奴隷 11

「え、娼館じゃなくていいんですか?」

「まぁ、うん」


 どうしても娼館で働いて欲しいって訳でもないしな。

 単にどこかに預けたかっただけで。

 正直、代わりに面倒見てくれるならどこでもいい。


「じゃあ何で娼館に」

「ここが一番都合がいいかなって」

「都合?」

「俺が面倒見るのは無理だし、奴隷1人で生きてくのも不可能でしょ?」

「確かに、そうかもしれないですけど」

「娼館なら全部面倒見てくれるからさ」

「……」


 ま、そこまで嫌だと言うなら別に他のとこでもいいんだが。

 でも、奴隷が1人で生活はな。

 多分無理だろう。

 色々制限かかるし。

 だから、普通に適当なところで働かせる訳にもいかない。

 生活を全部面倒見てくれるところがベストなのだ。


 最低限、衣食住のうち二つは見てほしい。

 出来れば三つ。

 住み込みで、食事も出してくれてみたいな。

 そんな職場だ。

 ただ、他にそんな都合のいい所なんてそうそう無い。

 その点、娼館なら安心。

 しっかり面倒見てくれるからね。

 商品だし。

 生活基盤のない様な。

 身一つで飛び込む女性も多いだろうから。

 そこら辺はちゃんとしてるのだ。


 調べた訳ではなく、又聞き。

 行為の後嬢から軽く話を聞いただけだけど。

 でもまぁ、聞いて納得できたし。

 合理的だと思ったからね。

 実情もそこまで遠いって事はないはずだ。


「娼館は嫌だとして、どこで働きたい?」

「どこでと言うか、ご主人様のお世話じゃダメなんですか?」

「俺が世話できないからなぁ」

「自分のことは自分でできます」

「うーん」

「お掃除も、料理も、家事全般結構得意です!」


 へぇ、家事得意なんだ。

 意外。

 もっと、こう野生味あふれた感じかと。

 いや、これは偏見だな。

 獣人だからってそうとは限らない。

 最近じゃエルフも森から出てるって言うしな。

 都会型エルフである。

 同じ人間なのだ。

 文明がある程度進むとね。

 多分、その方が住み心地が良いのだろう。


 俺が屋敷でも持ってればメイドにしてもいいんだが。

 その手の物とは無縁。

 家はちっこいし。

 そもそもあんまり家にいないし。

 掃除なんかも魔法で一発で終了する。

 食事も基本外食だからな。

 普通だったら有用なんだけど、いかんせん……


 そんなの持ってても面倒だからね。

 たまにこうやって宿に来て贅沢するのがいいのだ。


「だめ、ですか?」

「……うーん」


 別にダメって事はないんだけど。

 家事ねぇ。

 ここまで嫌がるなら、いっそのこと宿に押し付けてしまうか。

 娼館に断られたらの最終手段ぐらいに思っていたのだけど。

 もうそっちの方向性でも。

 ん?

 宿、か。

 あ、宿でいいじゃん!

 家事得意ならある程度使えるでしょ。

 俺が泊まってる温泉宿に送り込んでしまえ。


 従業員がどういう扱いになってるのか詳しい所は知らないが。

 下宿先とかありそう。

 仮に無かったとしても、賄いはくれそうだし。

 制服的な?

 共通の服装もある。

 最低限、衣食住の内二つは揃うか。

 家の方は。

 最悪安い部屋を一年借り続けて貰うとして……

 月収全部それに消えるかもしれないが、無理ではなさそうかな?

 まぁ、それで生きてけるなら問題はない。


「宿で働く気はある?」

「宿ですか?」

「そう、この街の温泉宿。泊まり込みで」

「結局そこはぶれないんですね」

「ま、世話できないからね」

「娼館よりは、まぁ」


 あまり反応は良くないが、娼館よりは乗り気らしい。

 基準が謎ではあるけど。

 絶対宿の方が仕事大変だと思う。

 でも、本人がそっちの方が良いっていうならよし。


 後は雇ってくれるかどうかだが。

 娼館より難易度高そう。

 家事得意ってのもどの程度のレベルなのか。

 ま、何とかなるでしょ。

 労働力増えて悪って事はないだろうし。

 給料はギリギリまで削ってもらって、それで構わない。

 上手いこと交渉すれば。

 どうにかなりそう、かな?


 それに、奥の手もある。

 例のキノコ。

 結局あれが毒だったのかは不明だが。

 元々はこれ一本で押し通すつもりだったのだ。

 交渉材料ぐらいにはなるはず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る