生徒 2
さっきの少女、才能はある。
でも、伸びが悪い。
ざっと話を聞いた限りそんな感じ。
……そうか、伸びが悪いんか。
メスガキの癖に。
生意気で実力も確かなのが相場なのでは?
それをひっくり返されるからこそ。
わからせがいがあるって物。
本人の責任の一言で終わりなんだけど。
一応やる気はあるらしい。
講師だからね。
真面目にやってくれてるのに伸びない。
これは自分のせいなんじゃないかと。
相談内容としてはこんな所だ。
いや、俺に聞いてどうするって話だが。
どうも例のノートを元に教えてるらしく。
俺に相談という事らしい。
止めてくれ案件でしかない。
あれ作ったの学園で学生やってた頃だし。
しかも、ほとんど通ってないからね。
完成度もお察し。
とても生徒の役に立つとは思えないが。
まぁ、触れてないノアからしたら。
そこが分かりやすいのかもしれないけど。
今更だ。
ノートに関しては言っても仕方ない。
それで、俺に少し見てやって欲しいと。
……無理だろ。
誰がDランク冒険者の言うことなんか好き好んで聞くんだよ。
ただでさえ、好感度も低そうなのに。
俺としても見ず知らずの奴のために骨を折る気にはならん。
放置でいいでしょ。
「え!? 先輩の好感度は低くないと思いますよ」
「お前はさっきの有様を見てなかったのか?」
「アレは……、多分びっくりして照れ隠ししただけです」
「そうは見えなかったけどな」
「先輩相手なら誰もがそうなります」
いや、俺はスターか何かかよ。
そもそもあの娘が照れ隠しする要素もないし。
ただのおっさんだからね。
むしろ貶されてた気もする。
俺相手に照れるなんてお前だけだ。
「先輩のことかっこいいって言ってましたし」
「俺は初対面だったと思うが?」
「ほら、先輩のこと話してるって言ってたじゃないですか」
「そんなことも言ってたな」
「僕の話に同意してくれたし。先輩のことも興味津々でしたよ」
「へぇ……」
「あ、生徒相手はダメですからね」
「うっさい。分かってるわ!」
それ、俺に興味あった訳じゃなくね?
多分ノアと話したかっただけだと思うんだが。
会話のとっかかりにしただけ。
にしても、かわいそうに。
好きな人と話すためにその人の好きな人褒める羽目になるとか。
苦痛でしかない。
それでも好きだから会話に付き合うしかないという。
……ただの拷問なのでは?
まぁ、そっちは置いとくにしても。
確かに話に出てたな。
強くてかっこいいとか何とか。
その後すぐ、趣味悪いとか話と違うとか散々な言われようだったが。
そこは照れ隠しって事か。
少なくとも、ノアの中ではそういう事になっているのだろう。
随分過激な照れ隠しもあったものだ。
かっこいいは、まぁ……
主観でしかないし。
好かれてるってのは分かってるからね。
個人の自由だ。
ただ、強いは嘘だろと。
そりゃ、冒険者だからね。
Dランクとはいえ一般人よりはマシだけど。
ノアとかそこまでいかなくとも。
学園の生徒にも勝てないレベルだぞ?
普通に魔法使えるんだし。
下級冒険者が叶う相手じゃない。
「少なくとも、強くは無いけどな」
「先輩も照れ隠しですか?」
「前も言ったけどなぁ。俺はただのDランクで……」
「あの日」
「ん?」
「先輩と再会して飲みに行った日もそう言ってましたね」
「なんだ覚えてるじゃないか」
てっきり忘れられたものかと。
あの後色々あったからな。
俺のことが好きだとカミングアウトされて。
何故かそこから娼館に行って。
あ、ノアと嬢が会ったのもあの日か。
振り返ってみると、本当に色々あった。
「後になって思い出してみたんですが」
「なんだ?」
「僕つい熱くなって机殴りそうになったじゃないですか」
「あぁ、あったあった」
らしくなかったからな。
印象に残っている。
「あれ、結構力入っちゃってたと思うんですよね」
「ほんとだよ。俺が止めなかったら机叩き割ってたぞ」
「先輩、簡単に片手で止めてましたよね?」
「……」
「僕の拳の下に手を滑り込ませて、力も入りづらい体制だったのに」
「そんな事、あったっけ?」
「今更その惚け方は無理があると思います」
冷や汗が……
「お互いお酒飲んでたからなぁ。ノアの記憶違いじゃないか?」
ジト目。
無理があるのは分かる。
軽率だった。
いや、確かにおかしいよな。
あの時、力加減なんて出来てなかったし。
当時はそれぐらい気が動転してたからね。
その瞬間は気づかなかったにしても。
後から思い出してみて。
違和感を覚えるに決まっている。
「まぁ、先輩がそう言うなら。そういう事にしておいてあげます」
「ありがとう。いや、記憶はないんだけどね」
「はいはい。僕も今日はお酒飲んだので今の話は忘れました」
軽く息を吐いて、そんな事を言う。
一安心。
って、そんな単純な話じゃない。
どうしよう。
ノアに弱みを一つ握られてしまった。
いや、脅す気はないんだろうけど。
それなら素直にこれ取引材料にして。
いくらでも交渉出来るし。
この話を出してきたのも俺が強いってのを否定したから。
それ以外の意図はないと。
まぁ、認めて欲しそうではあるけどね。
俺への憧れ的なものはそのままっぽいし。
でも、それを拒否ってるのも分かってくれただろう。
実力がないってのよりは受け入れやすいか。
それならそれで。
心に秘めておいてくれる分には。
ただ、本人の心情と相手の心情は別物。
ノアからの相談。
あくまで良ければって話。
お願いでしかない。
でも、これ断るのは結構な勇気では?
それに。
まだ講師を始めて一年も経ってないが、真面目だからね。
生徒も大切に思えているのだろう。
そうでもないとわざわざ相談してこないだろうし。
本心としては面倒でしかないが。
さっきの話は別にして。
ノアの力になる事自体は吝かでもない。
うーん。
「さっきの話、受けてやってもいい」
「え、本当ですか!? ……でも先輩のこと脅したい訳じゃ」
「そんなの分かってるって」
「なら、どうして……」
「まぁ、困ってる後輩のためだ」
「……先輩!! ありがとうございます」
焦ったり、感動したり。
忙しいやつだ。
「その代わり報酬はしっかり貰うからな?」
「もちろんです」
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