終演を告げたこの世界。
中田えむ
目を覚ました
「やっぱり僕なんて…生きてない方がよかったのかなぁ…」
「…私は正常だ。違う。私は異常なんかじゃない!世界が私を拒絶しているだけだ!」
「全てが…どうでもいいや。このまま、破滅に向かうだけだろ?」
遠い遠い夢。
私の追憶。
何人を殺したのか、何人を救ったのか。
誰にもわからない。
ただ、言えるのは、私がそこに存在していた、という、不安定な要素だけだった。
朝だ。明るい。朝といっても早朝の、優しく白い光だった。
季節は雨水。ほぼ冬。寒い。
…ここはどこだ?
部屋一つ。大きな窓があり朝の光が入り込み、辺りを照らしている。使い込まれたモノクロのベッド。なんの個性もない照明。そして、一人用の机と椅子。ピカピカキッチン!…料理をした形跡がない。
ベットの下に小さなタンスがあり、引っ張り出すと、中にはセンスを語ることすらままならない、シンプルで興味を引かない服と、安物の装飾品が詰め込まれていた。
…知らない人の家かもしれない。のに、こんなにも勝手に見たり触ったりして大丈夫なのだろうか。まあ、今は大丈夫だろう!とか、よくわからない自信が込み上げている。
大きな窓から、緑のしげる庭が見える。
窓を開け、外に出てみることにした。
空は、少し寒色がかった白。優しい色だ。
庭には、花が咲いている。
ちいさい、桃色の花が地面にまばらにひろがり、薔薇の木が生えていた。白い薔薇だ。なんの面白味もない。
家の色も白だ。なんとも趣味の悪い…
飽きさせるには十分なほど白かった。
部屋に戻ると、部屋の玄関口に気がついた。
少しばかり探索して気が済んだ。
まっすぐとそこへ向かう。
靴だ。きっと私のもの。
ぴったりとはまった。
ドアノブを右手で掴み、左手を添え、押す。
ガチャリ。
ドアが開いた。
…
隙間から漏れる光に、興味をひかれた。
…
嘘だ…ろう?
目の前には
私の前には、
退廃した世界が私に挨拶した。
周囲には壊れた家。
そして、人の気配が全くない。
私の常識からは、全くかけはなれた…
…?
私の常識?
常識とはなんだ?
…人がいて、生物が溢れていて
それで、
あ、嗚呼?
思い出せない。
私は…
?
私…は?
あ、え?誰に?誰?
世界が…退廃してると何故?思ったのか
わからない、右も左も、前もうしろも、
流暢に扱っていた言葉が解らなくなる。
誰か、助けに、誰もいないが、でも
誰か
だれ、か…?
足がふらついた。
大丈夫だ、落ち着け。
一人、孤独だ、今は、今はだ!
これは所謂、記憶喪失というやつだろう。
大丈夫、そう。平気だ。
この孤独と障害物は、きっと神が与えた使命だ。
…ふと、くだらない考えが頭のなかで自我持った。
もしも、魂という概念があったら。
例えば私が今、自殺したとする。
すると、魂は輪廻に帰り、巡り、また人間に転生し、記憶ないまま、人間のいる世界で、また楽しい余生を過ごすこととなろう。
そんな楽観的な考えが私を襲う。
本当に人間には魂があり、そして、輪廻を続けているのかもしれない。ただ、それを覚えていると、死ぬことが怖くなくなり、必死にあがく姿を神々が見ることができかない。だから、私たちには昔生きていた記憶がないのかもしれない。
よし、実験の一貫として、死んでみるか。
だが、死ぬ方法がわからない。覚えていない。
神様仏様人間様…親切に私を助けてはくれないだろうか。
今さらだが……
人の家の前で突っ立っている私を、世間一般の人々(私には世間一般とはなんだか覚えていないが)は、どう思うのだろうか。ヤバイやつと思われて、国の治安を守る誰かに捕まるだろうか。
そう思ったとたん、なんだか怖くなって気持ち悪い家の敷地から足を進ませ関係のないように装った。
整った道があり、その両側には、お屋敷のように大きな家が立ち並んでいる。
全て壊れかけているが。
私が出てきた家がいかに浮いていたことか…でも、もしかしたら、あれは私の家だったのかも…?
服装も、さっきタンスでみた、無愛想でシンプルすぎる服だった。
黒い長ズボンに黒い羽織に、白いインナー。つまらない服装だ。
羽織と言っても、着物ではない。普通の服。…着物ってなんだ?
そう思い始めるときりがなく、思考をやめる。
不確定要素は除かねば。気が狂いそうだ。
両側の家にも、人の気配は皆無だ。
全くつまらない。そして私は、ここから何をすれば良いのか解らない。
八方塞がりだ。
よし、やっぱり死んでみようか。
素晴らしい。ゲームのようにセーブ地点からやり直ししてしまおうじゃないか!
ゲーム?セーブ?…う゛ぅん!考えるのやーめた!
だが、何をすれば?
そう考えるのがまず間違いなのか?
「…どうしようか」
あ、私の声だ。
思考の中の声よりも、なんだか可愛らしい。私は女性のようだ。
そこで、私は思考をやめた。
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