転生少女と文化祭1

「本当に驚いたわ。まさか、アニエスがマリユス・ヴィトリーの娘だなんて」

 ブリジットが言った。ルミ王国から帰還した数日後、アニエス、ブリジット、エルネスト、フレデリクの四人は、ルヴィエ邸のテラスでお茶をしていた。


「フレデリク様もアニエスの出自を知っていたの?」

 ブリジットがフレデリクに聞いた。

「ああ、王族と一部の高位貴族は知っている。今まで黙っていて悪かったな」

「まあ、言えない理由もわかるし、別にいいわよ。誰の子でも、アニエスはアニエスだもの」

やはり、ブリジットはアニエスの出自を知っても態度を変えない。アニエスは、穏やかな顔で微笑んだ。


「……それで、魔術の継承者とやらの事についてはまだわからないの?」

 ブリジットが聞くと、アニエスは紅茶を一口飲んで言った。

「はい、全然。……それで、とりあえず別の面からアプローチする事にしたっす」

「別の面?」

「はい。魔物を生み出している者がわからないなら、せめて少ない戦力で魔物を倒す方法がわからないかと思いまして。今図書室の書庫で、ナディア・フーリエについて調べているっす」

「ああ、ナディア・フーリエはマリユスと並ぶ実力の大魔術師ですものね」


 書庫でナディア・フーリエについて調べている内に、ある事実を知った。彼女は、マリユスと同じ一族なのだ。正確には、マリユスの親とナディアの親が従兄弟同士との事だった。ゲームの世界では、ナディア・フーリエは銀髪に緑色の瞳をしていたので、全く気付かなかった。攻略本にも、二人が同じ一族だなんて載っていなかった。


「……まだ、ナディアが使っていた魔術については何もわからないっす。引き続き、調べていくつもりっす」


 しばらく沈黙が続いた後、フレデリクが話題を変えた。

「そう言えば、もうすぐ学園の文化祭だな」

 アニエス達が通う学園では、年に一度学園祭がある。劇や楽器の演奏等、様々な出し物がある。


「エルネスト達のクラスは、何をするんだ?」

「男子は剣の模擬戦、女子は薬草を使ったクッキーの販売だよ」

「私のクラスは、劇を上演するのよ。悲恋物で、私はヒロインを虐める王女役」

 ブリジットは、ゲームの世界だけでなく、この劇でも悪役なのか。


「よく引き受けたな、そんな役」

 フレデリクが、紅茶を一口飲んで言った。

「王女様よ?悪役とはいえそんな威厳と品格のある役、私しか出来ないじゃない」

「……お前が良いならいいけど」

 フレデリクが、苦笑した。


 翌日、アニエスは図書室にいた。エルネストが学年主任に話を付けてくれたので、書庫の資料を漁り放題なのはありがたい。


「……今度は何を調べてるの?」

 座席で資料を読んでいると、ロックが話しかけてくる。

「ナディア・フーリエについて調べているっす。魔物を退治する方法を探しているっす」

「君、また魔物か何かに襲われたの?」

「いえ、ただ、私の周りの人達を守りたいと思っただけっす」

「ふうん……自分の為じゃなくて、周りの人達の為なんだね……」

 ロックは、しばらく無言になった後呟いた。


「そう言えば、聞いた?イネス先生、懲役一年位の実刑になりそうだよ」

「そうなんですね……」

イネスが犯罪者になってしまったのは残念だが、思ったより短い刑期になりそうで良かった。出所したら、またイネス先生と会いたいと思いながら、アニエスはまた資料に目を落とした。

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