騒動 4

 結局、2人とも抜けて来てしまったが。

 良かったのだろうか?

 ノアはともかく。

 まだ一年目だし、立場としても外部講師って形。

 半分部外者ではあるからね。

 緊急時は案外仕事少ない説もある。


 でも、こっちの女教師。

 お前はダメだろ。

 卒業してすぐ先生になったっぽいし。

 十年以上か。

 ベテランとは言わずとも中堅の立ち位置ではあるはず。

 それがこの緊急時にお茶とか。

 困るのでは?

 しかも、貴族だろうに。

 王都が大変な事になってるんですけど……

 分かってるんですかね。


 視線を向けると、緩んだ顔をしていた。

 見られてることに気づいたのだろう。

 笑顔を返してくれる。

 これは分かってなさそうですね。

 いや、可愛いけど。

 まぁ、俺としては別にどうでも良くはあるのだが。

 流石にちょっと心配にはなるよね。


 そのまま、彼女の案内でお店に。

 貴族街の一画。

 外観も結構良さげ。

 高級感。

 と、でも言えば良いのか。

 お茶なんて言っていたが、普通に個室に通されたし。

 流石は貴族様。

 行きつけも庶民とはレベルが違う。


 何も言わずともお茶が出て来た。

 はえ〜。

 注文とかいうシステムはないらしい。

 もはやよく分からない。


「……先輩、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


 移動中、謎に沈黙してた訳だが。

 二十年以上前のクラスメイトとかねぇ。

 話す事ないし。

 そもそも俺は覚えてないからね。

 ほぼ初対面も同義。

 向こうが黙ってた理由は不明。

 まぁ、店で話すつもりだったのだろう。


 そして店に着いて、口火を切ったのはノアである。

 いや、なんでお前からなんだよ。

 とは思ったものの。


 連れて来た本人はと言えば、お茶と格闘している。

 熱かったらしい。

 おそらくは猫舌なのだろう。

 はふはふと。

 お茶を冷ます事に忙しそうだ。

 ぬるめで貰えば良いのに、とか思わないでもないが。

 楽しそうだからね。

 ようやく飲める温度になったのか。

 によによしている。

 ご満悦だ。

 多分、これも含めて満喫しているのだろう。


 まぁ、いっか。


「なんだ?」

「先輩、学園通ってたんですか?」


 あ、そういえば。

 確かノアに言ってなかったな。

 学園行ってたの。


 ずっと黙り込んでたの。

 これが原因か。

 唐突に抱きついて来たのも連れてかれそうだから反応しただけ。

 道中もずっと考えていたのだろう。

 だから静かだったのか。


「まぁ、少しの間だけだけどな」

「貴族だったんですか?」

「まさか」

「家がお金持ちだったり、とか?」

「ばりばり庶民だったよ」


 疑惑の視線。


 俺のことを疑ってると言うよりは。

 現在進行形で講師だからね。

 生徒のことを知ってるからこそだろう。

 真面目にやってるっぽいし。

 学園に庶民がいるのは想像つかない。


「ほら、これ」

「え、本物」

「そりゃ、偽造する意味もないしな」

「すごいです」


 手っ取り早く学生証を見せる。


 こんなものをさっと取り出せるのもおかしな話だが。

 そこはね。

 アイテムボックスがあるから。

 後は。

 ポケットでもどこでも。

 それっぽい場所から取り出すふりをするだけでいい。


 素直な賞賛の言葉。

 まぁ、悪い気はしない。


 A級冒険者になって講師やってる君の方がよっぽどすごいと思うけどね。


「それ、懐かしいです」


 突然会話に入ってきた。

 お茶はいいのか?

 なかなかに呑気なお人だ。


「懐かしいって、現役の教師だろ?」

「今はデザイン少し変わっちゃいましたから」

「へぇ」

「私のは回収されちゃいましたし」


 あぁそうか、普通そういうもんだよな。

 学生証ってのは。

 文字通り学生であることを証明するためのものだ。

 卒業したら返却する。

 俺の場合、停学食らってそのままブッチしたから。

 持ったまま。

 返却する機会もなく今まで来た。


 これ、窃盗なのでは?

 教師にの前で出すのは良くなかったかもしれない。

 でも、当の本人はのほほんとしてるし。

 あまり気にしていなさそう。

 むしろ、昔のデザインを見て懐かしんでる様子。

 多分大丈夫でしょ。

 もう二十年以上昔の話だ。

 とっくに時効である。


「それで話って?」

「ん?」

「いや、俺に聞きたい事があるみたいなこと言ってませんでした?」

「あ、そうでした」


 ほんと、この人は。

 これでよく教師なんてやれてるものだ。

 舐められそう。

 愛されキャラなのかもしれないけど。


「なんで学園辞めちゃったのかなって」

「え、そんな事?」

「そんな事って、私はずっと心配してたんですからね」

「……はぁ」

「入学してすぐ停学になっちゃって」

「ですね」

「その後も、ロルフくんずっと学校来ないし」

「あのまま辞めちゃいましたからね」


 珍しいとは思うけど。

 そんな気にする事かね?

 あの当時ならともかく。

 もうこんなに経って。


 いや、それほど気になってないのかもしれないけど。

 もしくは、昔の知り合いと会ったから当時の話題を出しただけ。

 それぐらいしか共通の話題なんてないし。

 話題なんてどうでも良くて。

 とりあえず、なんとなく話したかったから。

 その説もある。

 何考えてるかいまいち分かりにくい人だし。

 何も考えてない説も有力だが。

 学園の教師やってる人だし流石にそれはない、無いよね?


「理由なんて、普通に停学くらったからだけど」

「でも、期間ありましたよね?」

「忘れたけど、確かにあった気がする」

「それに」

「?」

「1週間ぐらいで停学解除されたじゃないですか」

「え、解除?」

「知らなかったんですか!?」

「初耳」

「冤罪だって証拠が見つかって、それで」


 停学解除されてたとか、今初めて聞いたんだが?

 忘れてる説もあるが。

 いや、それはないか。

 物理的に。

 なんたって、停学くらってすぐに王都を離れたからな。

 考えてみれば。

 そもそも俺に話が伝わるタイミングが無い。


 まぁ、実際でっちあげだったしな。

 違和感はない。

 とりあえず引き離して、そこから捜査したのかもしれない。

 兵士とは違う。

 普段から貴族のことを縛らなきゃいけない立場。

 真実に辿り着いたって事は。

 結構有能だったらしい。

 とりあえずで停学にするのもそれはそれでどうかと思うが。

 その方が安全ではある。

 感情面への配慮はどうしたって話だが。

 そもそも庶民だしね。

 実に合理的な行動。

 問題は、俺がここぞとばかりに王都を離れたことか。


「ザルク先生はロルフくんの事ずっと信じてて」

「?」

「それも忘れちゃった? 私たちの担任やってた先生」

「……あぁ」


 俺が入試で一方的に倒した教師、だったはず。

 恨まれてるかと思っていた。

 冤罪かけられた件も、てっきりグルになってるものかと。

 違ったらしい。

 ほら、教師も巻き込んだほうが上手くいきそうだし。

 実際、冤罪で停学まで行ったからね。

 心当たりある相手と言ったら。

 入学したばかりなので、それぐらいしかいなかった。


「積極的に動いて、やっと冤罪晴れたのに学校来てくれなくて。国の損失だって嘆いてた。結局その年で先生辞めちゃったし……」


 知らないところでなんか色々起こってんな。

 そりゃ忘れませんわ。

 むしろ、俺が辞めた後の方が騒動になってるじゃないですか。

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