木刀を愛用する転生少女は第二王子に溺愛される
ミクラ レイコ
転生少女と第二王子1
良く晴れた昼下がり、アニエス・マリエットは、メイド服を着たまま木刀を持って素振りをしていた。
ここは、アニエスが仕えるルヴィエ家の裏庭。アニエスが汗を流していると、一人の男性が現れた。
「やあ、アニエス。また素振りをしているの?」
そう言って笑顔で話しかけてきたのは、エルネスト・アベラール。現在十八歳で、この国、レーヴ王国の第二王子だ。
「エルネスト殿下、いらしてたんっすね。今日はどういったご用でしょうか?お嬢ならテラスにいるっすよ」
「いや、今日は、君に用があるんだ」
「え、私っすか?」
「うん、話があるから、一緒にテラスまで来てくれないかな」
「はあ……承知したっす」
二人でテラスへと歩きながら、エルネストはアニエスに話しかけた。
「君は本当に面白いね。木刀で素振りをする日課のあるメイドなんて、どこを探してもいないと思うよ」
「いい気晴らしになるっす。でも、殿下も変わってる方っす。こんな風変わりなメイドに普通に接して下さるんですから」
「僕は面白い物が好きだからね」
アニエスがこんな変わったメイドであるのには、理由がある。アニエスは、前世の記憶を持つ転生者だ。
前世のアニエスは、文明の発達した東洋で暮らしていた。バリバリの体育会系で、中学・高校と剣道部だった。なので、竹刀や木刀で素振りをすると良い気晴らしになるのだ。目上の人と話す時に語尾に「っす」を付ける癖も、前世からのものだ。
前世のアニエスは、大学に入学してすぐ交通事故で亡くなったらしい。八歳の時に前世の記憶を思い出した時は戸惑ったが、周りの人間に恵まれ、メイドとしてそれなりに幸せに暮らしている。ちなみに、前世の記憶を持っている事は誰にも言っていない。
そして、最近思い出した事がある。この世界は、前世のアニエスがプレイしていた乙女ゲーム『恋する乙女は世界を救う』の世界に似ているのだ。エルネストは、ゲームの攻略対象の一人だった。
テラスに着くと、そこにはウェーブがかった金髪を長く垂らした少女がいた。
「遅いわよ、二人共」
そう言葉を発した少女はブリジット・ルヴィエ。アニエスより一つ年下の十七歳。公爵家であるルヴィエ家の娘で、現在第一王子であるフレデリク・アベラールと婚約中である。
ブリジットは、ゲームではヒロインを虐める悪役令嬢。フレデリクルートで、ヒロインへの嫌がらせが発覚して国外追放となる。アニエスはゲームには出てこないが、そんなブリジットの専属メイドだ。
「申し訳なかったっす。今後は、お嬢を待たせないよう気を付けるっす」
「そ、そんなに真面目に謝らなくていいのよ。あなたの淹れるおいしいお茶を、早く飲みたかっただけなんだから……」
ブリジットは、言いにくそうにしながらも素直に言った。現在は少し穏やかになっているが、彼女は元々我儘で他人にきつく当たるタイプだった。しかしゲームと違い、根は優しい少女だとアニエスは知っている。
貴族の中では珍しい事だが、アニエスはメイドにも関わらずいつもプライベートでブリジットとお茶と共にしている。なので、今日も三人分のお茶を淹れると、ブリジットやエルネストとテーブルを囲んだ。
「それで、話というのは何でしょう?エルネスト殿下」
「うん、単刀直入に言うね。アニエス、君に……僕の婚約者になって欲しいんだ」
「……は?」
アニエスは、耳を疑った。
「……色々事情があってね」
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