第14話 やっぱ男同士だよな!
日曜日。夜明けの町をジョギングして帰宅し、昼まで寝ていた。まだまだ眠いが腹も減ったのでお昼を頂いてから寝よう。
「おはよう平太」
「ん、おはよう」
「おはよう咲耶」
「……うん」
微妙な感じを作るんじゃない。忘れよう、僕らに過ちは無かった。
「え?鉄平くんと咲耶?…あなた達まさか……」
頬に手を当て顔を赤らめてイヤンイヤンと首を振る母さん。一体何を想像しているんですかねぇ。
「鉄平おまえ!ついにやったのか!」
親父、あんたその言葉はなんだ。
「咲耶、まだ言ってないのか?」
「……うん」
だからやめなさいって、変な誤解を生むから。
「ま、まさか!こど・・」
「はい待ったー!!昨日ダンジョンで咲耶がスキルを手に入れたんだよ、それがちょっと特殊なやつだったんだ」
「特殊ってどういうこと?」
かあさんがコロリと様子を変えて訊ねてくる。かあさんはダンジョンの事には興味津々のご様子。
「それは咲耶から」
「うん、回復魔法を授かりました」
「なんだって!」
親父が驚きの声を上げる。回復魔法は格別に希少というわけでは無いらしいが、一般生活でも有用なので需要がとても高い。引っ張りだこなんて物ではなく、誘拐を恐れて大組織に属して働く人も多いという。
「それで、どの程度の力かは試したの?」
「それはまだ」
「じゃあちょっと試してみましょう」
「え?」
かあさんは自然な動きでシンクの前に立ち、包丁で自分の腕を切った。
「静香さま!?」
親父が叫んでいるがかあさんは笑顔で平然としている。さま?
「ほら、試してみて。薄く切っただけだから大丈夫よ、駄目ならポーションで綺麗に治るから」
「はい」
咲耶が真剣な顔で向き合い、両方の手のひらで母さんの腕を包む。隙間から薄く光が漏れ、手を離したら傷は無くなり血の跡すらなかった。すっげ。
「初めてでこれは凄いんじゃないかしら。以前に聞いた話だと最初は擦り傷を治せるくらいだったわよ?」
「へー、じゃあ咲耶は魔法医者で将来安泰だな」
優秀な妹で鼻が高い。
「だめよ。鉄平くん、咲耶をよろしくね」
よろしくとは?まさか本気で変な仲を疑ってるわけじゃないよね?
「母?」
「半端な能力の回復魔法使いは狙われるのよ、危険だわ。鉄平くんが咲耶に覚えさせたんだから、責任取ってくれるわよね?」
「せ、責任というと?」
「鉄平くんは探索者になるんでしょ?咲耶は役に立つわよ!」
バチリとウィンクをされてしまった。うーん、いいんだろうか。
「そ、それは…しかし……」
親父は言葉も無いようで。
「母、それは名案。兄、これからよろしく」
翌日。
「おはようセリナ」
「おはよ鉄平」
「おはようございます、姫川様」
………、なんだか変な空気だな。咲耶はこれまで俺とは時間をずらして登校していたのに、今日は一緒に出てきた。
「おはよう咲耶ちゃん、久しぶりね。お姉ちゃんだと思って気軽に接してもらっていいのよ?お隣さんだしね」
「ありがとうございます。ですが姫川様は先輩ですので」
「そう」
「はい」
てくてくてく、何なのこの空気。君たち仲悪かったの?俺は首を突っ込む勇気はないぞ。
「姫川様、わたくし、昨日兄と共にダンジョンに行って回復魔法に目覚めたのです」
「え!?」
「お、おい、それは言わないようにって決めただろ」
「姫川様にはお伝えした方が良いと思いまして。これからは兄と共に精進してまいります。」
「………」
済ました顔の咲耶、能面の様なセリナ、どちらも美人なので無駄に迫力がある。
そんなに嫌いあってたの?咲耶が能力でマウント取ったかんじ?そういうの良くないって思うよ。言わないけど。
「あ、玲司ー!」
俺は玲司を見つけて笑顔で駆け寄っていった。
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