生徒 8

「……ノア先生、それで私に話って」


 俺を見つけ、一瞬固まったメスガキ。

 しかし、直ぐに向き直り。

 何事もなかったかのように元の会話に戻る。

 こいつ……

 どうやら、俺を居ない物として扱う。

 そういう方向で行くつもりらしい。


 にしても、さっきのボヤキ。

 多分、ノアには聞こえてないんだろうな。

 聞こえてたら前回同様怒りそうだし。

 そこらへん上手い娘だ。

 猫をかぶるのに手慣れてるというか。

 良い子的な事言ってたもんな。

 きっと対外的な評価は高い生徒なのだろう。


 学生の頃を思い出した。

 と言っても、今世はほぼ学園に通ってないので。

 そんな思い出あるはずもなく。

 当然前世の話。

 こういう女子いたよなと。

 先生の前だけ猫被るやつ、鬱陶しいったありゃしない。

 どこの世界でも変わらないらしい。


 あまり好きなタイプではない。

 女どうこうではなく。

 単純に、人間としての話。

 そんなところも合わせて、メスガキっぽいと言われれば。

 そこまで忌避感を覚えはしないのだが。

 不思議な物だ。

 まぁ、男なんてそんなものか。


「実は昨日エリスの事で先輩に相談してて」

「相談ですか?」

「ほら、最近魔法の成績がちょっと停滞気味でしょ?」

「あ、……ごめんなさい」

「いや、違うんだ。責めてるわけじゃない」

「本当に?」

「多分僕の教え方に問題があるんだと思う」

「そんな事は……」


 愛しの先生に呼び出されウキウキだったのが。

 急にしおらしくなった。


 にしても、きっついな。

 好きな人にこう言われるのは。

 たとえ自分でなくとも、こう来るものがある。

 涙ぐんじゃってるし。

 あーあ、ノア君いけないんだ。

 女の子泣かせて。


「だから、先輩にエリスの事見てもらえないかなと思って」

「……え??」

「それで昨日話たら、快く承諾してくれたんだ」

「先輩ってそこのおじさん」

「これから教わるんだ。おじさんじゃなくてロルフ先生でしょ?」

「そのロルフ先生とこれから?」

「ラッキーだね。先輩とマンツーマンで魔法教えて貰えるとか」

「えっと……、はい」

「そんな機会僕も無かったのに。羨ましいなぁ」


 初め嬉しそうだった顔が、泣き顔に変わり。

 一瞬驚いて、今度は分かりやすく嫌そうな顔に。

 よくそこまで表情が変わるものだ。

 見ていて面白いまである。


 ちなみに、現在進行形で年頃の女の子に嫌がられてる訳だが。

 ダメージはない。

 初めから分かりきってたことだし。

 憧れの先生との個人授業。

 そんな少女漫画的な展開を期待して来たのに。

 蓋を開けてみれば。

 よく知りもしないおっさんとの個人授業とか、地獄かな?

 少女漫画とは別の何かが始まりそう。


 パッと思いつくのは。

 そうだなぁ。

 エロ漫画、とか?

 俺に邪な思いがあるとかではなく。

 単純に。

 それぐらい真逆って話だ。


「私は、ノア先生に教えてもらいたいです」

「そう言って貰えるのは嬉しいけど」

「じゃあ!」

「でも、僕の教え方が悪くてこうなってるのかもしれないから」

「そんなこと」

「君には才能があるのに。ごめんね」


 あーあ。

 元々涙ぐんではいたが、ついに泣き出しちゃった。

 喜んで、嫌がって、泣いて。

 忙しいやつめ。


 まぁ、気持ちは分からんでもないが。

 そりゃな。

 自分のせいで好きな人が自責の念に駆られてるとなったら、ね。

 子供なりに思うところはあるのだろう。

 メスガキ、子供と言っても小学校で言えば高学年ぐらいだ。

 それなりに情緒も発達してる年代ではある。


 なんか少し可哀想になってきた。


「学園祭も近いしね」

「……」

「僕は詳しく知らないけど、どうしても勝ちたいんだろ?」

「はい」

「なら先輩を頼った方が確実だ」


 黙って聞いてたら、ノアが何やら意味深な発言を。

 なんか事情でもあるのかな?

 ま、貴族だしね。

 特別な事情のない人間の方が少数派か。

 と言うか、だ。

 俺に期待されても困んだが。

 そこまで真面目にやるつもりなかったし、そもそも素人だからね?

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