平常 4

 依頼を受け、ギルドを出てそのまま街の外へ。

 この森に来るのも久方ぶり。

 まぁ、ただの職場だ。

 王都から帰ってきて久しぶりの出勤。

 特に感慨深いなんて感情もなく、むしろ面倒って思いが強い。

 そんな事言っても仕方ないのだが。

 さっさと仕事こなして。

 早々に、今日遊ぶ為の日銭を手に入れたいとこ。


 薬草採取、しばらくやってなかった訳だけど。

 現在の季節は冬。

 残念ながら取らなかったからと言って増えてくれる時期でもない。

 浅いところは取り尽くしたまま。

 とは言え。

 他の時期以上にライバルも皆無だからね。

 討伐依頼ついでに拾ってく中級以上の冒険者とかも。

 ほぼほぼ居ないだろうし。

 増えない割に無くなったりもしないのだが。


 街中と違い、除雪もされず。

 気温的に積もった雪があまり溶けないのだろう。

 雪が深い。

 足を取られ。

 歩く事自体が非常に億劫に感じる。


 森に入る前の、街の周囲に広がっている草原ですら。

 チートなかったら死にかねないレベル。

 街の近くで遭難とか、普通にあるらしいし。

 今の天候だと後ろ振り返れば足跡がしっかり残っていて。

 ここで遭難するのかって感じだけど。

 雪降ったらこの足跡綺麗に全部消えちゃうんだもんな。

 視界も不明瞭になるだろうし。

 そりゃ、冒険者も冬場は活動しなくなるわ。


 魔物も少なくなるとはいえ。

 皆が皆、冬眠してくれる訳でもないからな。

 自殺行為でしかない。

 最低限その日生き残れる程度の金しか稼げなくとも。

 街の中で肉体労働やって。

 扱き使われて稼いだ方がまだ良いか。


 空から見たときは綺麗だったんだけどね。

 地べたに降りてみるとこんなものだ。


 森の中へ、草原より積雪の量が多少マシな気がする。

 枝葉が屋根代わりにでもなっているのか。

 木々も少しは熱を持つのか。

 草原の植物なんて、多少の例外を残して冬場はほぼほぼ枯れちゃうからね。

 薬草はその例外で。

 持ち前の生命力で雪のしたでもしぶとく生き残る訳だが。

 全部刈られちゃってるだろうし。

 そもそも、背も低くて体積も少ないから。

 薬草に限らず。

 仮に、全て枯れずに残ってとしても纏めて雪の下に埋まりそうな予感。

 って言うか、積雪量に関しても。

 少ない気がするってだけ。

 ただの俺の勘違いかもしれないのだが。

 これからの作業。

 別に、楽に感じる分には何の問題もないだろう。


 雪の積もった森の中を無闇に進んでも仕方がない。

 薬草なんて、間違い無く雪の下だろうし。

 目視で見つけるのは不可能だ。

 まぁ、俺的には雪の下に埋まってようが何の問題もないのだけど。

 いつも通り、魔眼を起動。

 これも本来の目的で使うのは久しぶり。

 ……違うな。

 王都での黒幕探すのに使ったのが本来の使用用途な気がする。

 薬草採取に使うの。

 多分、こっちが例外的な用途だろう。


 んな事はどうでもいいのだが。

 ほぼほぼこっちの用途で使っているのだし。

 慣れたものだ。

 後は、魔眼に映った物。

 ここから余計な物を取り除いていく作業。


 まず、薬草が動くはずもないので動いてるのは除外。

 次に、デカいのも除外して。

 最後に一定以下の魔力量のも除外する。

 残った物。

 それが、視界に幾つかの光の点が浮かび上がって見える。

 これが薬草だ。

 後は、近いとこから順に回って。

 それを片っ端から刈り取る。

 多少面倒ではあるが、やはりボロい商売である。


 魔眼を使って改めて思ったのだけど。

 やはり、冬の方がそもそもの魔力の反応が少ない。

 厳選する手間が減るのは良い事だ。

 まぁ、俺が刈ってるせいで。

 森の奥まで入らなきゃならんデメリットはありつつも。

 そこは相殺。

 結果、いつの時期もあまり変わらない。


 1時間かからないぐらいで、十分量を採取。

 依頼時間一刻未満でギルドへ帰宅した。


「相変わらず早いですね」

「まぁな」


 依頼書と薬草の入った麻袋をカウンターに置く。

 雑に突っ込んだせいか。

 採取時に、薬草と一緒に雪も多少紛れ込んでいたらしい。

 ビチョビチョとは言わないが。

 袋がそれなりにしっとりとしている。


 多少嫌な顔をされてしまったけれど、特に文句は言われない。

 流石にね。

 これは仕事上、仕方ない汚れだ。

 気持ちのいい物でもないが、受付嬢もとっくに慣れただろう。


 抵抗あるのはむしろ俺の方って言うか。

 別に潔癖ではないのだけど。

 ほら、前世の世界が無駄に清潔だったから。

 こういうのあまり好きじゃないんだよね。

 最悪手で持つ分にはいいが。

 道中、服とかには付いて欲しくない。


 薬草採取の汚れだから、まだマシな方だけど。

 雪解け水、最悪でも泥水程度。

 これが討伐依頼とかになってくると。

 肉やら内臓やら。

 色々持って帰ってくる羽目になるし。

 仮に、駆除でもその証明のために一部を持参する必要がある。

 匂いがきついの何のって。

 途中まではアイテムボックスでいいが。

 最後、街に入る前には出すことになるだろうし。


 そういう面でも、やっぱ薬草採取以外勝たんわ。


「雪の下に埋まってると思うんですけど」

「うん?」

「いえ、今の時期って大抵の薬草は雪かぶっちゃってますよね」

「だね」

「やっぱり、早すぎません?」

「まぁ。薬草採取一筋、数十年のベテランなんで」

「……もしかして、おじさんって鼻が良かったりします?」

「何故に?」

「こう、四つん這いになってクンクンと」

「俺は動物じゃ無いが!?」

「そんな怒んないでくださいよ、冗談ですって」


 いや、別に怒ってはねぇよ。

 ただ単に。

 勝手に想像して勝手に笑われるの。

 納得いかないってだけで。


 ふと、目があった。

 笑いを堪えてるのか、咄嗟に口を塞ぐ。

 ……こいつ煽ってるだろ。

 まぁ、こういう奴だ。

 しゃーない。


 報酬を受け取り、そのまま横へスライド。

 ギルド併設の酒場へ。

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