序章-04 《 極秘会議 》

——— 2012年


都内某所にある超高層ビル。

その地下14階で人知れず極秘の会議が行われていた。



ドリームランドには世間に知られてはならない裏の顔がある。


国家において、あらゆる権力を持つ機関を内部からコントロールする力を持つ秘密結社。

Dream Program Agency、通称DPAと呼ばれる組織だ。



そしてその中でも限られた者のみが参加できる超極秘の執行部会議。



会議室に入る前に、複数のセキュリティチェックが待っている。


通信機器の類いを持ち込むことは制限されており、指紋認証や網膜スキャン、心拍数や発汗量を計測。


そして最後にポリグラフ検査をパスした者だけが会議室のドアをくぐることが許される。



一つでも引っかかった者は会議に参加することが出来ない。


それは例え執行部内の序列が高位の者であっても例外は一切認められない。


秘密保持の観点から、このルールは皆に平等に課せられる。




この日の議題は《NEXTの確保》


現在、【M適性】を持つ囚人は僅か2名。

いずれも個体としての体力や強度が低下しており、限界が近いことが懸念されている。



現在の2名がパフォーマンスを落とさずにマイキーを演じられるのは最長でも6年と予想される。


その間に何としても新たな個体を確保する必要があった。



DPAでは国内にいる全ての人の細胞をサンプリングしており、それは本人の現在の細胞とリアルタイムで連動している。


凶悪犯罪を起こす者の多くに見られる先天性の特殊細胞。

通常時は大人しくしているこの細胞だが、犯行を決意したタイミングで、急激に細胞分裂をはじめる。


いや、急速な細胞分裂により犯行を決意するという可能性もある。

こについては未だに明確にされていない。


しかし、この分裂が始まったタイミングから数時間〜数日のうちに、細胞の持ち主はほぼ100%が犯行に及ぶことが研究によりわかっている。



その細胞を持つ者をDPAでは衛星を使って常に監視しており、細胞分裂が始まるとアラートが発生し、現場にエージェントが派遣されて直接監視する段階へと移行する。


そのため日本各地にDPAの支部があり、更にエージェントたちは各個人のオフィスを本部や支部とは別の場所に持っている。



この細胞監視システムにより

DPAでは【M適性】を持ち、その上でこの特殊細胞を持つ者の存在を把握してはいるが、

年齢は50代後半のため、仮に今犯行に及び確保に至ったとしても根本的な解決にはならない。




——— ドリームランドは、カリフォルニア、フロリダ、東京、パリ、香港の計5か所にある。


国は違えど同じ組織あるため、必要とあれば囚人のレンタルが可能だ。


しかし、【M適性】はどの国でも貴重なため、レンタルリストに上がることはまずありえない。



そして他国に貸しを作ると、国際会議の場において発言力が弱まるため、どの国も国家間での囚人の貸し借りは極力控えている。




現状打破の解決策が見当たらずほぼ手詰まりの状態だった。


切れ者揃いの執行部の面々が一様に頭を抱えていたそのとき、本国から通信が入る。


会議室のモニターにテレビ電話の映像が映し出された。


そこにはカリフォルニア総本部にいるDPA創設者の一人で、日本のDPA長官である柳隆二(ヤナギリュウジ)の姿が映っていた。


頭を抱える幹部たちに柳は解決策を授ける。


「【S】確保作戦を許可する」



会議室が一瞬ザワついた。



本来DPAは凶悪犯を労働力として再利用するために作られた組織である。


しかし、組織存続の要であるドリームランド。

この運営のためにはマイキーの存在が不可欠。



【M適性】を持つ中で適性個体が犯罪者予備軍の中に居らず、更に現マイキーのタイムリミットが迫っている条件下においてのみ、


【M適性】をもつ、" 無実の一般人 "をターゲットにすることが例外的に認められている。


この一般人のことを隠語で【S】と呼ぶ。



この例外的措置は、組織を根本から揺るがす可能性を孕んでいるため、一般職員には知らされず、執行部のみが扱える最高機密として管理される。



強大な権力を行使して罪を捏造し【S】を死刑囚へと仕立て上げる。



本人だけでなく、その家族を含め多くの人生を変えてしまう禁断の方法。



これは過去にたった一度だけ、パリで行われたことがある。

国内では初の試みのため、慎重に計画を立てていく。



——— 長時間の話し合いの末、罪状は確定した。


《外患誘致罪》


これは日本の法律の中で、法定刑が死刑のみの数少ない罪状だ。


つまり有罪が確定した瞬間にマイキーとして活用することが可能となる。




また、この罪は未遂で終わった場合でも死刑となる。

そのため、実際に攻撃が行われたという事実を作らなくとも、計画を掴み未然に防いだということでターゲットを死刑にすることができる。



この作戦はDPAとしてもリスクは大きいが、全て成功すればSの確保により、当面の心配はなくなる。



失敗の許されないこの作戦

キーマンとなるのは松本周平という今年研修を終えたばかりの新人アナリストだ。



彼をどう動かすか、それがこの作戦の肝となる。


ドリームランドそしてDPAの今後を左右する重要な作戦のため、

かかわる人間の分析も徹底して行われる。



これから慎重に準備と仕込みを重ね、実行は2年後と決まった。


9時間超にも及ぶ緊迫した会議の末、参加者たちは静かに席を立ち会議室を後にする。



中には苦渋の決断に、辛い表情を浮かべる者もいた。

各々様々な想いがあるが、【S】確保に向けて動き出した。

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