清算 8

 まだ色々と聞きたそうな視線は感じつつも。

 今、拷問室の中だからね。

 ここで長居するものアレだろう。

 それは理解してくれた様子。

 後が怖いが。

 これまでも適当に生きてきたし。

 そういうのは考えない方が幸せに生きれる。


 現実逃避?

 ……否定はしない。


 取り敢えず、一旦外に出たい所。

 しかし、当然ながら外には兵士が相当数。

 これ以上面倒ごとは増やしたくない。

 すでに違和感だらけだろうが。

 俺に罪が降りかかるのは避けたいのだ。

 我ながら酷い保身である。


 殺すのは、別に出来なくはないのだが。

 皆殺しにして仕舞えば。

 解決ではある。

 しかし、ノア達の手前。

 あまりその選択肢はとりたくない。

 ただでさえ、白い目で見られてるきらいがあるのだ。

 そんな事したら。

 この視線がより強まる予感しかないし。


 ノアも隊長の首斬り飛ばしてた気がするけど。

 アレは緊急事態だったからと言うか。

 俺を殺されたと勘違いしての行動であって。

 事情が違う。

 2人とも、基本は善人なのだ。

 さっき言った理由。

 保身で兵士皆殺しはアウトでしかない。


 じゃあどうするのかって話になるが。

 幸い、貴族様が一緒にいる。

 俺とノアだけじゃ力づく以外の選択肢が取りにくかっただろう。

 Aランクと言っても。

 直接的な権力がある訳じゃないしね。

 あくまで、力があるという事実によって周囲が配慮する形。

 女教師に頼るのが最適。

 ノアもそうしてここまで入って来たわけだし。

 適当に誤魔化して貰おう。

 詰所への強制的な立ち入りを許可する書類とか。

 本部の兵士も引っ張ってこれてるし。

 詳しく知らないが、かなりの強権を使えるっぽい。


 多分、なんとかなるでしょ?

 ……なるよね?

 ならないってなると。

 これ、本格的にマズいんだけど。


「という事で、どうですかね」

「え、えっと……」


 感情が追いついてないらしい。

 そりゃそうだ。

 同級生が退学になって。

 救えなかったとずっと後悔してたその人にたまたま出会って。

 目の前で冤罪で捕まり。

 今度こそはと、強引にでも助けに来たら。

 死んでて。

 でも、やっぱり生きてて。


 当然だとは思う。

 ただ、頼れる相手が彼女しかいないのだ。

 いやチートフル活用すれば。

 穏便な方法で。

 どうにかできる方法もあるかもしれないが。

 それは危険。

 ここまで全く上手くいっていないし。

 自分に期待するのは辞めた。


 俺は飲んだくれのおっさんなのだ。

 根本的に、平凡である。

 こういうのには向いていない。

 とは言っても、流石に突飛が過ぎたか。


「やっぱ無茶振りですかね?」

「まぁ」

「う、どうすれば」

「でも……」

「へ?」

「無茶振りされてあげます」

「いいんですか?」

「だって、どのみち出なきゃダメですもんね」

「……さすが先生!」


 ちょっと困りつつも、受け入れてくれた。

 なんか、良心に付け込んでる様な気がしないでもないが。

 どうしようもないのは本当だし。

 頼るしかない。

 突貫なのは変わらないけど。

 少なくとも、俺が色々こねくり回すよりはましだろう。


 と思ったら、躊躇なく扉を開け放った。

 え?

 視線が集中するのを感じる。

 当然だ。

 兵士の1人が突然隊長の首を切り飛ばして。

 拷問官が応戦して。

 2人まとめて拷問室に消えて行ったのだ。


 出て来たのは、先に中にいた貴族と兵士。

 そして。

 応戦していた拷問官ではなく、死んだはずの容疑者。

 そりゃ、視線も集めるって物だ。


 これ、大丈夫なんか?

 なんか儀式でもして死者蘇生して。

 拷問官はその生贄に。

 冤罪どころか。

 異端認定まで受けそうな気が……

 いや、それは飛躍しすぎか。


 まぁ、死亡の確認とかはされてないし。

 俺が報告しただけ。

 衛兵の奴らは。

 その報告を聞きはしても、自分の目では見ていない。

 案外平気なのか?


 だから、女教師はそのまま扉を開けて。

 いちいち小細工する必要もないと。

 そういう事?

 まぁ、俺が色々したのも。

 アレ結局墓穴掘るだけだからね。

 こういう思い切りも大切なのかもしれない。


 一部、確認した人気もいるかもしれないが。

 おそらく1人2人って所。

 彼らが死んでたと主張したところで。

 死者蘇生とかそんなこと信じないだろう。

 そもそも、時間的にしっかり確認する間もないし。

 勘違いで片付けられるのが関の山。

 俺の報告も同様。

 非現実的なのだ。

 そんな魔法、英雄譚の中のお話。

 多分、俺以外に出来るやつもいない。


 拷問が行きすぎて殺した。

 そう思い込んでただけ。

 実際は生きていた。

 こう言う理解になるはず。


 そして、容疑者に用事があった貴族が訪れて。

 強力な回復魔法。

 もしくは、それに類する魔法道具を使用して。

 瀕死状態を回復。

 これぐらいなら、まぁ。

 別に違和感のないストーリーか。


 部屋の奥の方に転がってる死体。

 これ、俺のままはおかしいな。

 今のうちに魔法を解除しておこう。

 偽装の為の傷はそのままだけど。

 そもそも、さっき魔法で真っ二つにしちゃったし。

 これぐらいは誤差みたいな物だ。

 隊長が殺されて、戦闘も見られてるし。

 さっきの戦闘の結果殺された。

 理由も。 

 容疑者を殺しかけた事の責任を取らされて、とか。

 そういう判断で落ち着くはず。


 もう後戻りもできないし、行くか。

 ノアもいつの間にか兜を被り直して自然に彼女に付き従う。

 やはり。

 中身は秘密なのだろう。

 ゴタゴタに紛れて、兵士に扮してるだけって感じ。

 俺といえば。

 一応容疑者ではあるからね。

 ほとんど無意味ではあるが、ノアに拘束されてる形。


 周囲から視線こそ感じつつも、誰も話しかけてこない。

 隊長殺されて。

 拷問官殺されて。

 そりゃ怖いか。

 責任が自分の方まで飛んできても敵わんし。

 このまま。

 驚くほどすんなり詰所を出れた。

 むしろ、早く出て行けという圧すら感じたレベル。


 兵士たちに護衛されて。

 まるで貴族気分。

 まぁ、実態としては連行なのだが。

 どう思われてるのだろう。

 重要参考人とか?

 そう言う感じだろうか。


 だから、殺しかけた拷問官が殺されたし。

 存在を隠そうとした隊長が首を刎ねられた。

 結構無理やりな気もするが。

 どれも、結局想像の域を出ない物だ。


 俺もそうだが、先生やノアも。

 あまり、よくは思われたない気がする。

 強権まで使って。

 わざわざ容疑者を連れてきた訳で。


 先生の評判に傷が……

 ま、こればっかりは仕方ない。

 いや、罪悪感はあるけど。

 どうしようもなかったし。

 そもそも、助けに来てくれた時点でそれは免れなかっただろう。

 ってか、改めて。

 俺、余計なことしかしてなくね?

 待ってれば解決したのに。


 拷問官も普通に仕事してただけではある。

 無論違法なのは本当で。

 グレーどころか真っ黒なのだが。

 公然の秘密ぐらいになってたからな。

 殺して、さらに顔の皮まで剥いで。

 ついでに死後の評判まで落ちたし。

 隊長もノアに首チョンパ。

 助けに来てくれた2人の心にダメージを与えて。

 最後には、先生の評判すら下げるという。


 ……我ながら酷いゴミムーブ。


 考えなしで動くと碌なことにならんな。

 今回の事でよく理解したわ。

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