転生少女の才能2

 ホッとしたのも束の間、また周りが騒がしくなった。

「おい、何だ、この蛇」

「きゃあっ!」

「誰か噛まれたぞ!医者を呼べ!!」

 いつの間にか、多数の蛇が地面を這っていた。


「薬だけじゃ追いつかないな……」

 フレデリクが、焦った顔で呟いた。アニエスは、しばし考え込んだ後、ロックの方に顔を向けた。

「ロック、ナディアがどうやって魔物と闘っていたかわかるっすか?」

「それも本に書いてあったよ。253ページから」


 アニエスは、本を捲り該当のページを見つけると、しばらくじっと見つめていた。そして、パタンと本を閉じると、エルネストに本を差し出した。

「エルネスト殿下、この本、預かっていて欲しいっす」

「うん、良いけど、何するつもり?」


 アニエスは答える事無く、どこから取り出したのか木刀を握り締めた。そして、蛇のいる方へと掛けて行く。

「え、アニエス!?」


 アニエスは、襲い掛かって来る蛇達を器用に避けながら、木刀で地面を削って円を描き始めた。倉庫で見た二種類のどちらとも違う魔法陣。それを見たロックが、目を見開いて呟いた。

「まさか……」


 アニエスは大きな魔法陣を描き終わると、魔法陣の外側に立った。そしてポケットに入れていたナイフと黒い石を取り出し、自分の腕を切り付けてまた魔法薬を作る。それを魔法陣に垂らすと、魔法陣から炎が立ち上がった。魔法陣の中にいた蛇が次々と灰になっていく。


「信じられない……血筋があるとはいえ、一度本を見ただけであの術が出来るようになるなんて……」

 ロックはそう言うと、口をポカンと開けたままアニエスを見つめるしかなかった。アニエスは、ロックよりもずっと魔術の才能があったのだ。

 アニエスはその後も数個同じ魔法陣を作って蛇を倒していった。


「……もう大丈夫っすかね」

 辺りを見渡したアニエスは、腕で額の汗を拭きながら言った。うっかり左腕で拭ったので、額に血が付いた。慌てて指で拭う。


 安心した所で、急に体がふらついた。

「アニエス!」

 エルネストが、アニエスの身体を抱くようにして支えた。

「ありがとうございます、エルネスト殿下……皆無事で良かった……」


 いつの間にかエルネストからロックの身柄を預けられたフレデリクが、アニエスに言った。

「アニエス、ありがとう。被害が最小限で済んだのは、君のおかげだ。この国の第一王子として、礼を言わせてもらう」

「……礼には及ばないっす……」


 そう言ってアニエスが微笑んだ時、不穏な気配がした。見ると、一際大きい蛇がアニエスに襲い掛かろうとしていた。まだ生き残っていたのか。

 アニエスは避けようとしたが、出血のし過ぎで身体が動かない。蛇が飛びかかる瞬間、エルネストがアニエスを庇うように抱き着いた。


「エルネスト殿下!!」

 蛇はエルネストの右腕に噛みついたが、次の瞬間には騎士団に串刺しにされていた。エルネストの腕から、微かに出血しているのがわかる。


「殿下、大丈夫っすか!今解毒剤を飲ませるっす!!」

「……ありがとう。君を守る事が出来て、良かった……」

 力なく笑うと、エルネストは地面に倒れた。

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