王都 2
おそらく、壁は相当に高い物だったと思う。
俺って庶民だし。
生まれた家も大して金を持ってる訳でもない。
単なる村人。
平等とか何それ的な世界観なのだ。
当然、ギリギリの点数じゃ入学など到底不可能で。
合格者平均でも怪しい。
圧倒的な高得点を取らなければ。
貴族ばかりの学園。
商人だったら、そこを金で補填するのだろう。
通わせるに足るメリット。
それがあると思わせなければならない。
つまり、国益になるかどうかだ。
ただの庶民を合格させたところで何の意味もないが。
それが天才なら?
将来は国に仕える事になり。
ひいては、学園の評判を上げる事になる可能性も。
それは十分に入学を許すだけの理由になる。
まぁ、受験した当時時はそんな認識はなかったのだけど。
そこまで見えてたなら。
そもそも学園に通おうなんて狂った事考えなかった。
だから真面目に勉強したかと言われれば。
そんな事もなく。
せいぜい地元の私立に行くぐらいの。
自分の名前さえ書けば受かる、名ばかり受験程度の考えだった。
普通、そんな認識で受かるはずないのだが……
その高いはずのハードルは、チート持ちの俺からすれば大した物ではなかった。
魔法はどんな物でも簡単に使えたし。
魔力の上限も多すぎてほぼ無い様なもの。
剣は素人で多分才能もなかったが。
代わりに、相手の動きが止まって見えるほど目が良かった。
動かない的も同然。
型も何も無い動きでも剣を当てるぐらい出来るし、剣が当たればこちらのもの。
魔力で身体能力をいくらでもバフできるのだ。
たとえ剣の腹を当てただけでも、その全てが必殺の一撃と化す。
英雄級の相手だって苦戦する要素が無い。
ましてや、学園の試験官相手なんて完全に余裕だった。
座学も、本が高級品で勉強するための教材すら少なかったが。
魔法はチートのおかげで理解力が段違い。
なんせ全て自分で使えるのだから。
他の教科も、大人の理解力はチート程とは言わずとも大きなアドバンテージではある。
前世、そこまで優秀な人間ではなかった。
しかし、仮にも義務教育を終え大学まで出てるからね。
全く新しい分野でも一桁年齢の子供相手。
一部の天才相手にはそれでも負けるだろうが、貴族が全部そうではない。
入試の成績は実技での無双も相まって余裕で上位だったと思う。
そんなわけで、庶民でありながら学園に入学。
違和感自体は入学後すぐに感じた。
周り貴族ばかりじゃね? って。
よくよく思い出してみれば、別に村の子供は誰も学校に行っていなかったなと。
年上の子もいたのに。
なぜ深く考えなかったのだろう。
当時は、田舎ならそんな事もあると流してしまった。
前世ほど進学率が高くないだけで、都会の子なら基本進学してるような。
そんなイメージをしてしまった。
日本で言えば、大学的な立ち位置だろうか。
ようやく自分の常識と世界のズレに気づき。
同時に学園に通う意味も無くなった。
ただ、辞めるに辞めれず。
だらだらと通い続ける生活を続けていた。
これも前世の遺産か。
ほら、現状を変えるって結構労力が掛かるからね。
前もそうだったのだ。
ブラック企業だって分かってた。
ただ、転職がめんどくさくて。
その結果の過労死。
自分でも馬鹿だと思う。
でも、死ぬまで治らなかった性格だ。
転生して治るなんてことも無かったらしい。
何もなければ、そのまま通って卒業していたのかも知れないな。
まぁ、結果辞めてるんだが。
なんて事はない。
俺のこと周りは気に食わなかったようだ。
当然の話である。
貴族なんてプライドの高い連中の集まり。
学園に子供を通わせられるような、大商人の子供ですら肩身を狭そうにしているのだ。
目を付けられるのは道理。
ある日、冤罪を吹っかけられた。
その内容も犯人も忘れてしまったが、そこそこの上位貴族だったような気もする。
あっという間に停学。
それでも退学にならなかったのは、証拠がなかったからなのか。
もしくは俺が優秀だったからだったのか。
学園が生徒にそこまでの横暴を良しとしたく無かった可能性もあるな。
でも、良いきっかけにはなった。
それを機に辞めたのだ。
と言うか、停学初日ぐらいに王都を離れて。
そのまま冒険者になった気がする。
だから、母校と言ってもOBではない。
卒業はしてないからね。
扱い的には中退。
いや、連絡もせずに辞めたから退学かもな。
今思い返しても、結構な人生のターニングポイントだったと思う。
もしそのまま卒業してたら……
今世でも社畜をやる羽目になってたかもしれない、な。
騎士団とかに所属して。
冒険者みたいな誰でもなれる仕事ではなく。
社会的に信用の高い仕事を。
まぁ、当時も受験以降は結構力抜いてたし。
下っ端だったとは思うが。
それでも、今とは比べ物にならないぐらい忙しい日々を送る事になっていたはず。
そういう意味じゃ、感謝だな。
顔も名前も覚えてないけど。
冤罪吹っかけて来た貴族にサンクユー。
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