第13話 sideマーズ②


 プルート聖騎士の動きは辛うじて目で追える。しかし、目で追えるのが辛うじてという時点で、俺が攻撃を当てられる可能性がガクンと落ちている。


 俺の持つ武器が大剣という特性上、叩き伏せることに長けているが俊敏性に欠ける。この速さを攻略する事が彼を倒すことに繋がるだろう。


 幸い、建物はほとんど崩壊していて死角はない。開けた場所で戦えるのが不幸中の幸いだ。


「ほら隊長殿、僕の事捕まえてくださいよ」


 こいつは俺が攻撃を空ぶっても反撃してこない。いつでも殺せるという舐めたメッセージなのか、はたまた何かを警戒しているのか。


 俺は肉体と精神を作り上げてから宵闇の大剣グレートソードを握った継ぎの英雄に過ぎない。アーサーのような本物の英雄には負ける。


 しかし、俺はそんな理由で止まっていいはずがない。たとえ攻撃が当たらなくとも、たとえ相手が舐めていたとしても、全て俺が未熟なのが悪い。


「こんな短時間で使うもんでもないんだけどな……」


 俺は地面に宵闇の大剣グレートソードを突き立て、1本タバコを吸う。そしてホコリと砂にまみれた髪の毛をかき上げて煙を吐く。


「『ちから所持者しょじしゃために、破壊はかい権化ごんげはこのために』」


 舐めていたプルートの顔付きが変わる。兜で見えなくても分かるほどに雰囲気が変わり、彼は抜いていなかった細剣を抜いた。


「『いでつむいでいま穿うがつ』」


 プルートは俺の詠唱中に、見た事もない速さで俺の顔目掛けて細剣を伸ばす。だがその瞬間、俺の手は宵闇の大剣グレートソードを握り細剣を弾いていた。


 プルート聖騎士がどんなに速くても白銀の狼アーサーのイカれた回避や身のこなしは出来ないだろう。


 俺は彼に向けて放つ。サンファー国軍隊長に代々伝わる神速とも言える一撃。


「『軍神の紡ぎし一矢アレススタビング』!」


 宵闇の大剣グレートソードを横に構えて一点に穿つ。狙った一点はプルート聖騎士の顔のすぐ隣。


 速さで勝っていた彼に速さで勝つ。力ではどうも勝ち筋が見えず、その点は彼に負けたと言えるだろう。


 彼は攻撃を避けきれず、蛇を模した兜の横側がかなり削れた。


「降参です」


 プルート聖騎士は武器を収めて両手を上げた。


「諦めるのが相変わらず早いなお前は。腕相撲でも持久走でも高負荷訓練も、今まで全部諦めるのが早かったぞ」


 隊長殿には勝てませんから。と、プルート聖騎士は言う。もっと気張れよと一喝したいが、それは老人のエゴだろう。


 でもひとつだけ、これだけは言いたいということがあった。


「不得意を諦めるなら、さらに得意を伸ばせ。そこまでに至ったお前さんなら出来る」


「肝に銘じます」


 プルート聖騎士は一礼する。


 中層での俺の役割は終わった。先に向かわせた精鋭達に追いつくため、俺もすぐ上層への大階段へ向かった。


「「マーズ隊長!」」


 息を切らしながら子鹿のように足を震わせる騎士が2名。コイツらはアーサーについて行った訓練兵2人のようだった。


 おそらく残りの3人は下層で脱落し、この2人はアーサーと中層へ上ってきたのだろう。


「俺たち……、マーズ隊長のところに行けと、アーサー騎士長様に言われて……、来ました」


 とても苦しそうな2人は、それでも言われた事を守り俺の元へ来た。根性とやる気が凄まじい。


「さすが俺の妻だな。こんな訓練兵をいち早く見抜いて戦場を経験させるなんて」


 思わずアーサーの凄さに感動してしまった。潤んだ瞳をまばたきでかき消し、俺はこの訓練兵2人を連れて上層へ向かった。

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