第6話 引き始めから当たりが出れば世話はない~イマイチ冴えない男子たち~

 次に現れたのは男性だった。


「子爵の息子で、ロバートと言います。祝福は手のひらから小さな火が出ます」


 そう言って、蝋燭の灯のようなものを出して見せる。


「火種にはとても便利だね。それで何があったの?」


「親戚のマリアベルに相談を持ち掛けられたんですが、彼女とメイドを庇ったところ、アンナ様を殺した罪で捕らえられて」


 まるで次々に囚人の席が入れ替わるように別の誰かが送られて来る。あちらの状況も探ると、どうにかパーティの最中らしい。

 過去と現在、双方で緩やかに時間が進行している。


「アンナをいじめたりはしなかった?」


「していません。興味もありませんでしたし」


 青色。やはり、嘘は言っていない。

 アンナの話からは、彼女が周り中から責め立てられていたような印象を受けた。だけど、現実とはこんなものかもしれない。  

 

 自分の身近な範囲における、数人の言葉や悪意。そして、多くは関心すら持たれない。牢番の僕の存在を誰もが気に留めないように。


 だからこそ、彼女を救えるのは自分だけだとより強く理解する。


「男爵令嬢のアンナを助けろ。それしか助かる道はない」

 

 相手が男性に代わったことでこちらも強気に出る。

 話は一応聞いてくれた。


「どこまでできるかはちょっと、自信がないです」


 貴族と言えどまだ年若い。絶対的な権力を持たない。

 だからこそ罪を着せられる。味方としてはあまりに頼りない。しかし、目の前の相手に希望を託し続けるしかないのだ。


 次に現れたのも男性だ。


「フィリップと言います。ロバート様から頼まれて彼を含めて数名の無実を証言したのですが、何故だか僕がアンナ様を殺した首謀者と言う話になってしまい。家は男爵家で身分は低いので助けてもらうこともできず」


「身分下がってるし! 君ちょっと偉い人と知り合いとかじゃない!?」


 状況が改善するばかりか拗れるばかりだ。


「無茶言わないでください。だったらこんな目に遭っていませんよ!」


 フィリップは鉄格子を両手で掴んで揺らす。

 少々八つ当たり気味に叫んでしまった。


「ごめん。こっちも困ってて、大事な人の生きるか死ぬかなんだ」


「僕もですよ。学園では子爵家のロドリグ様に絡まれて子分のように扱われるし、ロクな目に遭わない。あぁ、なんで誰かを庇った僕がこんな目に。女神様もそれならいっそ彼を牢に入れてくれればいいのに。あぁ、不幸だ。不幸すぎる」


 知らない名前を出されても同情しようもない。

 自分のやったことが巡り巡って彼に降り注ぐのは申し訳なく思う。

 彼からしたら、何が起こっているかわからないのだろう。


「アンナのことは前から知ってる? 嫌がらせとかはしてない?」


「名前は知っていますね。ただ男爵家同志と言っても縁が薄ければ話すこともないですよ。嫌がらせということなら、むしろ僕がいじめられてます。立場が弱いって辛い。逆らうと何をされるかわからないし。やはり同性の方が距離が近い分、嫌な事をされやすい気がします」


 青色。どちらかと言えばアンナと似た境遇か。

 同情はするが、気を遣う余裕もない。


「ちなみに祝福は?」


「相手に触れると動物でも人間でも性別がわかります。あなたは雄」


「知ってるよ! 何に使うのそれ」


「鶏の雛を分けたり、意外と便利ですよ」


 それなりに自慢なのかこんな状況でも誇らしげだ。

 多少親しみは湧くが、この場でどうすると言う話である。


「いいから話を聞いてくれ」


 現れるのは身分が決して高くない者ばかり。

 当然ながら、生贄の子羊とはそのような者が選ばれるらしい。


 似たような説明を繰り返しては過去に囚人を送り込む。

 もはや返還と言って良い。

 囚人を次々入れ替える試行錯誤。

 あちらでは一体何が起こっているのだろう。

 誰かを庇えば誰かが疑われ、地獄めいた状況だけが伝えられる。


 冷静に細部を確認する余力もどんどん無くなっていく。なにせ時間がない。精査するだけの余裕もない。

 これはもう、大雑把に行くより他はない。


次に出たのはガラの悪い男性だった。


「ロドリグだ。アンナって奴は名前だけは噂で知ってるが、面識なんてねぇ」


 どうもフィリップに学園で絡んでいた子爵家の令息らしい。どうやったのかは知らないが上手い具合に嫌いな奴に罪を着せたらしい。


「ちくしょう。俺をこんな目に遭わせやがって、アイツラ全員ぶち殺してやる」


 話を詳しく聞いてみると、フィリップやロバートがどうのとぼやく。

 これまで現れた者たちが口裏を合わせ、彼に容疑が向かうよう仕向けたらしい。

 やるものだ。この場においては、その悪賢さに少し感心する。

 彼を戻したら大ごとになりそうではあるが、ここに居てもらっても役には立たない。


「諸悪の根源は王太子殿下だよ。殺すならそいつにして」


「殺せるものなら殺すけど、こっちがヤバいじゃん」


 そこそこ冷静で困った。


「弱い立場の相手をいじめるのは良くないよ。貴族は男爵家に何か恨みでもあるの」


「んなもんねぇよ。多くはただの人間関係の延長だろ。俺だって別にフィリップを殴る蹴るとかはしてねぇぞ」


「でも相手にとっては嫌なこともあるでしょ」


「だからと言って牢にぶち込まれるいわれはないだろが。文句あるなら直接言えや。こっちは別に身分でどうこうとまでは言ってねぇ」


 青色。嘘つきではない。

 粗暴ではあるが、悪辣とまでは言えないか。

 ただこう言う相手に絡まれるのも面倒ではあるだろうと思える。


「祝福は? 何か相手を襲撃とかできそうなものとか」


 一応聞いてみた。

 彼は手のひらを擦り合わせると、中から光る蝶々が出て来た。


「ガラの悪さに反して可愛らしい」


「うるせぇ。知ってるよ」


 とにかくこちらに都合の良い話をでっちあげて過去に戻した。

 向こうが大変なことになりそうだが仕方があるまい。

 誰が誰を陥れるなど計算のしようがない。

 しかし、それこそが今必要なことだと徐々に気づかされていくことになる。

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