うんこと僕 第2章

あヤッピー

第1話 見える者たち

あれから2年が過ぎた、春。僕は、高天原たかまがはら高校1年生になった。


―そう、僕、天瀬輝斗あませてるとは留年したのだ。


僕は今年も同じ下駄箱を使うのだ。

学校に慣れていない1年生が、ぞろぞろと教室にやってくる。まだ仲のいい友達ができてないのか、ほとんど1人でやってくる。みんなぼっちだ。僕はまぁ、うんこがいるからぼっちではないが……

その中でも1人目立つ女子がいた。

少しつり目の頭良さそうな女子。髪は長く、横の毛は綺麗な姫カットになっていた。

不意に彼女と目線があった。

彼女は驚いたように目を見開いた。

そして、逃げるように走り去って……

「あっ……」

彼女は走り始めてすぐに、段差につまずいた。

ハラリとスカートがめくれて倒れた。

「……黒色だ……」

そんなこともお構いなしに彼女は走り去っていった。

『何が、黒なの?』

うんこが横から聞いてくる。そんなのパンツに決まってるだろ、と思いながら机にパンツと指でとなぞる。さすがに声に出して言う訳には行かない。

『なんて?』

やっぱ伝わらなかったか、まあいいや


……それより、僕、そんなにキモかった?僕を見て逃げるとは、失礼じゃない?なんで?もしかして、陰キャオーラでも出てます?

まぁ、もうすぐ朝のホームルームが始まるし、気にしないでおこう。嫌われたとしても、今後そう女子とは関わらないだろうし。


バァァァン


急に勢いよく教室の扉が開いた。クラスメイトか一斉に扉を向く。そこからマスクをした先生(確か、名前は間邪瑞雲まじゃみずも先生だった気がする先生)が入ってきた。

先生と目が合う。……目が合う。え、あ、僕に用事があるのか。

僕はこれ以上目立たないようにするため、席を立った。

視線が変わって見えることもある。先生の後ろにはさっきの彼女が立ってた。

え、僕なんか悪いことしたっけ……。いや、してないはず……。してないよね……、ねぇ……。

「輝斗、ちょっと来い」

「あ、はい」

え、やばいやばいやばい。怒られる怒られる怒られる。え、僕なんかしたっけ??え、え?えぇ?

先生と女子に連れられて僕は資料室に向かった。

「輝斗、お前はカブトムシか?」

「へ?」

何言ってんの。

「違うのか」

「え、あ、僕は一応人間ですけど……」

一応って言っちゃったけど、僕はしっかり人間だ。

「じゃあ、ドーナツか?」

マジでさっきからこの後先生何言ってんの。

「違います」

からかってんのか。僕は食べ物でもない。

「あぁ、伝わんねぇか」

そう言いながら頭を掻き回した。根元が白くて、毛先が黒いのグラデーションで染めたような髪。一部白いが、けして、おじいさんという訳では無い。どちらかというと、若めの先生だ。


やっと辿り着いた頃、先生は鍵で資料室を開けた。

先生が電気をつけると、そこには沢山の資料と古びた机があった。

「とりあえず、ここに座れ」

と言われ差し出された机の前の椅子に座る。

珠数木すずのきはそこに座ってろ。できるだけ後ろな」

彼女は僕の向かい側の椅子を後ろに下げて腰掛けた。へぇ〜珠数木すずのきって名前なんだ。

先生は机を挟んで僕の前に座る。


なんでこんな机が学校に?


机はささくれだらけ。触れた瞬間怪我しそうなくらい酷い。おまけに、絵の具か何かの赤い染みが沢山できていた。足はマシな方で、ガタツキはあるものの使えそうだ。


先生は机に人差し指を押し付けて円を書いた。


なぞった後には先生の赤い線ができていた。血。痛そう……

先生は構わず真ん中に星を描き、周りによく分からない文字を書いた。昔の古代文字みたいな字。


「……魔法陣」


そう、先生が書いていたのは魔法陣だった。そして、中心に人差し指を押しつけた。


その瞬間、視界が若干暗くなった気がした。気の所為かもしれないが。

「外に音が漏れないよう、『結界』をはった。もう、どれだけ喋ろうが、どれだけ叫ぼうが外に声は届かないからな」

……ん、結界?何それ。中二病的な話?

『結界だ……』

うんこまで何言ってるの?


「おい、バラキエル、目と耳を貸せ」

先生は空中に向かって命令した。


―光のように、何も無いところに向かって。


「おい!バラキエル!聞いてるのか!」

声を荒げる先生だが、今のところただの中二病どころか、ヤバいやつにしか思わない。

そして今すぐ逃げたい。

「それでいい。すまん、またせた、な、てる…」


先生も珠数木すずのきと出会った時と同じように目をなにかに驚いてた。まるでなにかやばいものでも見たかのように。

怖い、何この人たち。

「お前は、『つの憑き』か?それとも『輪っか憑き』か?」

「……は?」

マジで何言ってるか分からない。

「お前、まじで分からないのか」

呆れたように先生がため息をつく。

分からないも何も無いだろ。先生が何言ってるのって感じ。しかもそこの珠数木すずのきとかいう女子もなんで何も言わないんだよ。え、もしかして僕がおかしい?


「お前、見えるだろ。ほらそこの、漆黒の翼と角の生えた悪魔が」


そう言って先生はうんこの方を指さした。

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