高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水

第1話 何かが違う……

 その日、俺はバイトの終わりに自転車で家路についていた。


 暫くはのんびりと自転車を走らせていた。

 吹く風が心地よい。


 その時、周囲に霧が立ち込めてくる。まるで何かが俺を包み込むかのように、1メートル先も見えない状況だ。


「こりゃ、押して歩いた方がいいか?」


 危険を感じた俺は自転車から降り、押して歩くことにした。

 そして進むうちに、前方にぼんやりと明かりが見え始めた。霧の中でその光はまるで灯台のように浮かび上がる。

 近づいてみると、それは小さな喫茶店の看板だった。


 ちょうど喉も飲み物を欲している。

 カラカラだ。持ってきた水筒のお茶は底をついている。

 それに辺りには濃い霧が立ち込めていた。このまま進むより、消えるまで待った方がいいか。

 そう思い、俺は喫茶店の扉を開いた。


「からん」という鈴の音と共に、店内に一歩を踏み入れる。

 右にカウンター席、左にテーブル席が三つほどのこじんまりとした喫茶店だ。

 中はガランとしていて、カウンターには一人の女性が立っているだけだった。


 身長たっか……。綺麗な人だなぁ。

 俺が170とちょっとくらいだから、190くらいなのかな……。

 茶髪に長い髪を後ろでポニーテールにした女性。

 多分、同じ20代に見える。


 視線が交わる瞬間、彼女は驚いたような表情を見せた。が、すぐに笑顔に変わる。


「お一人……ですか?」


 彼女が声をかけてくる。


「はい」と俺は答え、営業中かどうかを尋ねた。

「どうぞ」と彼女はカウンターの席を指し示した。


「ご注文は何にされますか?」

「アイスコーヒーを、甘めでお願いします」

「かしこまりました」


 カウンター越しに準備し始める様子を見ていると、話しかけられた。


「それにしても、よくできた格好ですね〜。入ってきた時は驚きましたよ〜」


 ……? 何を言っているんだろうか。


「何がです?」

「しっかりと役に入ってますね〜。その格好ですよ、男装ですよね?」

「いや、男ですけど」

「またまた〜。あ、ご注文のアイスコーヒーです」


 注文したアイスコーヒーがカウンターに置かれた。


「ありがとうございます」

「それにしても役に入り込むのはいいですけど、事件に巻き込まれないようにしてくださいよ〜」

「いやいや、本当に男なんですって」


 何度、否定しようとも冗談に受け取られてしまう。


「え……まじで?」

「うん、まじで」

「……えぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」


 突然、大きな声を上げる女性。


「ッ!? びっくりしたぁ、急にどうしたんですか?」


思わずビクッとしてしまい、問い詰めるように語気が強くなってしまった。


「えっ、ほんとに!? ほんとに男なの?」


 俺の問いも聞いてない様子の女性は、カウンターから身を乗り出す勢いで聞いてくる。


「何回も言ってるじゃないですか。男ですって」


 そんなに驚くものでもないだろう、珍しいもんでもないんだから。

  

 しばらく放心状態になっている女性。


「はっ! ごめんね……男の人が来るなんて初めてだったから驚いちゃったよ」

「そんな珍しいんですか?」


 よく分からず、聞いてみることにした。


「珍しいなんでもんじゃないよ。基本外出しない人が多いんだから! ……あれ、それなら君はなんでここにいるの?」


 ふと冷静になったのか、そう聞いてくる。


「バイト帰りに喉乾いて、ちょうどここの看板を見つけたんです。それになんか霧で視界が悪くなって危なそうだったから避難も兼ねて」

「そうだったんですね。————え、バイト!? 君バイトしてるの」

「そりゃそうですよ。大学生なんですから、バイトしないと自由に使えるお金増えないじゃないですか」

「働かなくてもお金貰えるのに……。それに危なくない?」


 なんか話が噛み合わない。

 まるで常識が違うような……。


「特にそんなことはなかったですけど」

「うそぉ」


 口に手を当てて、あからさまに驚いたリアクションをする。


「そんな変な人を見る目で見られても……」

「それはごめんなさい。でも、ありえないことなんですよ? あ、ちょっとすいません」


 そう言って、外へと行ってしまった。


 やっぱり何かおかしい。 

 コーヒーを飲みつつ、俺はなんとなく店内を見渡してみることにした。


 窓からは太陽光が差している。どうやら霧が晴れたようだ。

 そういえば、帰り道に喫茶店なんて見たことないぞ……?

 それに外、ちょうど道路に面しており、見る限り女性しか歩いていない。


 薄々、とある考えが頭に浮かぶようになってきていた。

 何かというと、貞操逆転世界に来てしまったというものだ。それならば、あの女性の話にも納得がいく。

 貞操逆転世界————それは男子より女性の方が人口の比率が多く、性欲に関しても女性の方が肉食系になっていることが多い世界のことだ。

 俺もよく小説で見かけたことがある設定。

 それが現実になったというのか?


 いや、転生したのか? いや、記憶はある。

 それに窓に反射する自分の姿を見て、転生したわけではないことはわかる。


 となると……転移か?


 いや、決めつけるには早急すぎるか?


 頭の中が疑問で埋めつくされていく。

 落ち着かせるように、アイスコーヒーを喉に流し込む。


 今度は店内へと視線を移す。するとカウンター奥に備え付けられたテレビから声が聞こえ始めた。ちょうどニュース速報が流れたようだった。


『今、男子高校生に痴漢をしたとして、33歳の女が逮捕されました』


 女性アナウンサーが原稿を読み上げるのと同時に、中継画面に警察に連行される人物が映った。


 ……え?


『また近年、電車に乗る男性への痴漢犯罪が増えており、専門家は男性専用車両や自家用車を利用することを強く推奨しております』


 ……ん?


 もしかして……。

 心臓の鼓動がうるさく感じる。

 頭の中に浮かんでいた言葉が現実味を帯びてくる。


「最近は物騒ね〜、あなたも気をつけなさいよ」


 いつの間にか、戻ってきていた女性がそう呟く。


『次のニュースです。現在の男女比は1:100ほどですが、今後さらに差は広がると予測されています』


 やっぱりここ、貞操逆転世界じゃん!!!!

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