転生少女と学園生活1
ある日の昼下がり、ルヴィエ邸の庭では、アニエスがげんなりした表情で木刀を握り、素振りをしていた。アニエスがエルネストと婚約してから、一か月以上経っていた。
エルネストは第二王子なのでアニエスが国母となる可能性は低いが、王族になる予定である事は確かなので、ある程度王族としての教育が必要だ。アニエスは数日前からブリジットと同じ学園に通い、教育を受けている。この国の歴史、地理、経済の仕組み、隣国の言語等、覚える事は沢山ある。
アニエスが参考書の内容を思い出しながら素振りをしていると、ブリジットがやって来た。
「アニエス、勉強とメイドの仕事の両立は大変じゃない?今日は仕事を休んでもいいのよ」
「大丈夫っす。もし大変だと思ったら、ちゃんと言うっす」
「……そう、ならいいけど」
ルヴィエ家には大変お世話になっている。仕事でその恩に報いたい。第二王子の婚約者が平民の上に、メイドとして仕事をしているなんて前代未聞だろうけれど。
「それでも、学園に通うとなると大変な事も沢山あるでしょうけど、私、アニエスと同じ学園に通えて嬉しいわ」
ブリジットが笑顔で言った。
確かに、ブリジットと同じ学園に通えて良かったと思う。アニエスは、微笑んで言った。
「そうっすね。私も、嬉しいっす」
次の日、アニエスはブリジットと共に学園に行き、教室へと向かった。女生徒は皆、青いブレザータイプの制服を着ている。廊下を歩いていると、相変わらず、すれ違う女生徒達の冷たい視線が嫌という程突き刺さった。平民が全女生徒の憧れであるエルネストと婚約したのだから当然だろう。
突然、アニエスが転んだ。誰かに足を引っかけられたのだ。アニエスは無言で立ち上がった。
「ちょっと、誰よ、アニエスの足を引っかけたのは!?」
前を歩いていたブリジットが怒った。当然、近くにいた女生徒は皆知らんふりを決め込んでいる。
「僕の大切な人を害しようとするなんて、許せないな」
そう言って現れたのは、エルネストだった。笑顔を張り付けているが、怒りのオーラがにじみ出ている。
エルネストは、何故かアニエスの腰に腕を回して抱き寄せると、顔を近付けて言った。
「大丈夫?アニエス」
「……はい、大丈夫っす」
女生徒達が、悲鳴を上げる。
「私とアニエスの学年が違うのが残念だけど、後は殿下にアニエスをお任せしますわ」
ブリジットが笑顔で言った。
「ああ、任せてくれ……そうだ、アニエス、今日も制服姿がかわいいね」
エルネストも、笑顔のまま言った。
教室で、アニエスは他の生徒と一緒に授業を受けていた。エルネストと同じクラスだが、アニエスは一番後ろの席で、エルネストとは席が離れている。
ふと前を見ると、一人の女生徒と目が合った。すごい目つきでアニエスを睨んでいる。彼女の名はコレット・ガイヤール。公爵家の娘で、本気でエルネストとの結婚を狙っていたらしい。美人と言える部類で、赤茶色の髪の毛を肩の辺りまで伸ばしている。
実は、廊下でアニエスの足を引っかけたのもこのコレットだ。アニエスはその事に気付いていたが、告げ口する程でもないと思い、黙っていた。学園に通い始めた日から小さな嫌がらせを受けていたが、いつまで続くのやらと思い、アニエスは溜息を吐いた。
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