正体はお化け……?

kao

第1話 るみ視点

 深夜1時。

 残業で遅くなった私は誰もいない夜道を歩いていた。

 まさかこんなに遅くまで残業することになるとは。社畜……辛い。

 一人で歩く道はやけに静かで不気味だった。

 家の近くの道は人気ひとけのない道を通らなければならない。いつもの時間ならチラホラと人通りはあるため、ここまで不気味に思ったことは無かった。

 いけないと分かっているのに、こういう時に限って怖い想像をしてしまう。たとえば誰かに付けられてる……とか。

 そんな想像をしていただろうか、私以外の足音が聞こえる気がして足を止めた。

 ピタッ。とっとっと。

 まさか……と思いながらも私は早足で歩く。

 とっとっと。とっとっと。

 私に合わせて後ろにいる誰かも早足で歩いていく。気のせいなんかじゃない。私以外の足音が聞こえる。

 恐る恐るゆっくりと振り返った……しかし誰もいない。

 嫌な想像が浮かんで首を振る。考えるな考えるな。考えたら余計に怖くなってしまう。

 とっとっと。足音が近づいている。

 このままではダメだ。逃げなきゃ逃げなきゃ……!

 そう思った瞬間、肩を掴まれる。

「きゃっ」

 恐怖で動けない。私はへなへなとその場にしゃがみこんでしまう。

 ああもうだめだ……お化けに殺されちゃうんだ。

 そう絶望しかけたとき、掴まれた肩の方からよく知ってる声がした。

「大丈夫!?」

 ゆっくりと顔を上げると、見知った顔が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「え、まいちゃん……?」

「そうだけど」

「ま、舞ちゃぁぁぁん!!」

 私は安堵し、舞ちゃんに抱きついた。

「こ、怖かった」

 舞ちゃんはよしよしと私の頭を撫でてくれ、落ち着くまで待ってくれた。

 数分後――ようやく落ち着いた私は自力で立てるようになる。

「さっきの足音って舞ちゃん?」

「そうそう。帰りが遅いから心配になって」

「もう! 声かけてよ!! お化けかと思ったじゃん」

「はははっお化けって」

 舞ちゃんは私の言葉でお腹を抱えて笑っている。

 大人になってもお化けが怖いのそんなにおかしい? 私は本気で怖かったのに……。

 むっとした表情でいると、まいちゃんは優しい表情で頭をぽんと撫でてくる。

「まったく……呼んでくれたらすぐ迎えにきたのに」

「舞ちゃんに迷惑かけたくなくて……」

「暇してるんだから、こういう時くらい頼りなって」

「そうだよね、舞ちゃんニートだもんね」

「おい、ニートいうな」

 舞ちゃんと私は一緒に住んでいる。だから呼べば本当に来てくれただろう。舞ちゃんは優しいからね。

 でもこんな人気ひとけのない夜道に女の子の舞ちゃんを呼び出すのは気が引けた。大事な恋人に何かあったら大変だし。

 このまま一緒に帰る気だったけど、その計画はまいちゃんの言葉によって崩される。

「あ、そうだ。出たついでにちょっと寄るところあるから、るみは先に帰ってて」

「えぇ……一緒に帰ろうよ」

「ここ曲がって一本道でしょ? 見てきたけどこの辺はお化けなんていなし、一人で帰れるでしょ」

「でも……」

「大丈夫大丈夫、なにかあったらすぐ駆けつけるし」

「分かった……すぐ帰ってきてね?」

 舞ちゃんは仕方ないなぁって表情で頭を撫でてくる。

 私は舞ちゃんに頭を撫でてもらうことが好きだった。

 社会人になってしっかりしようと思っても、舞ちゃんの前ではつい甘えてしまう。この関係は十年前から変わらないまま。

 私だってもう大人なのだ。甘えるだけじゃなく、舞ちゃんに甘えてもらうためにしっかりしようと思うと心に決める。

 けれど今はまだ、この心地さに浸っていたい。

 舞ちゃんの手は冷たいけど、私の心を温めてくれた。

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