、これだけは言いたいということがあった。
「不得意を諦めるなら、さらに得意を伸ばせ。そこまでに至ったお前さんなら出来る」
「肝に銘じます」
プルート聖騎士は一礼する。
中層での俺の役割は終わった。先に向かわせた精鋭達に追いつくため、俺もすぐ上層への大階段へ向かった。
「「マーズ隊長!」」
息を切らしながら子鹿のように足を震わせる騎士が2名。コイツらはアーサーについて行った訓練兵2人のようだった。
おそらく残りの3人は下層で脱落し、この2人はアーサーと中層へ上ってきたのだろう。
「俺たち……、マーズ隊長のところに行けと、アーサー騎士長様に言われて……、来ました」
とても苦しそうな2人は、それでも言われた事を守り俺の元へ来た。根性とやる気が凄まじい。
「さすが俺の妻だな。こんな訓練兵をいち早く見抜いて戦場を経験させるなんて」
思わずアーサーの凄さに感動してしまった。潤んだ瞳をまばたきでかき消し、俺はこの訓練兵2人を連れて上層へ向かった。
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