始末 7

 まぁ、可能性の話だけどね。

 過ぎた事だし。

 もはや、どうでもいい。


 そもそもの話。

 俺って、停学くらってこれ幸いと王都飛び出した人間だからなぁ。

 元々あまり気にしていなかったのだ。

 直接冤罪ふっかけてきた奴すら覚えてないのに。

 そうなった原因の一端が分かったところで、ねぇ……

 だから何?

 って話ではある。


 ふと、視線を感じた。

 ノアだ。

 まぁ、俺たち3人以外にこの家に人いないしな。

 他人だったらホラーである。

 フィオナと親しげに話してたのが気に食わなかったのだろうか。

 嫉妬か?

 いや、元はお前が3人とか言い出したんやんけ。

 しかも、もう事後だし何を今更。

 え、違う?


 もしかして、主犯が俺のせいで退学した結果拗らせたなら。

 この暴動も元を辿れば俺のせいだったのではと。

 そう疑いで?

 ……いや、いくら何でもそれは。

 確かに考えてみれば。

 俺が今この生活してるのもそいつ原因ではあるし。

 逆説的に、そいつがこうなったのも俺との決闘で負けたのが原因。

 つまり今回の事を起こしたのも……

 いやいや。

 流石にそれは理論が飛躍しすぎでしょ。


 仮にその可能性があったとして、だ。

 ほら、大昔の話だし?

 今更である。

 まぁ、ほぼほぼ無いとは思うけどね。


 いや、現実逃避的な話ではなく。

 タイミング的に遅する。

 単純に、あれから何年経ってるんだって話。

 貴族社会への復讐とかそんな所だろう。

 退学になったの。

 それが糸を引いてた可能性は否定しないが。

 それで俺が原因と言われるのは遺憾である。

 少なくとも、今回の事件。

 俺が原因ではない。


「よって、俺に責任は無い!」

「……別に誰も責めてませんよ」


 意気揚々と宣言してみたものの。

 呆れたような返し。

 2人に、何言ってるのと不思議な顔をされてしまった。

 どうやら。

 完全な被害妄想だったらしい。


 我ながらこれは酷い、まるでパブロフの犬だな。

 視線向けられてただけなのに、責められてると勘違いしてしまった。

 見られてると、さっきまでの事がフラッシュバックして……

 いや、嫌な記憶という訳ではない。

 むしろ気持ち良かったまであるのだが。

 同時に生命の危機も感じたのだ。

 刺激的すぎて。

 どうも、脳裏に深く刻み込まれ過ぎたらしい。


 そもそも、元から浮いてたっぽいしな。

 魔法に傾倒してたとかで。

 騎士なんて明か剣術主体だし。

 その長の家で生まれて、剣そっちのけとなればそりゃそうなる。

 だから、俺がきっかけになって退学になりこそしたが。

 どちらにしろ。

 いつかやめてた気がしないでもない。

 そっちの方が俺に都合いいしね。


 俺のせいでテロまで繋がったとか。

 そういう事は、あまり考えたくはない。

 被害者どうこうではなく。

 冤罪の件。

 頭っから後ろまで自業自得というのは。

 ちょっと勘弁してほしい。


 まぁ、魔法に傾倒した理由も理解出来なくは無いが。

 大人しく剣術やっとけば浮くこともない。

 けど、そうはいかなかったのだろう。

 剣の才能は無かった。

 それがあるなら、浮いてることを気にしてるような人間が魔法に傾倒する訳もなく。

 かと言って、ただの落ちこぼれになるのは。

 彼のプライドが許さなかった。

 俺に決闘挑んできたのも、そこら辺からだろうし。


 実際、天才ではあったのだ。

 プライドに見合う才能はあった。

 魔力結晶の利用方法を個人で確立するという偉業。

 ずっと扱えなかったのに。

 世紀の大発見。

 そう言っても過言ではない。


 俺なら出来るかもしれないが、それはチート能力ありきだからな。

 話が違う。

 ズルなしで成し遂げたのだ。

 数十年に1人とか、そのレベルなのは間違いない。


 だから、かな?

 それでこの国を一泡吹かせてやろうと。

 そう思い立ってしまったのだ。

 多分。

 もしも勘違いしたのが、ただの凡人だったなら。

 そんな行動は起こさなかっただろう。

 仮に行動に移したとしても。

 無謀の一言で終わっていたと思う。


 荒唐無稽って訳でも無かったしな。

 今回は失敗に終わったが。

 客観的に見て、普通に成功していてもおかしく無かった。

 どこを成功と置くかで変わりそうな話ではあるけど。

 少なくとも捕まる可能性は低い。

 そもそも今回動いたのはそこら辺の庶民ばかり。

 ただの捨て駒で。

 規模に対し、圧倒的に損失が少なかった。

 それだけでは無い。

 ほぼ情報を与えてなかったっぽいから。

 まず、主犯までたどり着くのが困難だったはずなのだ。


 ノア達はスピード解決したが。

 それだって、俺が魔眼使って教えた候補地の情報ありき。

 兵力に関しても。

 庶民だけだったから魔力結晶をうまく活かせず。

 結果、散発的なテロに収まっていたが。

 港町との間にいた盗賊。

 奴らがいればまた話は違っただろうし。

 プロの兵士ほどではないが、よほど戦闘に慣れた人材。

 王都が壊滅していた可能性もあった。


 そもそも、今回はテストだったのだろう。

 だから、庶民だけで作戦がおざなりだった。

 その代わりに。

 黒幕へ辿り着く手段がほぼ無かった。

 この実績を元に。

 何処ぞへと上手く売り込めれば。

 地力が足りずとも。

 例えば、他国と共謀して王国自体を落とす。

 なんてことも可能だっただろう。

 それぐらい革新的な技術だし。

 取引材料としては十分魅力的である。


 その先に何を見ていたのかは知らない。

 何か野望があったのか。

 ただ、復讐がしたかっただけなのか。


 国王への成り代わりを画策するのは……

 庶民を焚き付けた方便的にも難しいものがあるだろう。

 他国を頼ればさらに。

 ってか、血筋も怪しいとこあるしね。

 騎士団長ってのは結局のところ兵士だし、戦力だ。

 貴族の中でも上澄ではあるが、王族や公爵家みたいなのとは違う。

 まぁ、革命してリーダーになるなら。

 家柄よりも能力で成り上がった形になるのだ。

 その力で革命を成功に導いてるし。

 庶民を焚き付けた方便とも矛盾しない。

 最適の方法ではあると思う。

 大統領とか首相とか、要はそういうお話だ。


 まぁ、個人的には復讐だと思うけどね。

 父親が元騎士団長で。

 話を聞く限り、兄も騎士団で要職に就いているのだろう。

 我慢出来なくなった。

 自分は家を捨て、貴族ではなくなり。

 才能的に。

 生活に苦労してるとは思え無い。

 ……それでも。

 冒険者をやってると言った時の、フィオナが俺に見せた哀れみの視線。

 彼女の性格が悪いとかではなくそれが貴族の間の共通認識なのだ。

 自分が惨めだったのだろう。

 そこまで追い込んだ、貴族社会への復讐。

 助けてくれなかった、自分の家族への復讐。


 それを果たすために国を混乱に陥れた。

 納得できなくは無い。

 でも、こう考えちゃうとちょっとアレだな。

 チープと言うか。

 いや、勝手な妄想しておいてそれで評価下げるのもどうかと思うが。

 犯罪者相手だし、別に構わんやろ。


 にしても、才能ってのはすごいな。

 そんなくだらない理由でも、こんな大事が起こせてしまうのだから。

 もし仮に。

 彼に俺と同等の才能があったら……

 きっと、この国は地図から消えていたのだろう。

 そう言う意味じゃ。

 天才程度の才で収まってよかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る