平常 8

 昼間っから散々酒を飲み続け。

 気がつけば、窓の外も段々と薄暗くなってくる時間帯。

 我ながら体力あるな。

 今日王都から帰ってきた所だと言うのに。

 本当、チート能力様様である。


 ただ、そろそろお開き。

 俺が飲んだくれてるだけなら、このままギルドが閉まるまで居座ってもいいのだけど。

 受付嬢とギルド長。

 2人共ここに釘付けになっちゃってるのがね。

 ギルド長は無論。

 受付嬢も、周りの対応から考えるになんだかんだちょっと偉いっぽいし。

 よろしくはない気がする。


 さっきから何やら視線を感じるのだ。

 ギルドの職員達。

 おそらく、関係ない仕事を中心に進めては居たのだろうが。

 良いかげん滞り始めたのか。

 少し前から視線が徐々に増加していってる様な……

 上司相手だからか。

 一旦、言葉にこそしていないけど。

 早く戻ってこいと言わんばかりである。


 まぁ、今日って別に休日でも何でもないからね。

 さもありなん。

 出勤してたってことは仕事があったって事だし。


「わらしのさけがのめっないってんですか」

「何て?」

「きょうら、あさまでのみあすんらしょ!」


 ギルド職員達の視線を尻目に、俺に絡みついてくる受付嬢。

 酔っ払っていて、まったく呂律が回っていない。

 完全に出来上がってしまっている。

 それでも何となく言いたいことは分からないでもないのだが。

 ま、半分勘みたいな物。

 俺の話は通じてないっぽいし。

 コミュニケーションとしてはもう完全に成立していない。


 一つ言っておくとすれば。

 別にお前の酒ではない。


 おばちゃんと目が合う。

 こっちは、多少酔っ払ってこそいるっぽいけど。

 まだ全然正気を保ってる様子。

 受付嬢が俺に絡みついてるのを見て。

 苦笑いを浮かべている。


 あ、ちなみに飛び入り参加して来たギルド長だが。

 初めはハイペースで飲み進めていたけど、少し前に潰れてしまった。

 現在、机に突っ伏して怪しい状態。

 戻してこそいないが、最早時間の問題の気もしている。

 まぁ、自分のギルドだし。

 そこは本人の好きにしてもらって構わないのだけれど。

 酒が好きなくせして、どうやら酒に弱いらしい。


 ぶつぶつと独り言を言いながら。

 たまに起きては、思い出したように酒を飲んでいるので。

 まだ寝てはいないと思う。


「おばちゃん、今日は色々お願いしちゃってごめんね」

「仕事だから良いんだよ、こっちこそ散々ごちそうになっちゃって」

「それこそ、普段から世話になってるからな」

「片付けは私がやっとくから」

「いいのか?」

「ま、普段から酔っ払いの扱いは慣れてるからね」


 ギルドで酒場やってればそうなるか。

 ここはお言葉に甘えて。

 酔っ払ってめんどくさい受付嬢をおばちゃんに押し付け。

 半分眠りかけてるギルド長。

 彼は我慢の限界を迎えた職員に回収されていった。


 半ば強引ではあるが、これにてお開き。

 なかなか楽しい飲み会だった。


 この2人、多分この後叩き起こされて。

 今から仕事なんだろうなぁ。

 果たして、こんな状態で業務をこなせるのか疑問であるけど。

 まぁ、軽率に参加してきたこいつらが悪いのだ。

 自業自得である。

 とりあえず、お仕事頑張ってくれ。


「じゃ、ご馳走さまでした」


 ギルド職員達の、使い物にならない上司への恨み。

 それがこっちへ飛んできても困るので。

 早々に退散。

 酒場のおばちゃんに一言告げてからギルドを出る。


 ひんやりとした風が心地いい。

 普段、歩くのは少し億劫ではあるのだが。

 今だけは。

 延々と歩き続けられるような。

 そんな錯覚に陥る。


 気持ちよく酔っ払ったし。

 このまま帰っても良いんだけど。

 王都で色々あったから。

 精神的な、癒しがほしい。


 大通りから一本外れた裏路地。

 ここにくるのも久々。

 王都の少し下品さすら感じる、豪華なものとは違う。

 飲み屋が何軒か並ぶ。

 アンダーグラウンドな雰囲気の通り。


「いらっしゃいませ」


 見慣れた、宿屋のような外見の建物に入る。

 中には見知った顔の男性店員。

 ……やっぱ違和感あるよな。

 内装も外見も、ここのお店ってただの宿屋なのに。

 男の服装。

 不釣り合いな上質な服を身に纏ってるの。


「いつもの娘、指名出来る?」

「もちろんでございます」

「そんじゃお願い。時間もいつも通り」

「はい、承知いたしました」


 店員から鍵を受け取る。

 鍵に取り付けられたストラップには203の文字。

 2階の中部屋か。

 階段を上がってすぐ。

 203のプレートがかかった部屋が見えた。

 ここだな。


 ベッドに腰掛け、ぼんやりと天井を見つめる。

 このまま横になってしまいたい衝動に襲われつつ。

 今の状況で横になったら。

 多分、すぐにでも寝落ちする気がする。

 流石にそれは勿体無い。

 まぁ、そんな状態ならさっさと家帰れって話なのだが。

 王都での疲れ。

 肉体ではなく精神の。

 それを癒すって言ったら娼館以外ないでしょ。


「お待たせしました〜」

「よ、久しぶり」


 少しばかり1人の時間が流れ。

 お目当ての娘が来た。

 定番の胸元が大きく開き、視線を釘付けにする服。

 彼女の正装みたいなものだ。


「……あ、ロルフさん! やっと帰ってきた」


 俺と目が合い、一瞬停止したと思ったら。

 おっと。

 急に突っ込んできて抱きしめられた。


 そんなことすれば。

 当然その豊満な胸も押し付けられる訳で。

 うん、悪くない。

 いいや、非常にい良い。


「ずっと来てくれなくて、少し寂しかった」

「王都行ってたの知ってたろ?」

「でも、こんな長いと思わなかったから」


 受付嬢にも似たような事言われたな。

 娼館にも、同じ様なルーティーンで来てるし。

 そりゃ、こういう反応にもなる。

 本当に寂しかったのか。

 固定の稼ぎが減って懐が寂しかったのか。

 ま、こうやって甘えられるの結構嬉しいから。

 どっちでも良いっちゃ良いんだけどね。


 そのまま、俺の胸に顔を押し付けクンクンと。

 分かりやすく鼻を鳴らす。

 何のつもりか匂いを嗅いでるらしい。

 ちょっと恥ずい。

 王都から帰ってきて、その流れで薬草採取行って。

 さっきまで酒飲んでたから。

 少なくとも、いい匂って事はないだろうに。


「くちゃい……」

「ならさっさと離れろ」

「離さない」


 しばらくして。

 やっと、匂いに満足したのか。

 解放された。


「そう言えば、ノアちゃん元気にしてた?」


 そして、何でもないように話を変える。

 ただ、流石に恥ずかしかったのか。

 少し頬が赤い。

 いくら嬢とは言え、どう考えても特殊なプレイだもんな。

 何の気まぐれかは知らないが。

 ご馳走様。

 快楽とは違うが、非常に心地良かった。


 にしても、お前らほんと仲良いよな。

 妹分とか言ってたっけ。

 Aランク冒険者が妹分とか、とんでもない嬢が居たものだ。


 元気にしてたか、ね。

 そりゃ、とんでもなく元気にしてたよ。

 具体的に言うと。

 搾り取られて、危うく干からびるところだった。

 お前の妹分。

 いつの間にか淫魔になってるんですが。

 どうなってるんですか?


「王都で元気にやってたよ」

「良かった」

「むしろ体力が有り余ってたぐらいで、俺の方が逆に」

「……?」

「あ、いやこれはこっちの話」


 危ない危ない、口が滑りそうだった。

 有り余っていて悪いことなんて基本ないからね。

 嬢が頭にハテナを浮かべる。

 ノアと繋がってるから。

 余計なこと言うと全部筒抜けである。


「あ、そうだ。する前に、お土産買ってきたんよ」

「え? 私にお土産?」

「そうそう。王都で買ってきたんだけどね」

「うわぁすごい……」


 ボディーアクセサリーと、ランジェリー。

 セットで渡す。

 お土産と聞いて、少しテンションの上がった嬢が。

 物を確認して分かりやすく声色を変える。


「……ふーん、これを私に着てほしいんだ?」

「お願い!」

「もう、ロルフさんのエッチ」

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