生徒 15
メスガキが崩れた壁に近寄り。
恐る恐る、撫でる。
確認するかの様に、何度も何度も繰り返し。
自分でも信じられないのだろう。
それぐらい激変したからな。
いい笑顔。
かなり満足そうだ。
良かったな。
「あ、ありがとうございました!」
「いや、別に。俺は軽く教えただけだしな」
「ロルフ先生……」
なんか、自分で口に出しておいてあれだが。
有能教師みたいだな。
本当に軽く教えただけなのに。
1日だけ。
しかも、そのうちの数時間。
塾講師や家庭教師レベルですらない。
水泳とかの。
夏休みにプールとかでやってる教室。
感覚的には、あれと同じぐらいだろうか。
ただの体験って感じ。
そんな感謝されても困る。
にしては効果出過ぎの気もするが。
チート様様だな。
それに、だ。
感謝されて悪い気はしない。
「終わったし、帰るか」
「はい!」
元気だな。
テンションもやけに高いし。
ほんと、内心が表に出るタイプだ。
大丈夫なんかね?
いや、元気なのはいいと思うけど。
貴族だろ?
こんなんでやってけるのか。
腹芸とか。
全部顔に出そうな気がする。
まぁ、男尊女卑激しめな世界だし。
そういう意味じゃ……
でも、これこそ女の出番みたいな所もあるしな。
少々心配だ。
別に俺には関係ない話なのだけど。
多少なりとも関わりが出来てしまったのだ。
せっかく魔法教えたし。
あまり早死にしてほしくはない。
と言っても、メスガキ今はまだ学生だしな。
年齢で言えば小学校高学年ぐらい。
そう思えば。
どうとでも変化するか。
政治家だって、これぐらいの歳のころは普通の子供とそんな……
あぁ、中学受験があるっけ。
ま、みんながみんなそうでもないし。
大丈夫でしょ、多分。
「えっと、こうでしたっけ?」
「??」
何が?
魔力を少しづつ出しながら。
壁をぺたぺた触って歩き回っている。
何をしてるのだろうか。
このメスガキ。
悩みが吹き飛んだ喜びで脳まで吹き飛ばしてしまったのか?
これは悪いことをした。
……あ、そういえば。
思い出した。
そんなことしたな。
ここの部屋に転移して来る前に。
外で似たような事をやらせた覚えがある。
あれは完全に無駄な行為なんだが。
だから忘れていた。
この様子だと気づいてなさそうだな。
よしよし。
「まぁ、魔法とは別のコツがいるからね」
「そうなんですね」
「今日は壁を取り除いただけ、そこからは努力あるのみ」
「はい」
「頑張って」
やり方が適当すぎる気がするけど。
疑われてもないしね。
誤魔化しはこんなもんでいいでしょ。
もうここに来ることもないし、今この場さえ凌げればそれで。
何も問題はない。
上で何しても、ここには繋がらないからね。
こんなんでいいのだ。
仮に魔力の安定した出力が可能になった所で、そんな仕掛けはない。
彼女にも分かる様に、魔力を放出。
その裏でこっそり転移魔法を準備する。
気がとられたところで発動。
部屋から出た。
景色が切り替わる。
眩しい。
一応室内も魔法で照らしてはいたが。
やはり日の光には敵わないな。
それに、ひらけた空間も。
あそこも窮屈ってほどではないのだが。
外の方が気分がいい。
日も傾き掛け、しっかり夕方だ。
なんだかんだ言いながら。
教えるのに結構時間使ったらしい。
このまま解散、と行きたいところだが。
流石にね。
ここで彼女を放置はまずいか。
庶民街だし。
貴族のお嬢さんを放流する場所としてはよろしくない。
仕方なく、学園に戻る。
「あ、ノア先生!」
「エリス?」
タイミングが良かった。
ちょうどノアが出てきた所だ。
「どうだった?」
「ロルフ先生のおかげで解決しました!」
「それは良かった」
「本当にロルフ先生すごくって」
「ね? 言った通りだったでしょ」
「はい!!」
自分のことを他人が話してる空間というのは。
どうも落ち着かない。
あれだな。
これ、会話の内容は関係ないらしい。
貶されても褒められても。
気恥ずかしいものは気恥ずかしいのだ。
「トーナメント期待しておいてくださいね」
「うん、頑張ってね」
「それで……」
「?」
「もし優勝したら一つお願いしてもいいですか?」
「お願い?」
「はい」
「どんなお願いなのかな?」
「それは秘密です」
「そっか、」
「ダメですか?」
「エリスが優勝したらね」
自慢気だ。
微笑ましいな。
にしても、安請け合いしても良かったのだろうか?
それ告白とかなんじゃ。
まぁ、ノアは好意にすら気づいてなさそうだし。
しゃーないか。
玉砕するだろうけど、それもいい経験だ。
「先輩、今日はありがとうございました」
「別に大した手間じゃなかったしな」
「そんなこと言って。もしかして照れ隠しですか?」
そういうと、笑われてしまった。
何故?
照れ隠しなつもりはないのだが。
「ほら、こっち向いてください」
「ん?」
ノアと目が合った。
てか近い。
「エリスのこと本当にありがとうございます」
「いいって」
「僕の教え方が未熟なせいで……」
「そんな事ないよ」
「先輩にはずっと助けてもらってばかりです」
顔を曇らせる必要は無いんだけどな。
俺はチートありきだし。
とは言っても。
慰めても、意味はないのだろう。
明かせばいいだけなのだが。
どこか、躊躇してしまう自分がいるのだ。
ちょっとした沈黙、それを嫌う様に抱きつかれた。
おいおい、こんな所で。
って、そんなの気にするやつじゃなかった。
ここで振り払うのもなんだ。
慰めることすらできないのだから、せめてこれぐらい。
背中に手を回す。
そしたらキスまで求めて来て。
調子乗ってるのでは?
別にいいんだけどね。
まったく、相変わらず大胆なやつだ。
メスガキ、心理的な物が原因だったっぽいからな。
普通は解決まで時間がかかる問題だ。
それを俺はズルしただけ。
チート能力で。
問題の根本は解決してないし、再発する可能性も余裕である。
と言うか、まだ治ってはいない。
杖という強制具を貸して、治療している段階だ。
ここから先はノアの仕事である。
いや、講師がそこまで関わる必要があるかは疑問だけど。
やりたいっぽいし。
否定されるような事でもないだろう。
……あ。
ふと、メスガキが視界に入った。
絶望したかのような表情。
知らね。
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