マッチングのタネ相談所へようこそ!
Haika(ハイカ)
お2人の生まれてくる子がどんな姿か、魔法でシミュレーション致します!
ここは、様々な種族が住まうオリエンタル・ワンダーランド。
その中の王都、法政ギルド内にある「マッチングのタネ相談所」。
現代異世界から転移してきた少年・ルカが運営する、白を基調とした広々としたスペース。壁には所内の案内、コース、料金表などが掲載されたポスターが貼られており、その随所にフラワーアレンジメントが装飾されている、万人向けの温かな作りであった。
「生まれてくる子供の姿が知りたい、ですか」
ルカが、早速窓口へやってきた一組のハーフリングカップルの相談内容に耳を傾けた。
ハーフリングの2人は若き新婚で、一見幸せそうな雰囲気が漂っているが…
「僕達は、両家の奨めによるいとこ婚でして。ただ噂では、近親者の間に生まれた子供は奇形になりやすいと聞いていたので、将来生まれてくる自分達の子供もそうなったらどうしようって、ふと心配になったんですよ」
「うん… 私は、子供が何かしら不自由があっても大切に育てていく考えだけど、それは結局親のエゴでしかないから。自分達はよくても、子供にとって生きにくい体のままでいさせるのは、逆に親としてどうなんだろうと思ったんです」
とのこと。
するとルカが、テーブルに肘をのせる要領で、2人に確認のクロージングを行う。
「なるほど。2人とも、将来生まれてくるお子さんの事を、真剣に考えていらっしゃるんですね」
「もちろんですとも! 本当は、こんな偏見や差別があってはならないのは分かっているけど、僕達がそれをいった所で、きっと向こうの集落の連中は聞く耳を持ちやしませんよ」
「そうね。あの南部にあるコロニーの住民達には、何を言っても無駄な気がしますわ。実はここへ来るまでの間に、彼とその話をしていたんです。でも、願わくば子供が欲しい。だから、ここで一度確かめた方がいいのではないかと思ったんです」
「分かりました。マッチングのタネ、引き受けましょう!
では実際の発芽に移る前に幾つか注意点がございますので、こちらの規約と同意書にざっと目を通してもらって、確認と同意ができたら連名でのサインと、マッチング料1人500円の支払いをお願いします。毛髪は、その後に頂きますね」
そういって、ルカがサイドテーブルの引き出しからA4サイズの紙を2枚、ハーフリングカップルの前へと差し出した。
そこには数行ほど、箇条書きで規約や注意点が記されており、最下部に日付と署名の欄が設けられている。肝心の内容は長すぎるので割愛だが、カップルは記された内容を言われた通りざっと目を通し、肩すくめにペンを持ってすらすらとサインをしていった。
「こんなに沢山、約束事を書かなくたって、僕達そんな疑わしい事はしませんよ。まぁでも、一度決めた事だし、サインはしておきますね」
「あの… 規約の中に『責任』とか『審判』とか、そんな事まで書かれているけど、そこまでしなきゃいけない様なトラブルでもあったんですか?」
と、ルカに質問するカップル。ルカは困り笑顔でこう説明した。
「いいえ。今日までその様なトラブルは発生していませんが、すみません。
「そうか。しかし昔からっていうのは、その… もしかしてチキュウ? ニッポン? とかいう異世界での経験が、基になっているんですかね? ここの女王様と、同じ出身という」
「まぁ、そんな所ですね。
僕の元きた世界は生活上、とても便利なことばかりですが、その分デメリットもありまして。ここは法政ギルドの管轄で運営しているので、幸いにもその程度の規約数で済んでいますが、これが元きた世界の基準だとそれより10倍、いや100倍もの箇条を書くのが普通なんですよ」
「えぇ!? そんなに!?」
「はい。元きた世界は過去の積み重ねで、今の社会構造が出来上がっています。なので1つの事業を行うにしても他業界からのスポンサー、利権、宣伝媒体、そして中間マージン。そういった様々な企業との繋がりを持つことになります。そうなると万一、何かしらトラブルがあった際に甲乙の口約束だけで済ませてしまうと、後々回りがうるさいんですよね~」
「はぁー。よく分からないけど、凄く複雑なんだな」
「なんだか、生き辛そうな世界ですね」
文明レベルが中世~近世のこの異世界で、先住民たちにそこまで言わしめるとは、相当ではないか。ルカは内心そう思ったけど、このままでは業務が進まないのでこう切り返した。
「さて、本題に戻りましょう!
書面一式と、マッチング料、確かに頂きました。ではお手数ですが、お2人の毛髪を3本ずつ、引っこ抜かせて頂きますね」
「あぁ、はいはい… ふぅ。緊張するなぁ」
ルカは立ち上がった。
カップルも「遂にきたか」と言わんばかり、恐る恐るルカへと自分達の頭部を差し出す。ルカは別の部屋にいるギルドメンバーのドワーフを2人手招きし、同時にカップル2人の毛髪を素手で引っこ抜く体勢に入った。
「ちょっとチクっとしますよ~」
そういって、慣れた手つきで2人の毛根部分を軽く抑え、もう片方の手で毛髪を3本、一気にスポッと抜いてみせたのだ。
カップルはその瞬間、ともに「あれ?」というような顔をする。
思っていたほど、痛くも痒くも無かったのだ。ルカは念の為にあの発言をしたんだろうけど、それにしては寧ろサービスが過剰なくらい、痛みのない施術に慣れている。
「はい、これ。こっちが旦那様ので、もう一つは奥様の毛髪ね。1本ずつ保管しといて」
「「合点承知!」」
受け皿を持ったドワーフ達に、そういって抜いた毛髪のうちの1本ずつを渡すルカ。
こうしてあとの2本、手に持った状態で準備が整うと、ルカは窓口から少し開きのある幼児用プレイルームへと移動したのであった。カップルもそれについていく。
「では、見ていてください」
セーフゲート越しに設けられた幼児用プレイルームは辺り一面、小さい子がどこへ転んでも大丈夫なように、突起した部分がクッションになっている。
そんなカラフルで拾い空間に自分達が集まり、ゲートがちゃんと閉まっている事を確認すると、ルカは忍者が取るようなポーズで魔法発動に入った。
「
神経を集中させ、眉間に皺を寄せて詠唱するルカ。
するとどうだろう?
彼の前方1m先の床から、ニョキニョキと白色の細いツルが、無数に伸びてきたではないか。そこからの変化は劇的なものであった。
ニョキニョキニョキ~!!
「「おぉー」」
カップルがその光景に目を奪われる。
白い植物のツルが、信じられない程のスピードでくねくねと伸び、そこから更に蕾や穂が芽吹いてきたのだ。そしてそれらが成長し、カサブランカの花弁がヒラヒラ落ちると…
にょきにょきにょき… ぽとっ
花托が肥大し、種子を持った
「だだだ、だぁ~」
少し大きくなった赤ちゃんである。
人間の基準でいうと2歳になったばかりだろうか。その子はさやから顔を覗かせてすぐ、全身に白い草の衣服をまとった状態で、ヨチヨチと歩き始めたのであった。
「おー! 生まれたぁ!!」
「みて! 私達の子供よ!? あぁ、なんて可愛い子なの~」
カップルが、自分達の毛髪を元に生まれた子供の存在に目を輝かせている。
これが、ルカの発現できる魔法だ。彼は2人から貰った毛髪を両手で挟む形で、先の「にんにん」ポーズを唱えると、その2人の子どもをカサブランカ経由で作れるのである。
ルカはやりきったという表情で、額の汗を拭いながらカップルに笑顔で説明した。
発現されたツルたちは、赤ちゃん誕生を区切りに一気に枯れ、フェードアウトしていく。
「こちらの子が、1回目のマッチングで生まれたお2人の赤ちゃんです。旦那様の遺伝情報をメインにした結果のね。この後、次は奥様の遺伝情報をメインにした2回目のマッチングを行いますので、それまでどうぞ存分に可愛がってあげてください」
「はい! ほら、おいで~」
カップルは元気にヨチヨチ歩く赤ちゃんを前に手を伸ばし、優しく声をかけた。
赤ちゃんは笑顔でそちらへと振り向き、好奇心旺盛に(遺伝子的には親にあたる)カップルの元へと抱きついてきた。
ルカがその間、再びドワーフ達を手招きで呼んでは、各自ペンとメモをもってツタの一本一本を見ながら何かスラスラと記入している。
「すごい。僕達によく似た、可愛い子供だ」
「本当ね。みた感じ、至って健康そうよ。こんな事が分かるように魔法を使えるなんて、この相談所の所長さんって本当に凄い技術と魔力を持っているのね」
「だな。お? そろそろ2人目が生まれるんじゃないか!?」
と、旦那の方がルカの姿を見て嬉しそうに呟く。
メモリングはあれからすぐに終わり、ルカが再びプレイルームの一角に仁王立ちした状態で「にんにん」ポーズに移行していた。
「
類似語だが、1回目とは少し異なる呪文を詠唱し、その手に力を込めるルカ。
すると最初と同様、床からニョキニョキと白いツルが伸びてきて、そこから更にカサブランカの蕾や花、穂が芽吹き、そしてサヤから再び同じ大きさの赤ちゃんが生まれたのであった。カップルは1人目を抱えながら、その2人目の子を驚き顔で歩み寄る。
「2人目だと、また違う感じの子が生まれるのね!? 不思議~」
「あれ!? この子、髪の色が僕達より明るくないか!? なぜに!?」
と、ここでカップルの片方である旦那からの疑問だ。
カップルの毛髪は、ともに黒髪である。となれば1人目も黒髪の子がこうして生まれてきたわけだけど、2人目はどういうわけか金髪の子が生まれたのである。
その頃。ルカは2回も魔法を使ったからか、自らの膝を杖つく体で息を切らしていた。
「あっ… だ、大丈夫ですか!?」
「いやだ、すごい汗! もしかして、無理させちゃったかしら?」
「はぁ… はぁ… いえ、大丈夫です。こういうのには、慣れていますから」
そういって、呼吸を整えてからスッと背筋を伸ばすルカ。
彼が発動する魔法は、1度につき大量のHPを消費する。それが2回も続いているので、そりゃ汗だくにもなるわけだ。という設定はともかく、ルカが2人目について説明した。
「憶測で語るわけにはいかないので、2回目の遺伝情報メインである奥様に質問します。奥様のご家族、たとえばご両親や兄弟といった近親者に、その子と同じ金髪あるいはそれに近い髪色の方はいらっしゃいますか?」
「あ、はい! います。父がそうなんですけど」
「なら、その子はそのお父様の遺伝情報を濃く受け継いだ『隔世遺伝』の可能性がありますね。見た感じ、お子さん2人とも特に言語の発達や身体的異常は見当たらない様ですし、あとは窓口で検査結果の紙をお持ちし、そちらで詳しく説明致します。どうぞ、お子さんを連れて窓口でお待ち下さい」
ルカが穏やかな表情でそう話す姿はまるで、先程までの疲れなどなかったかのよう。
ともあれ、ここでは所長のいう通りカップルが2人の生まれた子供を連れて、最初に相談した窓口まで戻る事にする。
その時だった。
サラサラサラ~…
「きゃ! いやだ、だめ…!!」
「そんな!」
奥様が抱えていた方の1人目の赤ちゃんが、笑顔を見せたのを最後に全身砂と化し、その場で散り散りに崩れていったのだ。
白くサラサラとした砂になって落ちていくその姿は、まるで一時の夢が終わりを告げたかのよう。奥様がハッとなって急いで砂をかき集めようとした頃には、砂は魔力の消滅によってフェードアウトしていったのであった。
「あ。先の注意書きにも目を通してもらっている通り、僕が魔法で生み出した赤ちゃんは、時間経過で砂となって消えていくんですよ。なので、そちら2回目に生まれた子もそろそろかと思います。本検査はあくまで『シミュレーション』ですので」
「くっ…!」
旦那が、今のルカの振り向きざまなる説明に歯痒い表情を浮かべた。
自分達の中では理解していたつもりでも、いざその瞬間を目の当たりにすると、生まれてくれた可愛い子が砂となって“死ぬ”姿は怒りや悲しみを覚えるものなのだろう。
だけど、先の書面に同意してしまっているのだから何も言えない。その上でマッチング料も支払っている。彼らは揃って肩をすくめたのであった。
ルカがこの相談所で書面を用意したのは、こういった時のためのトラブル防止も兼ねているのだ。
――――――――――
「お2人が生まれたお子さん達をあやしている間、僕が芽吹かせた植物をスタッフ数人が凝視しながら、何かしらメモを取っている姿が見えたかと思います。その検査結果が出ましたので、こちらの書類をお渡ししますね。どうぞお受け取り下さい」
窓口で各自、元の席へと座り、再び相談の構図になったワンシーン。
ルカが、ドワーフの1人から手渡された書面を2式手に取り、それをカップル1人ずつに提示した。そこには少し難しい単語や、数字の羅列が等間隔に刻まれている。
ちなみに、2人目の赤ちゃんはこの時点で1人目と同様、砂となって消えてしまった。
「これは?」
「お2人の
「はぁ。それって、えーとつまり?」
「こちら提示したそれぞれの書面を見ても分かる様に、旦那様のα値は255と極めて高く、対する奥様は-27という数値が出ています。これはつまり旦那様が『α属性』であり、対する奥様はマイナスなので、その逆である『
実はこのα値の差が大きいほど、お2人の間に生まれてくる子は健常かつ、強く優秀な個体が生まれやすいんですね。なので今回の検査結果では、お2人が心配されているような事は起こりにくいと考えてよいでしょう。良かったですね」
「はっ…!」
カップルは揃って安堵の表情を浮かべた。
近親関係だから、生まれてくる子がどうなるか心配だったとはいえ、ルカからそのような結果が出され緊張が解けたのか。2人はお互いを慰める様に抱擁したのであった。
その姿をルカがなお冷静に見据えながら、こういう。
「そうそう。最後に、お2人にぜひお伝えしたい事があるのですが」
「「?」」
「2回目の発芽のさい、奥様のお父様の隔世遺伝で、金髪の子が生まれましたよね? これも先程申したように、奥様の特性であるΩ属性でごく稀に見られる現象です。ここからは僕の推測になりますが、恐らく奥様のお父様が、極めて高いα値をお持ちの方なのでしょう。
将来、本当に生まれてくる子供も、ごく稀ですが隔世遺伝で親に似つかない子が生まれる可能性があります。その事は念頭に入れておいてください。それと」
「それと…?」
「今回の検査はあくまでシミュレーションの一環であり、確率の問題です。お渡しした検査結果によって、必ずしも健常なお子さんしか生まれないとは限りません。酷なお節介になりますが、もし万が一、お子さんの身に何かしら奇形や障害があったとしても… 子供や配偶者に罪はありませんから、家族一人一人を『命ある人間』として敬い、尊重し、そしてお子さんを大切に育ててあげて下さいね。
お2人が今後、よりよい夫婦生活を送れる事を、心から願っています」
それが、ルカからの温かいアドバイスだった。
その瞬間、カップルは揃ってブワッと目じりから涙を浮かばせ、深く頷く。
ともに不安だったものを、1人の少年が全て弁明し、解消へ導いてくれたのだ。今回の検査で、どれほど報われた事だろう? こうしてカップルが嬉し涙を浮かべ、再び抱擁する姿を、ルカは温かく見守ったのであった。
――――――――――
「「ありがとうございましたー!」」
「こちらこそ、お気をつけて。また何かあったら、いつでも相談にきて下さいね~」
こうして、一組の新婚カップルによる検査をまた1つ終えたルカ。
客が帰っていく姿を玄関前で見送ったあと、相談所内へ戻ると、テーブルにはギルメンのドワーフ達が用意してくれた配膳がお盆ごと置かれていた。昼休憩である。
「デンダさん。先月のサンプル数は幾つ?」
そういって、チェアに腰かけるルカ。食事前に確認したい事があるので、手に紙とペンを持って、別の部屋で無数のフォルダ管理をしているドワーフの1人デンダに声をかけた。
「36、ですね」
とのこと。ルカは「36ね、了解」といい、すらすらとその事をメモしてから漸く「いただきます」の体制に入ったのであった。そこへ、
コンコン。
「おじゃまします。ルカ、今日もお仕事お疲れ様」
隣の部屋から、焦茶髪のぱっつん頭が特徴の女性が訪問してきた。リリーだ。
ニンジャがファーのついたジャケットを羽織っているような恰好のルカとは対照的に、リリーはロシアの民族衣装を全体的に黒く染めたような、ゴシックな身なりをしている。隣の部屋で、占い師をしているからその恰好なのだ。ルカが軽く挨拶した。
「そちらこそお疲れ様です、姐さん。その手に持っているものは?」
「ウフフ。さっきうちへ来てくれたお客様が、このギルドのメンバーみんなにってくれたお土産のクッキーなの。良かったら、あなた達も1個ずつもらって」
「おー! ありがとうございやす!」「嬉しいねぇ、どうもどうも~」
と、ドワーフ達も笑顔でリリーからクッキーを貰いにいく光景が垣間見れた。
ルカは安堵し、ついでに自分もリリーから個包装されたクッキーを貰う。
「ふぅ。最初は不安があったけど、案外、この異世界でのスローライフも悪くないかもね」
なんて、あれからすぐにリリーが言うものだから、ルカは肩をすくめた。
リリーも同じく昼休憩なので、同じテーブルでルカと向かい合い、自分達の食事を頂く。
「この国の女王様が、僕達の暮らす環境を提供してくれたお陰ですよ。異種間の付き合いなんて、僕達の元きた世界でさえ何かしらトラブルは発生するというのに、それよりもっと顕著であろうこの異世界で女王様が全て1人で取り纏めたっていうんですから」
「えぇ、本当に凄く頑張ってるわよね。ここの女王様。私達と同じ、現代の日本から突然理由も分からず転移させられたというのに、今日までよくやっていけてるなぁと思うの」
「うん。だからこそ、こうして暮らしの場を提供してくれているせめてものお礼として、僕達ギルド内で仕事しているわけですけども。
しかし酷な現実ですよね。確かに不便かもしれないけど、この異世界に住みはじめてから、元きた世界のおかしい所がどんどん脳裏をよぎる様になってきて」
「えぇホント。元きた世界がいかに生き辛い環境だったのか、その洗脳からだんだん解かれていくこの違和感に、できれば気づきたくなかったわ」
「まったくです。うっかり生放送中に『キチガイ』という単語を一度発しただけで、あっという間に炎上して謝罪やら違約金やら請求されて? そうやって、やれ利権だスポンサーだって一々周りに怯えながら暮らしていたら、そりゃ人間キャパオーバーで鬱にもなりますって。ある意味、社会構造が複雑すぎるのも考えものですよ」
そういって、ルカはロイヤルゼリー入りのジュースを飲んだ。
先程までの職業柄、デスクワークとは思えないほど重労働なので、希少価値の高いロイヤルゼリーでスタミナ回復である。ふと、リリーがこう質問した。
「この仕事は、今後も続けていく予定なの?」
「もちろん。同じ世界軸から転移してきたあのヘルが、近く医療法人を立ち上げ、この異世界でのDNA鑑定を実現化させるまで、暫くは僕のこのオメガバース鑑定が主流になると見込んでいますから。
とはいえ、こうして僕達2人で法政ギルドを立ち上げ、国の法律や秩序をある程度作ってからはもう、暇で暇でしょうがないですもん! 次は何をはじめようかな~」
「うふふ、確かにね。最初に大きい仕事を一度こなしてからはもう、ねぇ?」
なんて、共に苦笑いを浮かべるルカとリリー。
と、そこへ同じく昼休憩中であるギルメンのデンダが、ルカへとかけよってこういった。
「所長。お昼休憩中に失礼します」
「ん?」
「今、玄関を見たら何人ものカップルが並んで、長蛇の列を成している状態でして…! 中には同性のカップルもいらっしゃいましたから、きっと噂をきいてかけつけてきたものかと。こりゃ大忙しになりそうですぞ」
そういうデンダの顔が、とても心配そうである。
丁度配膳も空にした事だし、ルカは「あぁ、オメガバースが適用されるからか。OK」といって胸を張った。
リリーも部屋の壁にかけられた時計を見て、食器の片づけに移行したのであった。
「時間が経つのはあっという間ね。さて、私もそろそろ行こうかしら」
「無理しないで下さいね」
「それをいうならルカこそ」
「なに、僕は大丈夫ですよ。さてと」
ルカはそういって、立ち上がると同時に大きく伸びをした。
ロイヤルゼリーも飲み切ったので、体力も全快だ。彼は笑顔でこう続けた。
「姐さんも知ってるでしょう? 僕、こう見えて連戦できるガラですから。
う~ん… よし! 午後も張り切っていくか!」
ここは、様々な種族が住まうオリエンタル・ワンダーランド。
その中の王都、法政ギルド内にある「マッチングのタネ相談所」。
現代異世界から転移してきた少年・ルカが運営する、白を基調とした広々としたスペース。
そこでは今日も、自ら司るカサブランカの魔法と元きた世界の知識を生かし、マッチングのタネでカップルの未来をシミュレートする業務に勤しむのであった。
(完)
マッチングのタネ相談所へようこそ! Haika(ハイカ) @Haika
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