シークレット・ステップ
釣ール
人ならざるものによる液状化現象
AIや新技術の批判はどの時代にも存在する。
人間は霊長類のなかでも中途半端な存在なのかもしれないと人間自身が気付き始めているかもしれない。
決して新技術に奪われることはない。
しかしインターネットの発達には追いつけなかった。
結果利用することが出来てはいるがこれでは共存とは言えない。
「
今回こそはAI団体を潰してくれよ。」
「はい。ただし私は人間。
相手は現代社会に浸透しております。
しかもとっくの昔に。」
指示者は優秀なファイターではあるが科学者でもあり、そして他人頼みである。
もっともAIやその他の事情、技術によって出現した
もっと正確に言えば化けていた。
更に人間への支配や攻撃は基本的に『人間が起こすトラブル』の
その活動範囲を察知するまでに指示者・
そこに所属するメインファイター達の正体を知っているのは
そこでファイター経験と科学者的特権を持つ人間は少なく、不利だった。
「確かにもう手遅れかもしれない。恐らく彼らは何も主張することなく人間として指示を得るだろう。
AI生物であるあの団体のファイター達は他で実害を相手側の乱闘騒ぎでごまかすことで隠した。
密告者がいなかったら俺も気が付くことがなかったと思うと心苦しい。
だがこの被害に対しては法も何もかも追いついていない。」
「時間はかかりますが対応
表でも裏でも決して目立つことはせず、水面下で適応しているのは何もAI生物ファイターだけではない。
このディストピアに安全などない。
だから霞は生きることで証明するのだ。
*
某関東圏。
本業や副業として様々な道を選んでは現実に打ちのめされて通販で漢方薬を買う毎日に落ち着いた。
結果、全て理った。
この先賃金が低くなるのにあれだけ並べられても絶望しかない仕事ばかりなら格闘競技者でいる
方がよほど身の丈にあっていた。
SNSで叩かれても、試合で一度目立って歩いている時に誰かに狙われても普段とのギャップ差で
あしらっていた。
嫌われる勇気を護衛術として上手く実践してみることで消費的な本から得た知識も知恵に変わる。
この先は頭が弱い人間に向けた商品ばかりが生き残る。
都会に産まれて良かった。
とはいっても人による。
体力に自信があるか、徹底的に無駄を減らしてSNSで自慢されている幸せから抜けられて自由になった人間なら地方でもあんな紙切れに騙されず生きていけるだろう。
それら現実から抜けるために
そして水を愛するものとして海へ行ける肉体を極めることも目標にしてる。
『進学できる金もないし、夢もない。この先働くだけの道しかないならそれに従うだけ。
成り立つならそれでいい。』
高校卒業時に友が野球部時代に語っていた進路を思い出した。
春日は何も言えず、そのまま今の道へ。
元々歩いていた道だから彼にアドバイスや励ましを言いたくなかった。
それが良かったのかは分からない。
十代後半も過ぎれば悩みに多く触れ合うことが多い。
頭でわかっていても誰かを見下してしまうし、似た人間を見れば安心する。
怖すぎる。
それも全ては人間同士が何度も複雑化させた。
俺は何もしてないのに。
「よお!大人しい強者さん。」
はあ。
今はあまり聞きたくない人の登場だ。
「春日さんスポーツアニメキャラばりに真面目なトレーニングしてて思わず笑ってしまったよ。ここで俺が鍛えてること忘れてるだろ?」
いつの間にか一通りが少ない時間帯までランニングしていたのか。
彼はドンド・アドミニス。
西洋人の留学生だ。
元々は外国人観光客の一人だったが人付き合いに疲れていて、規制が厳しく治安が悪い母国から距離をとるために観光がてら移住先を決めていたところを一人居酒屋で過ごしていた春日に気さくに話しかけてきたお人好しだった。
格闘技に金銭を賭けることが好きなファンで、チェックされていたのだ。
だが今はアドミニスも
「お前には関係ない事だ。」
「そんな悲しいこと言うなよ。未だにお前達は西洋人のイメージが古すぎる。
そりゃ日本のアニメ作品とか歴史は好きだけど色々と距離をとる努力をこっちもしてるんだよ。
銃やら人種差別やら体力とIT?どこの国も固定概念に縛られて鎖国してりゃ幸せそうに見えるだけ。
ほら。居酒屋の時にも話したろ?
隣の芝生は青いって言葉から俺は日本語を勉強し、他の国の言語も勉強中だ。
これくらい無料にしてくれよって俺でさえ思う。
ほら。
悩みの多さなら
相変わらずよく喋る。
春日は自分にない彼のコミュニケーションに救われていることを実感する。
今回は。
いつもは無意識なんだろうけれど格闘技術や興行に批判したり、楽しめないストレスをぶつけられてたまたま同世代だから許してる彼の悪い部分を一介のファンであるからこそ春日は見逃している。
共にトレーニングを終えて息抜きにチェーン店で話しているとドンドからある話が舞い込んできた。
「突然なんだけど、AIファイターって実在するのか?」
「まさか。せいぜいイラストが作れたりChatなんたらと質問するくらいだろ?
その前にも話しかけられるAIもあるし。
それ以上の技術はお前ら西洋人の
彼には悪いが質問に上手く答えられなかった。
AIファイターの存在はたまに同世代の選手間で話題になる。
といっても妄想でしかない。
話題になってないってことは明るみになってないか、ガセ話だ。
だが今の時代でそう決めつけることは難しいかもしれない。
春日は自分の青臭さに恥ずかしさと好奇心があることに安心感を覚える。
「お前もめっちゃ喋るじゃないか。
もちろんこのままじゃ俺がおかしい人間に思われるからこのニュースを翻訳する。
某トップファイターが引退したきっかけの英文を俺が翻訳した。
『あの俊敏なカウンターとボディへの弱さに違和感があった。素人なら人間だとお前ほどの演技力。あれはさながらフィクションの格闘家だ。』
これだけならただのインタビューだ。
しかし勝者の情報は顔写真のみ。
その顔をよく見てみろ。」
加工してるだけだろ?と言いたかったがそんな純粋な段階をドンドはとっくに卒業している。
写真の人物に違和感はそこまでなかった。
AI生成も課金をすれば写実的なリアルを生み出せる。
バグも無料版より改良されて。
お陰で全裸美女の絵はたった一ヶ月で見れなくなってしまったが。
それは置いておいて確かに言われてみれば口の当たりと目がおかしい。
「これが整形趣味の人間じゃなければ優秀なファイターじゃないか。」
ドンドは天然の銀色髪をかき分け俺の勘違いか何かかなあと疑いは晴れぬまま飯を食らう。
AIファイターか…ん?写真の選手が所属しているジム名を思い出した。
『UNKNOWN ANTIBURST』
名前のセンスはともかくそれぞれ国籍も何もかも違う顔をしているのに明かされていない。
そもそもこの記事でも敗者インタビューだけだ。
あちらの国の報道に問題があるのかもしれないが確か日本の興行にもこのジムから来た選手と春日の同門が試合をしている。
そこではこちら側が勝利した。
悔しそうな演技も挨拶も違和感なく海外ファイターらしくやっていた。
考えすぎか。
ドンドも何だかんだ親しみやすい疑問をいだくものだと春日は笑った。
「食って忘れよう。今だけだこんなくだらなくて興味深い会話が出来るのも。」
「ま、それもそうか。ははっ。ずっと暗いご時世だったから変になったのかもしれない。悪かった。」
こんな
適当に話して、気をまぎらわせよう。
二人は夢中である分の代金で食事を続けた。
*
-霞VS
『UNKNOWN ANTIBURST』
ここに所属している格闘家達が全世界でそつなく実績をあげている。
格闘技の情報は国によって変わっていて、メディアがメディアだからか公平さに欠けているもののプロが書く情報は馬鹿にできなかった。
どうせ『UNKNOWN ANTIBURST』の情報はないと思っていたから詳細は明かされていないとはいえちゃんとしたライターがこのジムの選手について特集らしきものが組まれていた。
しかし
「要領のいい。」
ボディの弱さと反応の良さ。
それだけなら判断はつかない。
それでも資料の一部とこの特集のみそこに
どの相手と戦って、所属選手全てが同じ弱点、強さを持つものだろうか?
顔も国籍も性別も違っていて、何故こうも。
更に言えば『UNKNOWNANTIBURST』は全世界各地にある。
プロモーションはそこそこなのは歴史によるものなのかは分からない。
コンプラを守るためにしては会員を増やさないでやっていけるなんてありえない。
だからこの裏路地にたどり着いた。
ここは
普通に考えれば行き止まりの場所だがここにジムがあるらしい。
調べるにはキーが必要だ。
しかし霞は違和感をおぼえる。
いや、ここには!
「へえ。ここを関係者以外の人間が突き止めるなんてやるじゃないか。」
隙を狙って気絶させようとしていたのかここのジム生が霞を攻撃してきた。
しかも素手で。
「武器か何も使わずに警備か。
舐めているな?」
「武士道だよ。そもそも試合以外でも装備なんか俺たちに必要ないしなあ!」
前蹴りを霞は避け、さきほどジム生の左腕から食らった攻撃から切り傷を受けた。
刃物はない。
プロの試合では拳や脚で皮膚は切れる!
逆に言えばジム生はステゴロでしか戦っていない。
「試合では近代格闘技を使い、普段は道具を使わず戦える。やっぱり人間じゃない。
お前達は!」
霞は
「結構目立つ生活はしてないのに突き止める奴がいることにも驚いたが現役ファイター?それとも
「だからこそ大人しくそのまま生活してりゃよかったのに、さぁぁぁぁ!」
近くにあったゴミを無傷で壊したジム生の攻撃を交わしてボディを攻撃する霞。
「てめえ!まさかあんな情報を信じて攻撃してるのか?」
「まさか。」
「へ、へへっ。そんな攻撃…俺にしか…つうじ…な…」
ジム生は倒れ、液状化して消えた。
「やはりジムには入れないか。」
まさか液状化するとは思わなかった。
AI生命体に時間を与えすぎたかもしれない。
周囲に誰かいないか確認をし、その場を撤退しようとすると気配がしたので主へ霞は真っ直ぐ向かう。
「い、いや、俺たちは…その。」
筋肉質の西洋人男性恐らく二十代前半、そして霞の攻撃に気がついて避けたプロファイター特有の気配探知。
そうか。
立ち技ファイター…キックボクサーか。
「見られたからと言って殺しはしない。だが巻き込ませてもらう。
それがお前達のリスクだ。」
霞は覚悟を決めた。
隠された生き方の公開を。
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