奴隷 9
「ご主人様は娼館を経営なされてたので?」
「いや、冒険者だ」
「?? じゃあなんで」
「まぁまぁ、とりあえず娼館の人と話しだけでもしてみようよ」
「えっと」
「もしかしたら気にいるかもしれないし」
「……はぁ」
よく分かってなさそうだ。
渋々了承したって感じ。
何故に?
いや、見知らぬおっさんとやりたくない。
それは理解できる。
でも、その点に関しては俺も同じわけで。
奴隷になった時点で行為は避けられない。
それは受け入れてる風だった。
俺とは嫌じゃないんだろ?
会って1時間も経ってない。
ただのおっさん相手に拒否しなかったし。
買ってくれた恩ってのはあるかもしれないけど。
環境が環境だったしね。
救世主に見えたのかもしれない。
求められて、必要とされて嬉しかったって言っていた。
でも、娼館の客も金は払うし。
俺は奴隷として人生そのものを買ったわけだが、時間を買うみたいなことだ。
行為としては似ている。
お客さんも女の子を求めてお店に来るからね。
必要とされてるって事だ。
初対面が嫌って言っても。
行為に入る前に体洗ったり雑談したり。
なんだかんだ今までぐらいの時間はあるのだが。
まぁ、いいや。
それでも嫌だって言うならまた考えるけど。
ひとまず娼館の方と話をしてからだな。
そもそも雇ってもらえると決まった訳でもないし。
ここで話してても仕方ない。
どっちみち自分じゃ面倒見れないのだ。
なら、プロに面倒を見てもらおうと言うのが発想の根本である。
人間の面倒を見るプロに。
そういう意味じゃ奴隷商も同じなのかもしれないが。
あそこに置いとくと売られちゃうからね。
それ以前に死にそうだったし。
どちらにしても、2度と会えなくなってしまう。
人間自体が商品だし当然の話だけど。
その点、娼館なら商品は体だから本人が売られる事はない。
比喩で売るなんて表現を使うこともあるが。
究極他のサービス業と変わらないしね。
ただ時間を売ってるだけだ。
その上で体が商品だからその品質維持の為に生活の保護も結構手厚い。
売れてる間は。
それに、テクニックも向上するし。
良いことづくめ。
世話を任せる相手としては完璧である。
着いた、この街の娼館。
まだ昼間だからか。
店の前を掃除していた。
「ちょっといいか?」
「はい……あれ? ロルフ様」
知り合いだったらしい。
揃いも揃って同じ服来てるから。
あんまり区別がつかない。
「よく覚えてんな」
「お得意様ですから。あぁ、そういえばもう冬ですもんね。今年も温泉に?」
「まぁな」
「そういえば、ロルフ様に伝えなければならないことが」
「ん?」
「以前から指名して頂いていた娘、実は少し前にお店を辞めてしまって」
「ありゃ、俺のせい?」
「そんなまさか。よくしてもらったって感謝してましたよ」
「大した事してないけどな」
「毎回朝まで指名してくれますから。女の子にも纏まったお金が入るんです」
「あぁ、なるほど」
確かに長時間の指名は嬉しいか。
その間ずっと行為に付き合わされるならともかく。
俺、普通に寝るしな。
単純な労働時間だけで言えばかなり割りがいいかもしれない。
まぁ、それで感謝してもらえるなら安いもんだ。
こっちもたっぷり楽しませてもらってるし。
人肌を感じながら眠るってのはそれだけ価値あることだから。
実にWin-Win。
健全な関係である。
いや、やってることは不健全極まりないけど。
「それで理由ですけど。必要なお金たまったみたいで」
「へぇ、貯めてたのか」
「もうこの街も出て、王都の方にいるかと思います」
「女の子で大変だと思うけど。頑張ってほしいね」
「そんなこと言って。本当は戻ってきてほしいんじゃないですか?」
「ま、失敗して帰ってきたらたっぷり楽しませてもらうよ」
本当にいなくなったのか。
ちょっと寂しいな。
ま、一生続ける仕事じゃないからね。
むしろ夢に向かったならよかった。
行方不明とか。
それこそ自殺とか。
普通にある仕事だからね。
と言うか、夢があって働いてた方に驚いた。
大抵借金とか、生活のためだからね。
金は稼げるんだけど。
そう気軽にできる仕事でもないし。
やりたいことがあって、お金を貯めて王都にか。
応援したいな。
全く無関係の間柄って事でもないし。
ま、だからって何かしたりは無いんだけど。
とりあえず頑張れ。
それだけ? って感じだが。
俺の願掛けは結構馬鹿にならない。
転生した身だからね。
もしかしたら、神様が見てるかもしれないし。
って、俺は雑談をしにきた訳ではないのだ。
本題に入らないと。
「にしても、昼間からとは珍しいですね」
「いや、今日は別件で」
「別件ですか」
「この娘をここで働かせようかと思って」
「……へ??」
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