王都 4

 目下の心配事も無くなった事だし。

 しばらくはいつも通りの生活。

 依頼を受け、薬草を採取して小銭を稼ぎ。

 昼間っからギルドで飲んだくれて。

 日が傾いたら娼館に行く。

 このルーティーンを繰り返していた。


 とは言え、いつまでもそうしてる訳にもいかない。

 学園祭までまだ余裕はあるが。

 仮に誤魔化すにしても、その人数は最低限にしたほうがいいしね。

 違和感を持たれないのが最善。

 ギルドが手紙の内容を把握してるのかは知らないけど。

 その直前までこの街にいるのはあまりよろしくない。


 最低限、早めに町を出るぐらいの事をした方がいいよな。

 影武者を用意して馬車に乗せたりとか。

 そこまでの手間を掛ける気にはならないけど。

 まぁ、これぐらいなら問題ない。

 多少前倒しで王都に着くことにはなるが、それは別に。

 何たって、この国の首都だし。

 飲み屋も娼館も、この街以上にレベルが高そうではある。

 前世で言う花魁的な?

 貴族しか買えないような娼婦もいるのだ。

 指名するかはお財布と相談だが。

 見て回るだけでもなかなか楽しい場所ではあるはず。

 前いた時は、仮にも学生だったからね。

 補導なんて概念あるのかは知らないが。

 そこまで堂々と歩けなかったし、正直結構楽しみだ。


 何故20年以上行かなかったのかって話だけど。

 きっかけが無いとね。

 学園を辞めてそのまま。

 何となくだ。

 前世で仕事を辞めなかったのも、学園をすぐに辞めなかったのも。

 全部これ、同じだ。

 俺って根本が適当だから。

 この何となくって感覚が結構な障害になるのだ。


 ま、その話はいいとして。

 そろそろ出発しないとなと。

 それぐらいの時期だ。


 そう言いつつ。

 何か準備をするでもなく普段通り過ごしちゃってるんだけどね。

 やっぱ行動するのが面倒で。

 悪い癖だ。

 分かってるんだけど。

 バカは死んでも治らないと言うし、この性格もそのまま。

 普通だったら野垂れ死んでただろうな。

 異世界に放り出されて、客観的に見れば現代より何倍も厳しい世界だ。

 チートのおかげで楽しく暮らせている。

 本当にチート能力様様、神に感謝である。


 今日も薬草採取にでも行こうかな。

 ギルドに入り、受付へ。

 すると、受付嬢が謎に不機嫌だった。


「あれ? どしたの」

「おじさんって、本当に人をイラつかせる顔してますよね」

「酷くね?」

「酷いのはおじさんの方です」

「えぇ……」


 何故不機嫌なのだろうか。

 怒らせることしたかな?

 ついこの前飲んだ時は楽しそうに酔っ払ってたやんけ。

 分からん。

 まぁ、いいや。

 こいつのことだし、どうせ大した事じゃ無い。

 そういうのしっかり口に出すタイプだからね。

 機嫌が悪い程度なら別に。


「依頼受けにきたんだけど」

「え、こんなあからさまに機嫌悪いのにそこ無視するんですか?」

「どうせ大した事じゃないでしょ」

「おじさんの中で私ってそう言う扱いなんですね」

「普段の行動が悪い」

「ま、いいです。ノア様からまたお手紙ですよ」

「え? ノアから」

「ギルド経由で文通とは、おじさんもいいご身分ですね」


 俺に言うな。

 ギルド経由で送ってきたのはノアだ。

 ま、返事にギルド使わせてもらったけど。

 こっちだけ他の方法というのもね。

 この時期だと時間かかっちゃうし。

 それもノアのせいである。


 しかし、なるほどな。

 それで不機嫌だったのか。

 手紙を見て合点がいった。

 そういう事だ。


 ただこの受付嬢、一見機嫌悪そうには見える。

 でも、普通こんなあからさまに表情に出した状態で仕事はしない。

 彼女そこらへんはしっかりしてるし。

 俺への態度はともかく、普段は優等生だ。

 わざとだろうな。

 そう思ってみると、表情も作ってる気がしてきた。

 俺に絡むためにやってる節がある。


 この前、受付嬢と仕事帰り飲んでて発覚したのだが。

 ノアのファンとか言いつつ。

 あれ、ただのミーハーだった。

 大したこと知らん。

 少し前まで存在すら知らなかった俺と大差ない知識量。

 因みに、記憶が飛んだのかそのことを覚えてないっぽい。

 つまり、だ。

 すでにバレているのに。

 そうとは知らず。

 ノアのこと取られたみたいな体で絡んできてるのだ。

 ちょっと面白い。

 だから、しばらくは泳がしておこうかなと。


 めんどくさいというか。

 何というか……

 ま、そこが受付嬢らしい所でもあるんだけど。

 話してて飽きない人だ。

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