十章

生徒

「先輩。ここのお料理、どうでした?」

「美味かったよ」

「それは良かったです」


 少し、不安げな様子で確認してくるノア。

 実際美味しかったし素直に答える。

 ほっとした様子。

 まぁ、自分が紹介した店だもんな。

 相手がどう感じたのかってのは気になるよね。


 特に、この手のコース料理を出すタイプのお店なんかだと。

 大衆居店なんかは誰の口にも合うが。

 こういう店は結構好み分かれてくるとこあるし。

 なんと言うか味がストレートではないのだ。

 ただでさえハードルも高めで。

 そこら辺、店を紹介する側としては心配になる所ではある。


「実は相談したい事があるんですけど」

「ん?」


 コースも終わったし。

 そろそろお会計でもと思っていた矢先。

 ノアがそんな事を言い出した。

 話があったらしい。


 そういや、食事中口数少なかったな。

 話を切り出すタイミングでも伺ってたのだろうか?

 2人で来てるというのに。

 随分と静かなテーブルだったと思う。

 俺の場合?

 いや、料理が運ばれてくるとどうしてもね。

 食事の方に集中しちゃって。

 他のことが疎かになってしまうのだ。

 普段から1人飯だからね。

 その癖でつい。

 振り返ってみると酷いな。

 コース料理って、大抵会話も一緒に楽しむものだが。


 まぁ、向こうも黙ってたからね。

 そこはお互い様って事で。


「さっきの子、覚えてますか?」

「あぁ、エリスとかいう。元気な娘だったな」

「その子の事で……」


 学園の生徒の事で相談?

 俺に?

 全く心当たりないが。


 ……あ、そういう事か。

 さっきの娘。

 あからさまにノアのこと好きそうだったし。

 それなら相談してくるのも納得。

 ノアの中で俺がどういう扱いなのかは知らないが。

 そういう関係ではあるからな。

 相談相手として。

 まぁ、妥当ではあるか。


 相手は子供だし。

 自身の経験も少ないし。

 どう対応したものかと。

 そういう話ね。


「なんだもしかして生徒にアタックでもされたのか?」

「?」

「あれ、違った?」

「アタックって」

「いや、てっきり告白でもされたのかと」


 あれ、そういう話だと思ったんだけど。

 虚を突かれたとでも言いたけな。

 分かりやすいキョトン顔。

 え、これで違うことあります?

 俺的にこの予想結構自信あったんだが。


「告白って。教師と生徒ですよ?」

「まぁ、そうだな」

「僕とあの子何歳差があると思ってるんですか」


 極めて真っ当な反論。

 生徒と教師は確かによろしくない。

 でも、だからこそというか。

 憧れる子も多い気がする。


 それに年の差って……


「俺とノアの方が年齢差でかいと思うぞ?」

「確かに。……あれ?」

「な?」

「で、でも。あの子は貴族ですから」

「Aランク冒険者と貴族ね。確かに身分は違うか」

「そうですよ。揶揄わないでください」

「でも、俺とお前の差も正直そんなもんだろ」

「……」

「どう思う?」

「話の腰を折らないでください。真剣な話なんです!」

「はいはい」


 別に揶揄ってた訳ではないのだが。

 怒られてしまった。


 これ、俺が間違ってる訳じゃないよな?

 明らかに意識してそうだったし。

 ノアが鈍感系主人公やってるだけで。

 ま、予想通りではあるか。

 少し前の居酒屋で同じような事を考えた気がする。

 恋愛ごとに疎そうだなと。

 その時は俺の事がタイプとかいう。

 完全なウルトラCが出て来て混乱させられたが。

 これまでは予想外が多すぎたからね。

 むしろ良かったまである。


 いや、あそこまであからさまにアピールしてるのにだ。

 意識されないどころか。

 気づいてすらもらえてないってのは、少しかわいそうな気もするが。

 どっちみちノアは俺のだし。

 相手はメスガキだからね。

 わからせ代わりのざまぁって事で。

 話を聞いてる分には面白いし、一旦このまま放置もありか。

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