第32話 桐谷家の秘密

 お母さんが諜報員という話は初めて聞いた。

 しかし、本条さんが異世界帰り、ってことはお母さんも?

「お母さんって異世界から来たの?」

「そうよ。ちなみに蜜柑も異世界とこっちを行ったり来たりしているわ」

「その主な任務は文化の交流……ですね?」

 本条さんが確認するように訊ねる。

「あー。そこまで分かっているのね……」

 もう隠すこともないかのように肩をすくめるお母さん。

「いい? 友昭」

 お母さんがこちらに向き直り、真剣な眼差しを向けてくる。

「母さんも、蜜柑も、元々は魔王幹部からきた間者、スパイだった。勇者を代表とする純粋種の、ね」

「え……」

「そこで最高の魔王を生み出す研究がされていて、初代勇者の血肉をわけたクローン技術を応用して友昭を作った研究者がいた」

「ぼ、僕の本当の両親は?」

「その研究者が本当の親かもね。でも、母さんはあんたを本当の息子と思って育てたわ」

「うん。それは……うん……」

 正直、戸惑いが大きい。

 僕を守っていたものが崩れていくかのような失望感。

 自分の価値が揺らぐような圧迫感。

「母さんは研究者から引き離し、何もかも捨てて異世界で暮らすことにしたの」

 そうだったのか。

「娘である蜜柑を文化交流のために異世界に派遣しているのは、あちらからの暗殺者を防ぐためよ。役立つって証明しているの」

 いっぺんに言われて頭がパンクしそうになる。

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