ただ一声
雨蛇 莉永
第一章 少女の自殺
ある日、ある少女が自殺を謀った。
「は~。なんで俺が行かなきゃいけないんだよ。」
俺――
「仕方ないじゃないですか。こんなことになったのだから。」
柴中は、ため息をつきながら言った。
この病院には、自殺を謀った少女が入院している。
俺がこんなところに来ることになったのはその少女が関係している。
その少女は、俺が担当している作家――
そう、書いていた。
その小説は事情により、打ち切りとなってしまったのだ。
その小説を溺愛していた彼女にとっては、自分の家族が死ぬことより苦痛だったという。
その少女は、一応生きながらえた。
だが、両腕・両足の骨折、全身擦り傷、という傷を負ってしまった。
そのため、会社の社長から、''菓子折りをもって謝りに行け。”と言われた。
そのため俺はこの病院に菓子折りを持って、来ている。
彼女の病室は、五階だという。
「この部屋か。」
俺は、彼女のいる病室――517号室の前まで来ると、周りに人がいないのを確認してから、ドアのノックしてドアを開けた。
中には、両親と包帯を巻いた少女――
岩崎香澄は、ベッドから起き上がり、少し会釈をしただけで、視線をすぐに菓子折りのほうに向けていた。
「この度は………本当に申し訳ございませんでした……!」
「申し訳ございませんでした。」
俺と柴中は、両親に向かって深々と頭を下げた。
「本当に……なんで……こんなことになっだんですか!!!!」
母親は、泣きながら叫んだ。
「………」
父親は、岩崎香澄のほうを向いて黙っていた。
「この子が……自殺を謀るような作品を……なんで出版したんですか!!!!」
母親は、泣きじゃくりながら叫んだ。
「………お母さんは、この本を読んでいないから、わからないんだよ。」
「………えっ。」
母親は驚いたように香澄のほうを向いた。
「どういうこと………?」
母親は、香澄に問いた。
「だから、さっきも言ったじゃん。この本を読んでいないから気持ちがわからないって。」
「どういうこと?」
母親は、少し怒った感じで聞いていた。
「まあいいわ。香澄。今度こんなことしたらただじゃすまないからね。」
母親は、香澄をにらみながら言った。
「いやだね。」
香澄は即答した。
「えっ………。」
病室が沈黙に包まれた。
「……どういうこと……。」
母親は、少しだけ怒りに包まれた声で言った。
「どういうことだ!香澄!」
母親が、香澄に飛びついた。
「お母様!!」
俺と柴中は、母親を香澄から離そうとした。
「お前なんか!お前なんか!」
母親は、すさまじい力で香澄を放そうとしなかった。
「ファンサイトでも皆言ってるよ!打ち切りとなったのなら!もう生きている価値がないって!みんな言ってるんだよ!」
香澄が声を張り上げていった。
「それは本当なのか……?」
俺は、香澄に向かって聞いてみた。
「………本当ですよ。宮月さん。」
柴中が、母親から手を放し形態をいじり始めた。
「おい!柴中!今はとりあえず香澄さんからお母さまを引き離すんだ!」
俺が言い終わると同時に柴中は、携帯を差し出してきた。
俺は母親と一緒に携帯を覗き込んだ。
「っこ……これは……。」
「本当なの……?香澄。」
俺と母親は言葉を失った。
携帯には、“もう死のう”“生きる価値がないや”“死んだら楽になれるかな”“もう続きは読めないのか……死のう”などといった、投稿が3000件以上は投稿されていた。
「私は!」
香澄がいきなり声を張り上げた。
「私は……この小説だけが、この世に私の魂をつなぎとめるためのひものようなものだったの!なのに!打ち切りになって!もう読めないとなって!私の魂はこの世から去ろうとした!でも去れなかった……。」
病室は沈黙に包まれた。
「そうだったのか……。」
沈黙を貫いていた父親が声をあげた。
「香澄は、そういう気持ちでこの小説を読んでいたのか。」
「そうだよ。」
香澄は、小さな声でつぶやいた。
「………宮月さん。それに、柴中さん。」
父親は、立ち上がって俺らのほうを向いた。
「………何でしょうか。」
俺は、怒られると思い、少しビビりながら聞いた。
「今日は、菓子折りを持ってきてくださりありがとうございました。この子にとっては、この小説こそが生きる源だったのです。どうか……この作品をもう一度出版することはできないでしょうか?」
俺は、予想外の返答に少し驚きながらも答えた。
「わかりました。お父様の思いは、編集部に持って帰ります。また返事は、こちらの住所に送らせてもらってよろしいでしょうか。」
俺は、岩崎家の家の住所が書かれた書類を見せた。
「はい。こちらで結構です。」
「わかりました。では、今日はここで。」
俺と柴中は、菓子折りを父親に渡して三人に向かって礼をしてから病室を後にした。
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