日常 6
「ごゆっくり」
男から鍵を受け取る。
鍵に付けられたストラップには205の文字。
2階の角部屋だ。
階段を上がって、ぼんやりと蝋に照らされた廊下の突き当たり。
205のプレートがかかった部屋。
ここ、だな。
部屋に入る。
内装も普通の宿そのもの。
でも、違うんだよなぁ。
少しそわそわして来た。
ベットに浅く腰かけ、リラックスとは程遠い状態。
でも、それも何処か心地が良い。
しばらくすると、ドアがノックされる。
来た来た……
開けると、綺麗な女の子が1人。
胸元が大胆に開いていて、その豊満なお肉に視線が奪われる。
「お待たせしました〜。って、ロルフさん!」
「会いに来ちゃった」
「嬉しい。いらっしゃい」
目が合い、そのまま抱きついて来た。
そうなれば、当然その豊満なお肉も俺に押し付けられる訳で。
あぁ、幸せ。
ここは男女が一夜の夢を見る場所。
ずばり、娼館である。
俺はこの店の常連なのだ。
この街に来たばかりの頃はいくつかの店をローテーションしていたんだが、最近はここばっかり。
何せ女の子のレベルが高い。
で、この子は最近の俺のお気に入り。
出勤さえしてれば必ず指名してるレベルだ。
やっぱり、働いた日は女の子に疲れを癒してもらわないとね。
ストレスを溜めちゃ仕事にならない。
まぁ、今の仕事じゃたいして疲れもしなければストレスも溜まらないんだけど。
気分的な問題だ。
働いて疲れた体を献身的な女の子に癒してもらう。
そんなシチュエーション、最高じゃね?
「今日もお仕事だったの?」
「ま、一応ね。あんなのほぼ働いてないようなもんだけど」
「それで稼げちゃうんだもの。ロルフさんは凄いわ」
「そうかな?」
簡単に乗せられ気持ちよくなる俺。
この子は身体だけじゃなくて口も上手い。
まぁ、俺が乗せられやすいってのもあるかもしれないけど。
いや、だってねぇ。
可愛い子に褒められて悪い気する男なんていないでしょ?
しかも、それをボディータッチされながら言われるのだから。
そりゃ気持ちも高ぶるってもんよ。
そういうお店だから当然なんだけどね。
触り方がいいのか。
心地がいい。
人肌に触れるっていうのは、暖かいのだ。
体温がどうこうって話ではない。
言葉では言い表せないような、やさしい暖かさがある。
「そっちこそ、ここはもう慣れたの?」
「うん、おかげさまで」
「それは良かった」
水揚げだっけ?
いや、それは辞める方か。
俺はこの子が娼館に入って初めての客なのだ。
これが常連のいいところだよね。
コツコツ信頼を積み重ねたかいがあるってものだ。
最初は緊張していたのか、全てがぎこちなくて。
会話も途切れ途切れだったし、俺に触れる手も少し固かったのを覚えている。
それが今ではこんなおっとりとした笑みを浮かべて。
思い出すだけで、微笑ましい。
容姿は初めから優れていたけど、柔らかさが出てより魅力的になった。
「……ねぇ、余計なこと思い出してない?」
「いや」
「本当に?」
「本当、本当」
「でも、ココはピクって反応したけど?」
「え?」
「直接触れてるんですもの。嘘なんてついたってすぐバレちゃうんだからね」
「……はい」
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい」
「仕方ない、許してあげます」
それが、どうしてこうなったのだろう。
すっかり立場逆転。
今では毎回手玉に取られてしまっている。
年下なのに、母性すら感じてしまう。
そこもまたいいんだけどね。
「今日はゆっくり出来るの?」
「もちろん。一晩、丸々買わせてもらったよ」
「ありがとう! ロルフさん」
明日は休み。
めいいっぱい楽しむつもりである。
あ、そうそう。
俺はこの世界に来てから、1労1休制を導入している。
1日働いたら1日休みという、夢みたいなシステム。
このまま朝までしても問題ない。
まぁ、流石に相手の体力が持たないだろうから滅多にそこまではしないけどね。
いやー、異世界生活さいっこうだな。
確かに俺は何もしていない。
せっかくチートをもらって転生したと言うのに。
何も成し遂げることなく35年。
ついには前世の年齢も超えてしまった。
でも、それでいいじゃないか。
今更、ドラゴンやらなんかと死闘を演じようなんて気にもならない。
確かに俺は特別なのかもしれない。
でも、この世界に特別な存在が1人しかいないって事もないだろう。
そういうのは好きな奴に任せとけばいいんだ。
俺はこれからもダラダラと異世界生活を満喫するつもりだ。
……ひとまず。
目の前のマシュマロの方、いただきます!!
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