人造人間割増導入法

和音



 日本全体の合計特殊出生率が1を切ってからはや数十年、子供の数が減っていることが明らかに目に見えてきた。産婦人科や幼稚園の数は半分以下になり、遊園地でさえ子供連れの家族が珍しくなった。ほとんどの小学校が十分な生徒数を確保できなくなり、一つのクラスの人数が片手に収まることも当たり前になってしまった。


 そんな中、ある高名な学者が一つの問題を朝のニュース番組の特別ゲストとして提起した。長く専門用語に塗れたそれを簡単にまとめると、小学生時代に同い年の少ない環境で育つことにより初対面の相手とのコミュニケーション能力に障害が発生する確率が高くなるという事らしい。ただでさえ低い出生率がほぼゼロに近づいてしまう、と良く分からない数式やグラフを用いて熱弁していた。


 このことは国民に不安を与え、政府に苦情が殺到した。国会の議題の大半がこの問題を占めるようになり激しい話し合いの末、一つの解決策が誕生した。それが人造人間割増導入法である。本当は没になった案の一つなのだが、少子高齢化が進みきったことを体現するような、杖がないと歩けないようなしわだらけの総理大臣が間違えて持っていき、激しいフラッシュの前で決定事項として取り扱ってしまった。そのため仕方なく可決されたのだ。


 人造人間割増導入法により小学生にそっくりのロボットが全国の小学校に運び込まれていった。見た目では人間との違いが分からない程に柔らかく透き通った肌や、豊かなあどけなさの隠れる表情。人間の食事からエネルギーを補給し、けがをすれば血液のようなものが流れ、風邪を引けば日にも焼ける。実際の小学生のように成長していく高性能のロボットは税金と引き換えに大量生産されていった。


 子供は欲しいけど結婚できない多くの人たちの家に住み着き、小学校からは前のように元気な声があふれだした。子供のためという目的が出来たことにより外出する若者が増え、外出することにより出会いが増えて結婚率が急上昇した。日本中に活気が戻っていき、街中で当たり前のように子供を見るようになった。電車の中では赤ちゃんが元気よく泣き叫び、近所の人たちが子育てに協力した。日本の人口は少ないながらも確実に増えていき、ついに数十年ぶりの一億人を突破したのだ。

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